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#80 全部落ちた、オンライン英語教師

オンライン会議や授業に、本当に感謝している。2021年に立教大学に社会人大学院生として入学したが、授業も研究室のゼミも、学位取得までほぼすべてオンラインだった。フルタイムで働きながら学んでいた会社員にとっては、オンライン環境は大変ありがたかった。


英語を教えることなら

ドイツ行きが決まった今年3月、会社も退職して収入がなかったことから、ドイツ留学の準備をしながらでも働ける「オンライン英語教師」をやろうと思い立った。英語の指導なら、中学生・高校生の学校の補習に受験対策、大学生や社会人の TOEIC 対策、あるいは英語で論文を書く大学4年生のアドバイスもできる。求人サイトに登録して、合計5社くらいのオンライン英語教師に応募した。


収入は 「?」 の連続

求人情報を見ていて、思い出したのは自分が最初に大学生塾講師をした、1990年代前半のこと。東京都内より時給相場が低いと言われたつくば市で、塾講師や家庭教師の平均時給は、2,000円〜2,500円だったように思う。それから約30年が経ち、アメリカやヨーロッパの多くの国では物価と給与水準がほぼ二倍になった。物にもよるが、日本の物価はそれほど変わっていない。
 そして、オンライン英語教師の時給を見て、唖然としてしまった。データに基づいた数字ではないが、時給の平均値は1,500円〜2,000円、30年前よりも安くなっている感じだ。思い込みでないことを示すために、この記事を書いている2023年10月30日に届いた求人一覧のスクリーンショットを載せておく。

2023年10月30日のインディード「英語講師」求人

ところで、現在のドイツの最低賃金は12ユーロ。現在の為替レートでは、約1,900円になる。ドイツ人の友人の娘さんが先日、自宅近くのレストランで皿洗いのアルバイトを始めた。時給は最低の12ユーロだそうだ、つまり1,900円である。物価が違うので単純比較はできないが、日本で英語を教えるという「そこそこ知的な仕事」と、お皿を下げて食器洗い機に入れる仕事の給料がほぼ同じ額ということに、少しだけ複雑な気分になった。

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条件も 「?」 の連続

二十歳前後でもらっていた時給より安い時給で働く気にもなれず、時給3,000円以上のところを探して応募した。中でも印象的だったのは、時給4,000円だったと思うが、応募条件の要求が非常に高かった企業だ。名前は出さないが、全てを満たす必要があった応募条件は次のような内容だった:

・英語教育分野で修士号以上を取得していること
・英語圏の海外大学院留学経験が1年以上あること
・中学・高校両方の英語科教員免許を所持していること
・中高生への英語指導経験があること
・社会人への TOEIC 指導経験があること
 ☆TOEIC L&R 990点満点を取得していること(満点は1,000点ではなく990点)

これを「全て満たしていること」が応募条件だった

これ、全部満たす人はどれだけいるのだろう……と思いました。

僕は上の条件を全て満たしていたので、意気揚々と応募ボタンを押すと、「TOEIC 990点満点が応募条件です。本当に満たしていますか?」という確認メッセージが表示されるという念の入れ方だった。満点は二度取れていたので(まぐれではない)、確認ボタンを押し、結果を待った。

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さらに反応も 「?」 だった

条件が異様に厳しい上の一社を含めて全部で5社ほど応募し、次の結果だった。

ある一社: 不採用通知あり
残り全部: 返事なし(上の強気な会社もこちら)

つまりほぼ、応募を「無視される」という結果に終わった。これは別に、すでに採用が決まってしまったから返事が来なかったわけではない。最新情報を見ても、募集は継続されている。求人サイト経由で応募しているので、メール不達ということでもない。つまりは純粋に無視されたわけだ。
 ひょっとして上の強気な会社、「当てはまる応募者はいないだろう」との前提で、何かの補助金申請のために「求人をかけている」実績が必要だから形式的に出した求人だったのか?と想像してしまった。

とにかく、オンライン英語教師は、全部落ちた😢


因果応報

しかしそこそこ経験があると、無視された理由が分かる。説明させて欲しい。そして、もし「返事なし」の会社の人がこの記事を読んでいたら、僕は無視されたことはもう気にしていないので、忘れて欲しい。

母校の甲陽学院の現校長である今西昭先生が、以前同窓会誌に書いてらっしゃったが、「優れた指導者」と「指導が上手な人」は実は常には一致しない。生徒の力が伸びるという「結果」が大切なことには違いないとしても、その「結果」が「指導の上手さ」によってもたらされるとは限らない。どういうことがもう少し噛み砕いてみる。

大学生がアルバイト講師として塾などで教える場合を考えよう。中高生の生徒からみると彼らは、「あこがれの先輩」だ。自分の志望大学で学んでいる大学生講師なら、なおさらそうだ。そんな先輩の指導は、たとえ知識・技術的に未熟でも、やる気を大いにかき立ててくれる。
 勉強は結局自分でやるものなので、未熟な指導でも、その結果生徒がやる気になれば結果は出る。僕が学生時代つくば市内で塾講師をしていた時は、いい時で時給4,000円を頂いていた。それは、経験豊かで指導が上手という理由ではなく、「大学で楽しそうに研究活動をしているいい先輩像」に僕が合致していたからだ。

重要度が「あこがれの的となりうる先輩像」>「指導力」という価値観もあり得る

その学習塾では、講師の採用にも少しだけ携わった。当時も、40歳を過ぎた人の応募がぽつぽつとあり、何らかの理由で会社を退職、教員免許があるから塾講師として働きたい、ということのようだった。
 そういう場合、大変申し訳ないのだが、僕と当時の事務長(僕の note フォロワーの一人!)は彼らをほぼ全員お断りした。「生徒のやる気をかき立てる存在になり得ないから」という理由だった。つまり、おそらく今回僕が落ちたのと同じ理由で、自分が昔たくさん落としたのだ。これは因果応報だな……と感じた。

今回無視された会社は、無視するしかなかったのだと思う。なぜかと言えば、「あなたは〇〇の理由で不採用です」と合理的に説明できる理由が僕側になかったからだ。今の時代、応募者が「年齢を理由に不合格にされた」と感じるような対応をすれば、問題になりかねない。だったら、システムの不都合で応募が届かなかったことにして無視するのが一番だったのだろう。


卒業証書をもらったつもりで

こんな「無視対応」をされたことを、実は嬉しく思っている。なぜならそれは、「あなたがすべき仕事は、生徒に英語を直接教えることではなく、未来の先生方が、未来の生徒に外国語を教えやすい教育システムや制度、AI との理想的な分業をつくることです」と証明してくれたのとほぼ変わりないからだ。応募を無視されたことは、「現場英語教師からの卒業証書」をもらったことだと解釈して、自分に与えられた次の仕事に進んでいきたい。

今日もお読みくださって、ありがとうございました🖥️
(2023年11月2日)


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