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#49 北欧で見かけた「ありのまま」とその先

10年以上ぶりに北欧、フィンランドへ行ってきました。音楽業界の仕事で行っていた頃は、「代理店で売上のチェックと販促イベントをしたら、はい次の都市!」みたいな旅だったので、街の細部を観察することができませんでした。



ELLIS Doctoral Symposium 2023

フィンランドでは首都のヘルシンキに滞在し、主に隣町エスポーにあるアールト大学(Aalto University)で行われたシンポジウム、ELLIS Doctoral Symposium 2023(EDS2023)に出席してきました。シンポジウムの内容や雰囲気については、後日改めてご紹介したいと思います。今日の内容は主に、シンポジウムに集まった AI 研究者たちに対して行った人間観察です。

エスカレーターに乗れない

フィンランドでは、ヘルシンキ地下鉄の Kamppi 駅近くのホテルに滞在していました。ある朝アールト大学へ向かう時、「あれっ」と思う瞬間がありました。20〜30代と思われる女性が、下りエスカレーターの上で立ち尽くしているのです。一歩踏み出して乗ろうとするのですが乗れずに戻り、また片足を出すのですがやはり乗れずにまた戻りを繰り返していました。ヘルシンキ地下鉄は深度が深く、エスカレーターも長いので、上から見ると確かに少し怖いです。

ここで、「あちらにエレベーターがありますよ」とか「大丈夫ですか?」とか声をかけることもできたのですが、誰もしません。彼女は一生懸命乗ろうとしていたからです。毎朝エスカレーターに乗れずに辛い時間を過ごしているのだろうか、でもエレベーターを使わないということは、彼女なりの意味があるのだろう、と思いました。

ヘルシンキ地下鉄は、世界最北の地下鉄(ウィキペディア日本語版より)

胃のご機嫌をうかがう毎日

研究会でよく話した人の一人に、大学病院でMRI 画像診断の AI 支援ツール開発をしている人がいました。彼女はクラシックバレエをやっており、「くるみ割り人形」に出演した時の動画も見せてもらいました。バレエの舞台で着る衣装や、自身の冬用コートも自分でデザインして生地から作ってしまうという多才な彼女ですが、一つ弱点があります。
 胃が弱く、食べ物によっては全く受け付けないのです。フィンランドへ来ても、自分の胃がどんな食べ物なら受け付けるのか相談しながらの毎日で、訪問した土地の食べ物に何でもチャレンジできる人が羨ましいとのことでした。その割にはパーティー好きで、毎晩遅くまで飲んでいたのか、朝「おはよう〜」とあいさつする時はたいていガラガラ声でした。

2時間しか連続して眠れない

次は、シンポジウムに一人だけ英国ケンブリッジ大学から参加した彼。発表の際には麻のジャケットにネクタイを締め、低音を少し強調して話すところは英国紳士の品格がありました。しかし彼は、連続して眠れるのが2時間までだそうなのです。水分をひかえても2時間毎にお手洗いに起きてしまうので、長時間の熟睡はできないと話していました。
 その睡眠パターンでどうやって体調を維持するか、自分のレムーノンレム睡眠のサイクルを測定したり、そのサイクルから何時に寝て何時に起きるのが一番いいか色々試したりと、かなり苦労しているようでした。

たいてい機嫌悪いです

3人目はロシア出身の彼女。研究分野が近いのでよく話したのですが、とにかくいつも機嫌が悪いのです。

 僕:研究分野は自然言語処理だって言ってたよね?
彼女:だから何?
 僕:(そんな言い方しなくても……)

 僕:昨日のポスターセッション、君の発表を聞きにいけなくて残念だったよ。
彼女:そりゃ、あなた私の隣のブースでずっと自分が発表してたもんね。
 僕:(そんな言い方しなくても……)

大抵こんな感じなのですが、そんな彼女が最終日、顔を真っ赤にして現れました。サウナ体験やトレイルウォーキング、ランニングなど、いくつかのグループに分かれて野外活動をした後のことです。

彼女:サウナ最高だった〜湖で泳いだのよ ^^(1週間で初めて見せた笑顔)
周囲:(自分が楽しいときは機嫌いいのかい……)


ありのままの、その先へ

最近、「ありのまま」ってどういうことだろう、とたくさん考えました。「ありのまま」ではない姿を目指して頑張り過ぎると疲れてしまう。でも「今のまま」でいると進歩できない自分を見て苦しい。「本来の自分」を表に出すために頑張るのなら、しんどくならないのだろうか……

少しだけヒントを見つけた気がしました。それは上の4人〜エスカレーターに乗れない彼女、いつも胃のご機嫌を取らなければならない彼女、2時間しか連続して眠れない彼、そしてたいてい機嫌が悪い彼女〜4人ともその部分はそのままで、ある種「人に合わせてもらう」ことで、その先へ問題なく進んでいたのです。エスカレーターの彼女とは話したわけではありませんが、おそらく通勤はどうにかこなせているのでしょう。

彼らは決して周囲に対して申し訳なさそうには振る舞わず、周囲もその部分には注目しません。誰かがマイナス方向に異なる時は、「ありのまま」を認めて、代わりに自分のマイナス面も認めてもらい、各人のその先の目標に向かっているのが印象的でした。
 「ありのまま」でいいとする方が自分らしくいられる、あるいは「ありのまま」で満足すると止まってしまうという観点ではなく、その先に視線を向ければ、「ありのまま」の部分は当たり前に飛び越えてしまう、そんな感じでした。

*     *     *

シンポジウムに参加した3人とは今後も交流があると思いますが、1人目のエスカレーターに乗れない彼女にも、ここでお礼を言いたいと思います。あなたがエスカレーターに乗れても乗れなくても、他の方法で地下鉄に乗れるなら別にどうでもいい。ありのままでよく、どうでもいいから、飛び越えて先へ行ける。

今日もお読みくださって、ありがとうございました 〜 Kiitos! 🇫🇮
(2023年9月3日)

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