深海いわし

一次小説書き。完結済メイン超長編は責任感が強い青年騎士と一途な少女の両片思い恋愛SFフ…

深海いわし

一次小説書き。完結済メイン超長編は責任感が強い青年騎士と一途な少女の両片思い恋愛SFファンタジー「真昼の月の物語」。機械と魔法が共存する世界観と水属性はロマン! 匿名メッセージはマシュマロからどうぞ→ http://goo.gl/jqx4gZ

マガジン

  • 海空断片

    青い鳥のような小型飛空艇《バード》で海からやってくる神人と戦う戦闘機乗りたちのお話の断片。SFファンタジー一次創作小説。

  • ミスター・クランペットの架空旅行記

最近の記事

What brings you to the sky?

 ソラが「海が見たい」と機構の上層部に連絡を送ったのは、ちょうどレクスが実験協力のために基地を空けているときだった。  午後二時の一番暑い頃、ルークの監視付きなら、という条件であっさり飛行許可が下りた。 『よく許可が下りたな』  通信機からのルークの第一声に、先に乗り込んでいたソラは小さくため息をつく。 「私は『とくべつ』だから」  投げやりな口調でそう答えると、ルークは『疲れてんのか』とぶっきらぼうに問いかけてきた。 「疲れるようなこと、してないよ」  どこか不満そうな沈黙

    • geostationary orbit

       俺は何も出来なかった。母親が狂気に侵された時も、ロビンとカナリアが苦しんでいた時も、二人の小さな幸せが終わりを告げてしまった時も、あいつが全てを捨てて飛んでいってしまった時も、俺はただ側で見ていることしか出来なかった。誰のことも救えなかったし、支えになってやることも出来なかった。  俺は無力だ。今までの生で、何度も何度もそれを思い知らされてきた。  だが空を飛んでいる間は、自分が無力だということを忘れていられる。  こんなにも大きな空の中で、人間一人が何の力も持っていないな

      • Roche Limit

         鳥が飛んでいく。青い翼が遠ざかっていく。  空中に宝石のように散らばるのは、撃ち墜とされた小型飛空艇《バード》から飛び散った流体金属だ。青と緑と紫とその他の名状しがたい色が混ざり合った、構造色の液体。その隙間を人工筋肉が蜘蛛の糸のように流れ、まるで意志を持ったように縒り合わされ、周囲の流体金属を吸い込んでいく。それは見る間に鳥の形になり、青空に吸い込まれるように飛んで行く。  ――駄目だ。行くな――  名前を呼びたいのに、声にならない。追いかけたいのに、身体も小型飛空艇《バ

        • Sequel to the Fairy Tale

           わすれられたまちのわすれられたおんなのこのねがいがかなわなかったのには、理由がありました。  おんなのこはほんとうは、そこにいてはいけなかったのです。いいえ。そこだけではありません。ほんとうは世界中のどこにも、おんなのこがいていい場所なんて、のこってはいなかったのです。  おわりは、ある日だれかがわすれられたまちのことをおもいだした日におとずれました。  王子様はわすれられたまちにやってきただれかさんと取引をしました。  おんなのこをわすれられたまちにとじこめたままにして

        What brings you to the sky?

        マガジン

        • 海空断片
          11本
        • ミスター・クランペットの架空旅行記
          2本

        記事

          Platonic Picnic

          「ピクニックに行ってみたい」  そう言ったのは、レクスが何かやりたいことはないのかと聞いてきたからだ。その前の夜に、たまたま記録映像《ライブラリ》で見かけた映像を思い出したせいもある。 「了解した」  レクスが何を了解したのかわからないまま、ソラがぼんやりとピクニックって何をするんだろうと考えている間に、レクスはピクニックの定義について記録書庫《ライブラリ》に問い合わせてレポートを作成し、行き先を選定し、当日までにやるべきことと揃えるべき物品のリストを作成していた。相変わらず

          Platonic Picnic

          Fairy Tail

           むかしむかしあるところに、おんなのこと王子様がおりました。ふたりはわすれられたまちのわすれられたお城に、ふたりきりで住んでいました。  太陽は毎日おなじ時間にあかりをけして深い海の底にしずみ、月は毎日おなじかたちで星の海をわたり、そしてまたおなじ時間になると、太陽があかりをともして海の底からのぼってくるのでした。  おなじような毎日が、おなじようにめぐっていきました。  ふたりはときどきちがうことがしたくなって、だれもいないまちを探検したり、ふたりだけでかんがえたあそびをし

          After Zero

          「何があったか覚えているか。アウル・ブルーバード少尉」  ベッドの脇から直立不動で問いかけてくる男の顔にすら、全く見覚えがなかった。 「何が……とは?」  それでも階級章から彼が大佐であることはわかる。最低限の礼儀は守った方が良いだろうと身を起こそうとするが、思うように身体を動かすことができなかった。 「そのままで良い。昨日の任務の件だ」  のろのろとした動きで、それでもなんとか上半身を起こしてヘッドボードに背中を預ける。 「昨日……」  思い出そうとすると頭の奥が重く痛んで

          Song for two geese

           整備が終わるのを待つ間、ルークに頼んでつけてもらったラジオから、フォークソングの軽快なギターの音が響き始める。    午前四時三十五分始発    七つの海と三つの丘を越えたその向こう    そこに住む君に会いに行く  続いて歌い始めたのは、辛うじて正しい音程の範囲に届いているような、決して上手とは言えないけれどどこか味があって、ふっと心惹かれるような歌い方の青年だった。 『ロビンの奴、ついに折れたのか』  珍しく機嫌の良さそうなルークの声に、ソラはふっと顔を上げる。顔を

          Song for two geese

          ground Zero

           琥珀を溶鉱炉で溶かしたような夕焼けが、東からゆっくりと夜の色に変わっていく。滑走路の真ん中に座り込んで、隣に置いた鉱石ラジオに耳をすませながら、ソラは来ないはずのひとを待っている。  赤から紫、紫から青。薄く浮かんだ筋雲を彩りながら、光は大空に複雑なグラデーションの景色を描き、その色をゆっくりと変えていく。  同じ夕焼けを何度見たのか、もう思い出せない。忘れられた世界の果てみたいだ。そしてそれが、あまり間違っていないことも、ソラは知っている。  この海の向こうには何もない。

          Vertigo

           曇り空の下、暗い海を哨戒していると、時々どちらが空でどちらが海だかわからなくなることがある。  本物の鳥は空間識失調《バーティゴ》に入ることはあるのだろうか。以前ライブラリに侵入して調べてみたことがあるけれど、調べ方が悪いのか答えを見つけることはできなかった。 『ソラ、ズレてるぞ』  不機嫌そうな男の声が、通信機越しにソラの耳に届く。同時に修正信号が送られてきて、小型飛空艇《バード》と同調しているソラの感覚が計器と同期させられる。 「ありがとう、ルーク」  ルークは当然だと

          Your Favorite Song

           頬を灼く夏の日射し。滑り止めの加工がされたコンクリートの床の、ざらついた感触。どこか遠くで唸る低いラジエーターの音。濡れたコンクリートのどこか懐かしい匂い。  目を閉じて視覚以外のすべてで世界を感じながら、ソラは待っていた。 「そこで何やってるんだ?」  低く穏やかな青年の声に、ソラは静かに目を開く。視界には一面の青空が広がっている。水平線から湧き上がった入道雲が、くっきりと白い輪郭を浮かび上がらせる、深く青い夏の空だ。 「暇だから、寝てた。レクスはどうしてここに?」  視

          Your Favorite Song

          [架空旅行記]ミスター・クランペットによる中央省庁区の旅 その2(光王庁立博物水族館編)

          ※注意 これは「架空」の旅行記です。様々な事情により、記載した文章・写真などなどが「無難なもの」に置き換わっている場合があります。  本日は光王庁立博物水族館の見学です。まず建物ですが、光王庁から車で十分くらい(と言っても敷地内なんですが)のところにあるばかでかい白い四角い建物。それが光王庁立博物水族館です。  中央省庁区の建物はみんなばかでかいのか、というと、まあ一般の建物はそうでもないんですが、リラ教会が絡んだ建物はだいたいみんなでかい。巨人のための建物かってくらいでか

          [架空旅行記]ミスター・クランペットによる中央省庁区の旅 その2(光王庁立博物水族館編)

          椅子を買いたいおはなし(下調べ編)

           最近体調によって腰が痛い日があり、また姿勢が悪いせいで肩こりがひどい自覚もあるので、そろそろ椅子を買わないとなあ、と、昨年末あたりからぼんやり思っていたわけです。  しかし私が住んでいる場所はいろいろと移動に制限があって……ぶっちゃけ沖縄なので、そうそう簡単にいろんな椅子を試すこともできません。  そこでまずは情報収集です。主な使用目的はパソコン作業用、読書用。ゲームをしたりテレビを見たりするときもかなり長時間使用するものと思われます。とは言ってもくつろぐよりは作業がメ

          椅子を買いたいおはなし(下調べ編)

          [架空旅行記]ミスター・クランペットによる中央省庁区の旅 その1(光王庁・フォルシウス大聖堂編)

          まずはじめに ※注意 これは「架空」の旅行記です。様々な事情により、記載した文章・写真などなどが「無難なもの」に置き換わっている場合があります。  と、お約束的に前置きいたしまして。一応こちらでは初回なので、自己紹介なるものを少しだけ。  と言っても、あまり自分自身について語れることは多くありません。とある時代のとある国で公務員的な仕事をしつつ、いろんな世界のいろんな時代を気まぐれに旅する趣味を楽しんでいる一個人です、とだけ。 中央省庁区について  そんなこんなで、渡航

          [架空旅行記]ミスター・クランペットによる中央省庁区の旅 その1(光王庁・フォルシウス大聖堂編)

          深海いわしの自己紹介と好きなもの

           はじめまして。深海いわしです。いろいろ書き始める前に、いちおう簡単な自己紹介と、ここで何をしようかな~というのをぼんやり書き留めておきたいと思います。 「雨の庭」というサイトにオリジナル(一次創作)小説を書いて載せること、書いたお話を製本してコミティアなどのイベントで頒布することが主な活動です。「カクヨム」と「小説家になろう」にも同内容で転載中。普段はツイッターでぽやっとつぶやいたり、イベントに出るときの告知をしたりしています。  書いている小説のジャンルはSF、恋愛、

          深海いわしの自己紹介と好きなもの