夏空_いわし撮影

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 頬を灼く夏の日射し。滑り止めの加工がされたコンクリートの床の、ざらついた感触。どこか遠くで唸る低いラジエーターの音。濡れたコンクリートのどこか懐かしい匂い。
 目を閉じて視覚以外のすべてで世界を感じながら、ソラは待っていた。
「そこで何やってるんだ?」
 低く穏やかな青年の声に、ソラは静かに目を開く。視界には一面の青空が広がっている。水平線から湧き上がった入道雲が、くっきりと白い輪郭を浮かび上がらせる、深く青い夏の空だ。
「暇だから、寝てた。レクスはどうしてここに?」
 視線を動かして、声の主の方を見る。寝転がったままのソラを見下ろしているのは、銀色の髪の青年だ。ただ平均的なだけ、と本人が評している、つくりものじみた美貌と、夏の空を映す海のような色の瞳。夏の陽射しを浴びながら長袖の軍服で首から下のすべての肌を覆っていても、なお涼しげに見える姿だった。
「暇だからお前の様子を見に来た。滑走路の真ん中で寝るな」
 レクスはソラの真似をするように無愛想に答えると、おざなりに注意したことなど本当はどうでもいいみたいに、そのまま隣に腰掛けた。レクスの身体で強い日射しが遮られて、ソラは一つ瞬きをする。
「熱中症になるぞ」
「大丈夫」
 レクスの気配が手を伸ばせば届くほど近くにあることに安心しながら、ソラはまた目を閉じた。レクスの側は少しだけ、気温が下がるような感じがする。全身を焦がすような夏の暑さも、焦燥も、ほんの少しだけ温度を下げる。
「出撃、ないね」
「ああ」
「音楽が聞きたい」
「何が聞きたいんだ」
「レクスの好きな曲」
 言いながら目を開けると、予想したとおり、レクスは無言で顔をしかめていた。
「僕には好きな曲などない」
「……知ってるよ」
 それでも。

 いつか、違う答えが返ってくる日が来るかもしれない。
 そう、ソラは思っている。


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