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第2章 04 まちづくりとは(最終回)

オススメの作法

 未来のまちの価値を想像する上で有効な手法は単純。地域の「要素」を丁寧に読み解くことです。今在る真実から未来が生まれるからには、今をしっかりと読み解いてみることが大切です。そして、それらの要素を未来に向けて変換してみるわけです。もう本当にこれに尽きます。

 商品であれ、お店であれ、人であれ。地域の歴史や伝統、文化風習、産業であれ、とにかく丁寧にひとつひとつちゃんと拾い上げたり深堀りしてみてください。たとえば、使われていない醸造蔵があるとします。何を作っていたのかはもちろん、どんな人がどのように働いていたのか、何故このような大きな蔵があるのか。酒を作っていたということなら、まちとして栄えていた時代があったはずで、それを想像してみてください。

 またその要素と関連する要素も探ってみる。使われなくなった背景があって、それに伴いまちの衰退がある。それらの要素と醸造蔵をきちんと結びつけて考えて、じゃあ、どんな人に向けて、どうやって蔵を使おう、いま投資してリノベーションするにはリスクが大きすぎるから、潜在的「未来のお客さん」に認知してもらうことから始めるために、他のことから考えようとなるわけです。

 逆に、さあ、巨大な空間がかっこいいし、酒を醸造していたんだから、リノベーションをして酒に関連する、または発酵が流行ってるからそれらをコンセプトにしたカフェをしよう。

 なんて単純な話だと、巨大空間を扱う建築コストは巨大でリスクは大きいし、そもそも誰も来ないまちだし、今の時代古い建物使ってかっこいいものを作ったって珍しくもなんとも無い。本当にそれを進めたいと考える未来のお客さんが主体になっていない限り、特に無理やり税金で進めると、だいたい失速することになります。

 そうやって税金を含む多くのリソースが無駄に使われていくと結局まちは変わらない、変わらないどころか限られたリソースは本来向かうべき方向に使われなくなるからもっと衰退していく。

 もう今の日本のまちは、勢いとか盛り上がりとか、思いつきとか、そんなことで変わるような状況ではなくて、どっかで流行っているようなモノマネや、コピペ、嘘虚構では上手くいかない。

 じゃあなぜうまくいかないのか、それは事業をすることがメインになっているからです。事業にフォーカスした単なるアイディア勝負。こんなことをしたら良いんじゃないか?という事業を検討することになってしまう。

 そうではなくて、まちや地域に今ある要素をじっくり捉えたら、それらを好きになってくれる、または既にそれらを好きな未来のお客さんは誰なんだろう?と想像してみて欲しいんです。

 そして未来のお客さんは、そのまちや地域のどんな未来を想像して楽しんでいるのか、または新たな価値を見出しているのか。それがあって始めて判断基準となる方向性が決まり、羅針盤があることで、事業がまちや地域を変えていくものになります。

 つまり人にフォーカスしてまちや地域の未来を考えることができれば、本来事業は何でもいいと思います。


まちづくりとは何か

 さて、まちづくりとは何なのか。
 それは、今ある価値を丁寧に紐解き、新たなまち(地域)の価値を創造すること。未来の素敵な暮らしづくりです。

 そしてそのために、21世紀の都市計画家に求められる職能とは何か。それはずばり、未来のまちの新しい価値を発見・創造し、広めることです。つまり、思想家であり、戦略家であり実践経営者であることが求められます。

 少数派である未来のお客さんを見つけ、限りあるリソースを認識して戦略を立て、試行錯誤を繰り返し、多数派をだんだん巻き込みながら新しい価値の共感者を増やしていく。

 リソースとは、ヒト・モノ・カネ・時間・情報。多くの人の意見は聞かないけれど、未来のお客さんと共に、まちの新しい価値はなんなのか、仮説を立て、身銭を切って試行錯誤を繰り返す。

 試行錯誤は、リソースを一度に使い切らずに、小さな、そしてたくさんのチャレンジが生まれる仕組みが望ましいと思います。なぜなら衰退傾向にある地域に残されているのは限られたリソースだからです。

 多くのみんなにばら撒けるほど潤沢なリソースはありません。

 だから、少数の未来のお客さんに対して集中投資する。そして、新しい価値を発見する際には、まちの要素を丁寧に読み解くことで、そこにしかない価値に変換してください。通常多くの人がネガティブに捉えているまちの要素でも、少し見方を変えてポジティブに考えてみると、実はそこから未来が開けたりします。

 たとえばもう古くなった商店街。昔っから営んでいる八百屋が残っていて、魚屋があって、肉屋がある。もう元気は無いけれど、朝は高齢者で活気があり、ちらほら若いお母さんもいる。午後には閑古鳥。たぶんそう遠くない将来、無くなってしまう風景で、若い人にとっては特に興味もない、意識もしていない風景。

 買い物は大型のショッピングセンターか、遅くまで開いているスーパーへ。でも考えてみると、大型施設やスーパーで買い物をする理由は何なのか。便利という以外に何かあるのか。そもそもクルマを大きな駐車場に停めて、歩いて歩いて各売り場を回る。

 ランチを食べようと思ったら行列で待ち、重い荷物をもってクルマに戻る。そんなことよりも、自転車で行ける、なんなら歩いていける距離の、かつ専門店で、おっちゃんやおばちゃんの世間話と共に旬の食材や料理の仕方の話を聞きながらこだわりの商品を買う、懐かしいけれどそんな未来の方が良くないか、素敵で格好良くないか?と想像し、それを実践している「未来のお客さん」を見つけてみる。

 ショッピングセンターは全く悪くはないけれど、作られた空間には予定調和な状況しかなくて、ハプニングはまったくないから期待は裏切られないけれど、期待を超えることもほとんど無い。訳わからず怒られることもなければ、ビックリするような笑顔で迎えてくれる人もいない。

 でも、身近なお店では、日常で出会うことを繰り返すうちに、ありえる風景だと思うし、懐かしい光景だけど、そちらの方が断然未来な気がする。もちろん、今の状況のままで良いわけではないけれど、そうやって現状を捉え直してみることで、切り口を変えて見直すことで新しい価値が生まれてくると考えています。

 多くの人は見向きもしていないけれど、未来に変換出来るなら、未来のお客さんと共に、それを温めて広めていくことこそ、現代の都市計画家に求められているんだと思っています。

 これで2章も終わりです。次は第3章で、これまでの常識とこれからの常識について考えていきます。

この本全体の目次

はじめに

第1章 21世紀の都市計画家
・自己紹介
・枚方宿くらわんか五六市
・ダーコラボラトリLLP
・株式会社ご近所
・一般社団法人リイド
・株式会社サルッガラボ
・ビーローカルパートナーズ
・STAY local
・株式会社THE MARKET
・ポップベイパートナーズ

第2章 まちづくりとは
・そもそも、まちづくりって?
・まちづくりの誤解
・対処療法は熱しやすく冷めやすい
・まちが衰退する原因
・変遷するまちの役割
・まちには兆しがある
・未来は今ある真実から生まれる
・オススメの作法
・まちづくりとは何か

第3章 これまでとこれから
・未曾有の人口縮退
・みんなという幻想が成立した時代
・個性、能力、才能を活かす時代へ
・人口が減る時代を楽しく生きる法則

第4章 都市計画とは
・都市計画は時代に合わせた処方箋
・21世紀の都市の在り方
・都市の多様性
・しなやかで反脆い都市へ
・多様性を担保し生み出す
・都市経営課題とリソースの問題
・都市計画の主導権は民間へ
・限られたリソースを最大限活かす
・時と共に最適化する仕組み「アジャイル開発」
・人にフォーカス 未来のお客さんを想定する

第5章 少数派がまちを変える
・まちが衰退する原因の裏側で
・身銭を切ってまちを面白がる少数派
・少数派から多数派へ
・「絞って愛情深く」でファンを増やす
・ファンがファンを増やす時代
・ゴールはみんなのために

第6章 地域に新しいチャレンジを創出する
・定期マーケットでまちに革新を起こす
・まちの期待値を高める
・まちの新陳代謝昨日を活性化させる
・定期マーケット10か条
・定期マーケットはプラットフォーム
・【コラム:衰退プロセスと根源治療】

第7章 ご近所を素敵に変えよう
・ご近所のイメージ
・天王寺まで自転車で10分
・バイローカルとは?
・良き商いを守り育てる
・「どっぷり昭和町」
・バイローカルの日
・365日バイローカルマップ
・期待されるまち、選ばれるまちへ
・THE MARKETのおいしい革命
・ご近所の変化、現在進行形のTHE MARKET

第8章 新しい都市計画(序論)
・日常の自己肯定感の低い日本
・大阪の人は京都が嫌い、京都の人は大阪が嫌い
・試行錯誤する上での羅針盤
・建てないことが正義へ
・複合・混合・多様へ
・自分・少数派へ
・行動しながら変化へ
・しなやか・反脆さへ
・小さい(身銭を切る)へ
・内を意識へ
・目に見えないものへ
・未来ありき(playful Driven)へ
・新しい都市計画

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