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天敵は、黒いアイツ。

残念!
そっちのアイツではありません。

私の天敵は、名前を言ってはいけない黒いアイツでもなく、心に住んでいる黒いアイツでもない。

そう。カラスです。

カラスの攻撃


天敵とは言っても、攻撃をされたことがあるわけではない。
食べ物を持ち去られたこともない。

だがしかし、私にとって、アイツらは天敵なのだ。
なぜなら、奴らは私を狙っている。
そう、確実に。

さて、私の何を狙っているのか。
多分、狙われているのは私自身だと思う。

だってさあ、アイツらは、確実にフンを落としてくるよ。私に向かって。
確実とは言っても、これまでの人生で三度ほどだけど。

それが多いのか少ないのかは、統計をとったことがないのでわからない。
しかし、その三度とはあくまで命中した回数であって、未遂を含めればその数限りない。


天敵をほめるのもどうかと思うが、カラスはすごい。

私の自転車の速度と、フンの落下速度を計算している。
そうでなければ、あんなに確実に、毎度毎度私の横をフンがすり抜けるわけがない。

私の顔の横を通り過ぎ、足元にフンが落ちる瞬間。
ほっとするような安堵感と、首の皮一枚だったという恐怖感が私を襲う。


決戦は、朝8時。


働く母の朝は忙しい。

子どもたちを起こし、自分の支度もし、子どもたちを家から追い出す。


カラスを天敵と認識している私は、可能な限り電線の下は通るまいと決めている。
しかし、カラスの攻撃を受ける朝、往々にして電線の下を通ってしまっている。

なぜなら、その時、私は焦っている。
職場に遅刻せずに到着することができるのだろうか、と。

そんな朝は、
「行ってらっしゃい。忘れ物ない?」
の後に、こんな返事が返ってくる。

「あ!!プリント、今日までに出さんといかんやった」
「あ!!給食袋忘れた!!」
「あ!!習字の道具!!」
「あ!!財布!!」
「あ!!タブレット!!」

おいおい、息子たちよ。
前の日に準備しろと言っとるだろうが。
靴を履く前に、気づいておくれ。

間違いなく3分から5分はロスをする。
ロスタイムでカップラーメンができ上がります。
カップうどんもでき上がります。

そんなこんなで、気づいた時には、もうフンが服やカバンについている。
落とされたという自覚がないまま、仕留められてしまうのだ。


敗者の切り替え


初めてフンを落とされた時は、ものすごくショックを受けた。
けれど、二回目以降はそうでもない。

まあ、落とされたものは仕方がない。
私の爪が甘かったのだ。
今日の勝負は、私の負けだ。

私は諦めて、職場でフンを洗い流す。とりあえず洗えばなんとかなる。
病原菌とかがいたら嫌なので、触らないように慎重に洗い流す。

そして、私はこう思う。

今日は、カラスにフンを落とされたので、宝くじを買おう。

だって、今日は嫌なことがあった。
フンを落とされたんだぞ。
嫌なことの後にはいいことがあるはずだ。
せっかくウンがついたのだ。
もしかしたら、宝くじが当たるかもしれない。
だって、私には運がついている。

という謎理論のもと、宝くじを買うことにしている。


やっぱり、カラスは天敵だ。


昨日、帰りに妹に会った。
妹の肩には鳥のフンらしきものがついている。

「せっかく運がついたんだから、宝くじでも買うといいよ」

と言おうとして、はたと気づく。

私は過去にカラスにフンを落とされた日に買った宝くじが、当選したことが、あっただろうか。
いや、ない。
未だかつて、一度も当たったことなどない。

ということはだ、あの謎理論は正しくない。

カラスは運などつけていない。
つけたのは、ただの糞ではないか。
そう、カラスが落としたのは、ただの糞だ。

私は妹の肩のフンを見つめながら、
なんだかカラスにフンをつけられるのも悪くないなと思っていたのに、やっぱりそんなにいいことでもないなとやっと気づいて、少し寂しくなった。





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