Platonic Picnic
「ピクニックに行ってみたい」
そう言ったのは、レクスが何かやりたいことはないのかと聞いてきたからだ。その前の夜に、たまたま記録映像《ライブラリ》で見かけた映像を思い出したせいもある。
「了解した」
レクスが何を了解したのかわからないまま、ソラがぼんやりとピクニックって何をするんだろうと考えている間に、レクスはピクニックの定義について記録書庫《ライブラリ》に問い合わせてレポートを作成し、行き先を選定し、当日までにやるべきことと揃えるべき物品のリストを作成していた。相変わらず仕事が早い。
二人はそれから三日ほどかけて、レクスが指定した物資を調達し、ピクニックに持っていく糧食を作成した。前の夜に忘れ物がないように全ての荷物を揃えて、明日に備えるために早めにベッドに入ったけれど、ソラはなかなか眠れなかった。
カーテンの隙間から差し込む月の光がゆっくりと形と位置を変えていくのを見つめながら、ソラはこれが「遠足の前日の小学生みたい」という状態なのかと考えていた。
そして二人は今、風力発電機が立ち並ぶ丘でレジャーシートを広げ、持ってきたサンドイッチを食べている。
端まできっちりと具材が詰まったたまごサンドがレクスが作った分で、真ん中辺に適当に具材を重ねたハムとレタスとチーズのサンドイッチがソラが作ったものだ。
レクスが作ったサンドイッチを食べながら、ソラははみ出した具材が落ちないように悪戦苦闘する。それを見たレクスは「君が作った方が食べやすそうだ」と評した。
「うん、でも、味見したのよりおいしい」
「僕はそこまで味が変わっているとは思わないが」
具材がこぼれないように両手でサンドイッチの短辺を持ちながら食べているソラを、レクスは面妖なものを見るように観察している。もちろん時間が経っているから物理的に変質しているところも少しはあるのだろうが、美味しくなる類の変質だとも思えないので、大概気分の問題なのだろう。
会話が途切れてしまうと、風力発電装置の風切り音がやけに耳に残る。レクスも同じように感じたのか、ソラが直前になって持っていきたいと言い出した鉱石ラジオを無言でいじり始めた。
やがてラジオからかすかなクラシックの音色が聞こえ始める。
「あとでちゃんと手と顔を拭けよ」
「うん」
それきりまた会話が途切れて、ソラはもくもくとサンドイッチを口に運ぶ。丘の向こうが海だからだろう、かすかに潮の匂いが漂ってきていた。
暖かい日射しと、潮の匂い。風力発電機の低い唸り声。時間がゆっくり流れている。まるで空の上を旋回しているみたいだ。
「楽しいのか?」
「うん、とても」
不思議そうに尋ねてくるレクスに頷いて、ソラはちいさく笑った。
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