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時間と手間をかければ、好きになる:『科学的な適職 4021の研究データが導き出す最高の職業の選び方』(2)【間違いだらけの読書備忘録(15)】

こんにちは、さらばです。

現在、以下の本について備忘録を書いています。

  • 鈴木祐『科学的な適職 4021の研究データが導き出す最高の職業の選び方』

1はこちら。

「仕事」⇒「好き(情熱)」

前回「好きなことを仕事にする」というのは、幸福度を上げることに関係がない、という話を書きました。

この「好き」と似た方向の話として「情熱を傾ける」という話があります。例えば「情熱を傾けられることを仕事にすると頑張れる。そのためには好きなことを仕事にすべきだ」といった主張です。
しかしこれも著者は、エビデンスを基に否定します。

要するに「情熱を持てる仕事」とは、この世のどこかであなたを待っている献身的な存在ではありません。仕事に情熱を持てるかどうかは、あなたが人生で注いだリソースの量に比例するのです。

鈴木祐『科学的な適職』

つまり「時間と手間をかけたからこそ好きになる」という話です。
実は本書を読んでわたしが最も印象深かったのはこの点で、「これって仕事に限らないよなあ」と思いました。

不意に思い出したのは、『星の王子さま』の一説です。

「あんたが、あんたのバラの花をとてもたいせつに思ってるのはね、そのバラの花のために、ひまつぶししたからだよ」

サン=テグジュペリ作 内藤 濯訳『星の王子さま』

王子さまは旅の途中、自分の星で手間をかけて世話していた一輪の綺麗なバラが、地球で大量に咲いているのを見つけました。
あのバラは稀少なものではなかったのかと一度はがっかりしますが、その後友だちになったキツネに「あんたの花が、世のなかに一つしかないこと」に気付かされます。
そこでキツネが「かんじんなことは、目に見えない」という有名な台詞に続けたのが上のくだりです。

よく考えると当たり前なのですが、家族や恋人、友人が特別たり得るのは、それだけ多くの時間を費やし、心をくだいて同じ時を過ごしたからでしょう。そうなれば、「世界にとって特別な存在ではなくとも、わたしにとって特別な存在になる」ということです。

同じように、多くの時間を費やしたことはそのひとにとってかけがえのないものになる。
厳密に言えば、「好き」とは違うのかもしれませんが、職業選択にもこれが当てはまると言われて「そりゃそうだよね……」と思いました。

では、こんなにも当たり前のことなのに、いつまでも「好きを仕事にしよう」という言説が消えず、「やりたいことが見つからない」といったことを言うひとが多いのはどうしてなのでしょう?
著者はそのことを「市場規模が大きい」と書いています。

例えば前回書いたyoutubeもそうですし、エンタメ業界は全般的に「好きを仕事に」という方向でプロモーションをして創作志望者を増やさないと、ビジネスが成り立ちません。
事業者からすれば、創作者の母数の大きさがヒットコンテンツを生む土壌になると知っているので、「好きを仕事にしたところで、創作者の幸福度が上がるとは限らない」と科学的に証明されたとして、プロモーションをやめることはないでしょう。

自虐のつもりはないけど

ちなみにわたしのことに当てはめて言うと、仕事については概ね「好きなことを仕事にしていない」「仕事は仕事と割り切っている」「ただし周りからは"仕事好きですよね?"と言われる」という感じで、本書的に言うと(それこそ幸運なことに)「リソースをかけたから情熱を持てている」という状態になっているのだと思います。

ちなみに本書のこのくだりを職場で何人かのひとに話してみたところ、主に中堅どころのひとたちから「なんか安心した」という反応をいただきました。

「仕事って、好きじゃなくてもいいんだ」
「仕事の内容自体に最初から興味がなくてもいいんだ」

みたいな感じで、正しく理解されているかは解りませんが、「好きじゃないと駄目」みたいなプレッシャーを知らず知らず受けているひとが世の中にはわりといるんだなあ、と思った次第。

なお、物語をつくるわたしについて言うと、「元々好きだからリソースをかけた」「リソースをかけたから情熱がさらに増した」「しかし好きだからこそ、スキルが上がりにくいまま継続できてしまっている」みたいな感じなんだろうなあ……と改めて思いました。
自虐のつもりはありませんが、これがまず本書を読んで得た大きな気付きです。反省。

ただ、本書も別に「好きなことを仕事にしてはいけない」と言っているわけじゃなく、職業選択の重要項目にすべき優先度の高い要素が、ほかにもっとたくさんあるという話です。
好きなことを仕事にすることについては、弊害もあれば、いいこともあるだろうと個人的に思います。少なくとも「好きなことを仕事にする」ことを真っ先に考えて、「それが叶わなかったら生きてる意味がない」とか、あるいは「叶ったらもう大丈夫」と思うことは完全に間違っているでしょう。


仕事は仕事だし、好きなことは好きなこと。
好きで、リソースを使えて、情熱を傾けられればそれだけでかなり幸せだなというのはわたし自身の創作の経験として胸を張れます。
仕事にすべきじゃない、とも言いません。ただし先に来るのはあくまでわたしが「好き」と思うこと、「情熱を傾けられる」ことでありたいと思います。
そして仕事は必ずしも「好き」じゃなくてもいい。だけど時間をかけることで「情熱を傾けられる」ものにしたい。

と……考えると、今までの自分の選択は科学的に言うとわりと間違ってなかったのかな? という気になりました。
ただ……ここからさらに読み進めると「やっぱ違うかも」ってなるんですけど。


そういうわけで続きは次回。
1冊目の備忘録が全6回になってしまい、そこから徐々に短くしようと試みていたのですが、本書は無理っぽいです(何回になるか読めない……)。

お読みいただきありがとうございます。
さらばでした!

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