「誰かを思う時間」は、自分たちへのプレゼント〜博多おもてなし部の軌跡〜
12月1日から3日まで、今年の3月から2カ月間学んだ、稀人ハンタースクールの執筆合宿が行われた。開催地は福岡。
時間もお金もかけて遠方からやってくる仲間たちを「盛大にもてなしたい!」との気持ちが大きくなり、福岡から参加する三人で「博多おもてなし部」を立ち上げ、グループメッセンジャーで、日々意見を出し合った。最初は、交通費や宿泊費といった費用をかけてきてもらうことが悪いような気がして、「こちらもお金をかけたおもてなしがしたい!」と送迎の車を用意しようとか、運転手として観光スポットを案内しようとか、すっかり添乗員ポジションで物事を考えていた。
ある日、親方が言った。
「福岡チーム、いろいろ考えてくれているみたいだけど、接待のようなマネは絶対やめてね!おもてなしはいらないから、自分たちも合宿に参加する一員として楽しんでね」
ハッと目が覚めた。そうだった、私たちも合宿に参加するのだ。遠方からはるばるやってくる仲間たち、初めて会う仲間たちとたくさん話したい。送迎をやってる暇はない。みんなと一緒にいたい。
そこから一気に方向転換。もてなすのではなく、私たちも一緒に楽しむ。その上で、せっかく福岡にきてもらうのだから、みんなの喜ぶ顔が見たい!福岡のお土産って何があるだろうか。
博多ぶらぶらグッズ、明太子、ハイタイドの文房具?
いろんな案を出し合うなかでメシアンから「稀人ハンタースクールの鉛筆はどう?名入り原稿用紙はどう?」とアイディアが出てきた。
もの書きとしてキャリアが長いメシアン、アヤさんが言うのだから間違いない。ふたりは、紙も鉛筆も愛用しているという。パソコンしか打ってない私には最初ピンとこなかったが、ふたりのように鉛筆や原稿用紙を使うような仕事をしてみたいと思った。
11月の初め、稀人ハンタースクールの有志で文学フリマに参加した。
みんなでワイワイお祭りのよう。先に開場に入ってお店の準備をしてくれる前入り班とは別に、我々あと入り班は開場をまつ列に並んだ。そこで合宿に参加する福岡チームのアヤさんとタイのイケメンについて熱く語りながら、ふと思いついた。
「思い出写真やメッセージを集めてムービー作らない?!」
前職のことを思い出していた。お祭り好きなリクルートでは、毎月の納会や忘年会、送別会、事あるごとに感動的なムービーが流れた。元SEとか、元WEB制作とか、趣味で作れるとか、ムービー職人がたくさんいた。
私はいつもムービーを見ては心を揺さぶられ涙を流した。
今度は自分が作る番だ。数々のムービーを見てきた。写真を集めて、ミュージックを選んで、コメントを入れて、動きを加える。きっと私にもできる、はずだ。アヤさんに話して、文フリが終わったら作り始めることになった。
そして、文フリが終わった。ムービーを作ろう作ろうと思いながら、溜め込んでいた仕事に追われる数日。アヤさんから「そろそろやるか」とメールをもらう。土曜夜に、メシアンとふたりでムービーミーティングを実施。
合宿に参加するみんなにもサプライズにしたいし、お互いに工数が増えるため、みんなからのメッセージは集めないことに決めた。
その上で、「くれぐれもやりすぎないこと」。親方が言うところの、接待、やりすぎにならないことを誓い、制作に取り掛かることにした。ある程度の形になったら共有すること、ひとりで悩まず困ったらすぐに相談することを約束した。
コミュニティのスレッドから一枚、一枚、写真をダウンロードしていく。その度に思い出が蘇る。スクール自体は2ヵ月で終わっているけれど、その後が長い。京都での執筆合宿、関東や関西のオフ会、取材同行、みんなの集合写真が増えていく。9カ月間でどれだけみんな仲良くなったのだろう。
メッセンジャーのやり取りから写真を探す。愉快な写真を発見するたび、「よっしゃ」とつぶやく。スクロール、スクロール。膨大なコミュニケーションの軌跡をたどる。
写真を順番に並べたら、いよいよバックで流れるミュージックを決める。これが一番重要だと言っても過言ではない。最初のミーティングでメシアンに教えてもらったグーニーズのシンディローパーの曲も聞いてみたが、作ったスライドにどうもしっくりこなかった。感動系か面白系か、思い出の曲か。早速、博多おもてなし隊のスレに相談を投げ込む。
「一度ムービーを見せて欲しい!」
ふたりからすぐにメッセージが返ってきた。スライドだけ圧縮したものをメールへ送った。
ムービーといえば、「くるり」がいいんじゃない?
自然と「くるり」の曲を出し合う。共有したムービーを流し、それぞれが自宅でいろんな曲をお試しする時間。
「ハイウェイ」がいいかな?
「ワンダーフォーゲルもいいかも」みたいなやりとりがあって…
最終的に「羊文学」の more than word に決定!
前職からの友人、元エンジニアのムービー職人・カネゴンに動画にミュージックを入れる方法を教えてもらう。当時のカネゴンがどんな気持ちでムービーを作っていたのかに思いを馳せて、ジーンときた。超ハードに働きながら、寝る間を惜しんでムービーまで作ってくれるなんて、大変だなあくらいに思っていた。
作る側になってみて思う。
みんなのことを思いながらムービーを作る時間は幸せに満たされている。こんなに特別な時間をプレゼントしてもらえたことが嬉しい。カネゴンもきっと同じ気持ちだったのではないか。
こうして私も、ムービー職人になった。
完成した日から本番まで、毎日何かしらの手を加えてしまう。もっと良くなる、もっと良くなる。メシアンが耳元で「やり過ぎ注意!」とささやく。
12月2日17時過ぎ、無事、本番を迎えた。
笑いあり涙ありの心温まる5分間。ヨーロッパ、東北、四国、関東、関西、世界に散らばる仲間たちが同じ空間に集い、みんなで一つのムービーを見る。これって奇跡だ。
メシアンもアヤさんの目にも涙。この日を迎えるまでの時間をともに過ごし、私たち3人の心の距離もグッと近くなった。怖いものはない、私たちならなんだってできる気がする。
こうして、博多おもてなし部の活動は幕を閉じるはずもなく……、
博多おもてなし部は、永久に不滅です。
〜to be continude〜