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俺たちのマンハッタン

チャイムが鳴ると、私は制服のスカートをひるがえして走り出す。理由は一つ。

ーー売店のマンハッタンを求めて。

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福岡で愛されているパンの一つといえば、菓子パンのマンハッタンだ。
さっくりとしたドーナツ生地にチョコレートがかかった菓子パン。なんとそのカロリーは、ゆうに400kcalを超えるという高カロリーなパン。

まあ、菓子パンが高カロリーであるということは、どの世界でも周知の事実なので、そこら辺に転がしておいてほしい。ちょっと大袈裟に言ってみたかっただけ。袈裟は着たことないけど、着るならジャストサイズがいいよね。

マンハッタンは一つでおなかいっぱいになり(個人差あり)、そして美味しい菓子パン。オールドファッション系のドーナツ生地にチョコレートがコーティングされている。周りでマンハッタンを食べたことがないという福岡県民の話を、私は聞いたことがない。

私が通っていた高校の売店には、もちろんマンハッタンが置いてあった。私はマンハッタンを見つけるとマンハッタンを買った。

そしてもう一つ好きなパンがあった。私的にマンハッタンと人気を二分するパン。それは大きか銀チョコだ。柔らかいパンにミルク風味のクリームが挟んであり、そちらも全体にチョコレートでコーティングしてある。こちらも400kcal超えの高カロリー。

この人気のパンを買うために、私はチャイムと共に、売店までダッシュした。

高校二年生の時の教室は、なんと売店から一番近い教室だった。焦らずとも買える。こちらにはアドバンテージがある。余裕のよっちゃんだし、アドバンテージのアドちゃんだ。

しかし、高校二年生では余裕だった売店への道のりが、進級した途端、かなり遠いものになった。売店から一番遠い教室になってしまったのだ。最高学年なのに、まるで一年生のようにチャイムと共にダッシュしなければ、マンハッタンや銀チョコは買えない。しかもダッシュしたとて、手に入れることができないかもしれない。望まぬパンを手に入れて教室まで帰らないといけない可能性がある。

私は下がりくるルーズソックスを上げながら、廊下を走った。マンハッタンを求めて。

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そんな思い出があるマンハッタンが50周年を迎えたらしい。
めでたい!パフパフ!

菓子パン大好き三毛田さんがマンハッタンがうまいよという記事を書いてらっしゃった。私の理解では400kcal超のマンハッタンが三毛田博士によるとなんと0kcalとのこと!なんだよ〜。カロリーの心配なんかせずに、めっちゃ食べれるや〜ん。久々食いてーなーと思ってたら、抹茶もあるらしいよと教えてもらった。抹茶味を探し求めたけれど、一向に見つからず。見つからないなぁと思いながらも、ノーマルなマンハッタンは手に取らなかった。私は抹茶味のマンハッタンを求めては、スーパーやコンビニに行くたびに菓子パンのコーナーをさまよった。

それはまさに、マンハッタンゾンビ。
深夜のウォール街をさまよい続けているという謎ゾンビ。上から下まで全身黒ずくめで、暗闇に溶け込み、ぎろりと見開いた白目に皆、恐怖する。マンハッタンを見つけるや否や口いっぱいにそれを頬張る。にやりと笑った口元は、お歯黒のようにチョコレートがべったりとついていて、人々を更なる恐怖に陥れるという噂のゾンビだ。とにかくマンハッタンへの執着が凄まじく「マンハッタン〜。マーンハッタン、マンハーッタンはどこじゃ〜。俺たちのマンハッタンをよこせ〜。抹茶マンハッタンはどこじゃ〜」とバスドラム並の重低音をウォール街に響かせる。

私は恐ろしいマンハッタンゾンビになりかけつつ、コンビニをさまよっていると、なんとプレミアムマンハッタンを見つけた!抹茶味は見つからなかったが、キラキラと輝くマンハッタンの夜景のような輝きを私は見つけたのだ。

なにこれー。豪華っぽい!と早速購入。

50周年おめでとー
ナッツがついてる
せっかくだからコーヒー入れてみた
どっかのホテルから持って帰ってきたやつ
マンハッタンをお皿にのせてみた
食器はばあちゃんちからパクってきたやつ


私はコーヒーを入れてから、プレミアムなマンハッタンを1口かじる。

あ、唾液が吸い取られていく。

干からびかけていたゾンビの唾液をも容赦なく吸い取っていくマンハッタン。想像しているより少し固めでしっとりしている生地。腹を満たす高カロリーな雰囲気。これだよこれ。これがマンハッタンだよ。干からびかけていたゾンビに高カロリーが投入され、生命力がみるみるうちに回復していく。

これが美味かったんだよな〜となんだか高校生時代を思い出して感慨深くなった。そうだよ。私は生まれた時から43歳ではなく、キラキラした高校生の時代もあったんだ。思い返してもキラキラしてる思い出はみつからないけれど、たぶんキラキラしてたはず!
そんなことを考えるとプレミアムなナッツが、急に輝いて見えた。

口の中の水分をマンハッタンに持っていかれた後、私はコーヒーをゆっくりと口に含む。

ブラックコーヒーが飲めるようになったし、今じゃいつでもマンハッタンを食べられるんだぜ。
私は真っ白いルーズソックスを履いていた四半世紀も昔の私にマウントをとりながら、50周年記念のプレミアムマンハッタンをたいらげた。


俺たちのマンハッタンは、いつでも思い出の中で輝いている。









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