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第3章 01 これまでと、これから

未曾有の人口縮退

 北九州市立大学地域創生学群教授の片岡寛之さん、近畿大学建築学部教授の宮部浩幸さんに招かれ大学生に向けた講義をしています。もう10年近く授業の一コマを担当しているのですが、ここ数年で気がついたことがあります。

 それは、当たり前なのですが、今の学生にとって、この後第3章を通じてお話する「これまでと、これから」の「これまで」の話は違和感で、「これから」の話は当然の如く感じているということです。

 時代の潮目が変わってから物心のついた学生たちにとって、これまでの考え方はほとんど馴染みがありません(ただし親世代からの影響が多少ある)。なので、これまで日本を形づくってきた考え方や精神みたいなものをシフトする時代がやってきたということではなく、学生たちが感じる違和感は当然の違和感なので、自分自身の信念は正しいと思って社会に出ていって欲しいと思います。

 社会に出ると、いろんなことを言う大人がいます。そしてきっとそれらは学生たちにとって違和感でしか無い。その違和感は正しいので、そんな大人の言うことは聞かなくていいんです。

 間違っていること、直した方が良いと感じたことは正した方が良いけれど、未来を見据えたときの考え方は、絶対に若い人の感覚の方が正しいと思います。

 さて本題、ここに日本の人口推移のグラフがあります。およそ平安時代頃の800年から2100年までの推移です。

「国土の長期展望」最終とりまとめ「参考資料」より

 日本の人口が減っていくことはよく知られていることなので特に目新しいものではないと思います。ただ特徴的で衝撃的なのは明治維新以降急激に人口増加が起こり、その後同じ速度で人口が減るという現象です。

 日本は、鎌倉時代から明治維新までは人口は緩やかに増加していたのですが、明治維新以降の人口増加が爆発的です。明治維新を超えて、未曾有の人口増加を経験することになり、その人口増加は2010年頃まで続きます。つまり最近まで。明治維新の時3300万人だった人口は、2010年に3倍程度の1億2800万人となり、約9500万人という激増を経験します。

 明治維新が1868年ですから、約150年間、つまり1世紀半の間、急激な人口増加の中、社会が形成されてきたわけです。なんと年間60万人以上増えているので、2020年国政調査で例えると鳥取県(約55万人)が毎年1つ増えていった計算になります。

 日本文化のルーツは室町時代にあると言われますが、そこから明治維新まではゆるやかにその文化の延長線上で世の中が動いてきたんだと想像します。しかし、明治維新を経て、日本は<世界の中の日本>をより一層意識し、列強諸外国と肩を並べるべく富国強兵から始まる近代から現代への道を歩むことになるのは、多くの人が理解するところです。

 明治初期の「文明開化」の話から、戦後の産業復興を経て経済成長期へ、欧米の技術やノウハウを取り入れ応用し効率化を進めた「追いつけ、追い越せ」、日本経済の黄金期である1980年代を中心とした「ジャパンアズナンバーワン」等、その時期を表現する言葉はポジティブな表現に満ちあふれています。

 つまり日本は、この人口激増の中で、いろんなことを考え、組み立て、社会を形作ってきたという事実があります。個人としても、社会としても、経済成長も、55年体制もしかり。日本が成熟していったとも言い換えられるかもしれません。

 しかし一転、2010年から2100年までの人口推計に目を移すと、実は増加の時と同じ勢いで人口が減っているのです。未曾有の人口増加から未曾有の人口減少へ。ジェットコースターの絶叫マシンの如く、上がって下がるという前代未聞の出来事が既に始まっています。

 ただし、人口減少が悪いというわけではありません。ヨーロッパのように人口減少の中でも生活の質を高めて、各都市の良さと産業を守り育てることに早くからチャレンジしている国もあるわけです。

 人口減少を憂うのではなく、今ここで日本が気づく必要があるのは、「これまで」のやり方を「これから」のやり方に転換できるかどうかということです。人口が急激に増加した中で作られてきた仕組みや体制、考え方、慣習・しきたり。それらを見直す時が既に来ています。

 確かに人口が減りだしたのは2011年、2012年頃から。人間5年位はぼーっとしていると考えると、2017年位まではなんとなくそのままでも良かった。そう考えると本当に最近。ちょっと前までは気づいても気づかないふりで通用する時代だったのかもしれません。しかし、それは日本全体平均の話であり、日本の地方に目を向けると、もう待ったなしです。

 これまでと、これから。考え方を変えないと、もう限界を超えて立ち行かない状況が至るところで様々な問題を生み出して、日本の多様な魅力を知らぬ間に失ってしまうのではないかと危惧しています。

 そんな中、もちろん地方の衰退傾向は加速しています。それに対応しようとしている地方自治体の自主財源比率はどんどん下がっています。対応するにもリソースが限られ増える見込みがない。そんな中、超難問である、さまざまな都市経営課題をどうやって克服していくのか。

 これまでのやり方ではどうしようも無くなっている状況を打破するにはどうしたらよいのか。日本の各地で、これまでの時代に作られた常識ではなく、常識を疑い、これまでの考え方とは違った思考で現実と向き合い試行錯誤するゲリラ的取り組みがいくつも発生しているように思います。

 それらの変化は今、まだまだ主流ではないけれど、日本全国のいろんなところで見受けられ、未来の可能性に向けてチャレンジしている仲間がどんどん増えているように感じています。

 次回は人口が激増していた特殊な時代に出来上がった幻想についてお話したいと思います。


この本全体の目次

はじめに

第1章 21世紀の都市計画家
・自己紹介
・枚方宿くらわんか五六市
・ダーコラボラトリLLP
・株式会社ご近所
・一般社団法人リイド
・株式会社サルッガラボ
・ビーローカルパートナーズ
・STAY local
・株式会社THE MARKET
・ポップベイパートナーズ

第2章 まちづくりとは
・そもそも、まちづくりって?
・まちづくりの誤解
・対処療法は熱しやすく冷めやすい
・まちが衰退する原因
・変遷するまちの役割
・まちには兆しがある
・未来は今ある真実から生まれる
・オススメの作法
・まちづくりとは何か

第3章 これまでとこれから
・未曾有の人口縮退
・みんなという幻想が成立した時代
・個性、能力、才能を活かす時代へ
・人口が減る時代を楽しく生きる法則

第4章 都市計画とは
・都市計画は時代に合わせた処方箋
・21世紀の都市の在り方
・都市の多様性
・しなやかで反脆い都市へ
・多様性を担保し生み出す
・都市経営課題とリソースの問題
・都市計画の主導権は民間へ
・限られたリソースを最大限活かす
・時と共に最適化する仕組み「アジャイル開発」
・人にフォーカス 未来のお客さんを想定する

第5章 少数派がまちを変える
・まちが衰退する原因の裏側で
・身銭を切ってまちを面白がる少数派
・少数派から多数派へ
・「絞って愛情深く」でファンを増やす
・ファンがファンを増やす時代
・ゴールはみんなのために

第6章 地域に新しいチャレンジを創出する
・定期マーケットでまちに革新を起こす
・まちの期待値を高める
・まちの新陳代謝昨日を活性化させる
・定期マーケット10か条
・定期マーケットはプラットフォーム
・【コラム:衰退プロセスと根源治療】

第7章 ご近所を素敵に変えよう
・ご近所のイメージ
・天王寺まで自転車で10分
・バイローカルとは?
・良き商いを守り育てる
・「どっぷり昭和町」
・バイローカルの日
・365日バイローカルマップ
・期待されるまち、選ばれるまちへ
・THE MARKETのおいしい革命
・ご近所の変化、現在進行形のTHE MARKET

第8章 新しい都市計画(序論)
・日常の自己肯定感の低い日本
・大阪の人は京都が嫌い、京都の人は大阪が嫌い
・試行錯誤する上での羅針盤
・建てないことが正義へ
・複合・混合・多様へ
・自分・少数派へ
・行動しながら変化へ
・しなやか・反脆さへ
・小さい(身銭を切る)へ
・内を意識へ
・目に見えないものへ
・未来ありき(playful Driven)へ
・新しい都市計画

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