つないだその手をわが子がほどくとき

週末、忘れなられない出来事があった。
用事を済ませたあと、近くにある夫の実家に寄った。コリスに会えると義父母は喜んでくれて、一緒にかくれんぼをしたり、じいじが好きな競馬中継をみんなで見て過ごしていた。天気もいいし、家で一日過ごすのもなんだし、近くの海に散歩に行くことにした。
日曜の昼さがり、コリスを真ん中にはさんで夫のひだり手とわたしのみぎ手と、コリス両手ををつないで歩く。ばあばは夫の横を歩く。
暑くもなく寒くもない心地よさ。ひたすらに手をつないで海に向かって歩く。こんな日曜もいいなあと考えていたら、突然コリスが立ち止まった。
コリスとつないでいたわたしの右手をじぶんの左手からはなすと、夫のひだり手とわたしのみぎ手をつながせようとした。真ん中をつないでいたコリスが抜けたのだ。コリスによって手をつながれた夫とわたしは照れくささもあり「いやーよー」とお互いに手をブンブンとふりはらった。するとコリスがまた二人の手をつないだ。コリスが生まれて6年、夫と手をつながくことがなくなっていた。いつも真ん中にコリスがいた。その昔はいつも手をつないで歩いていたことを思いだす。誰に止められたわけでもないけれど、コリスが生まれてきたら手をつながなくなっていった。こうして恋人、カップルから、子どもができたら”お父さん””お母さん”という役にじぶんを自分でハメこんでいったのかもしれない。
急にわが子に手をつなげと言われ、気恥ずかしくなった。
それでも力いっぱい夫とわたしの手をにぎり、つながせようとしてくるコリス。
すんなりとは手をつながないわたしたち。そしてコリスがひと言。
「もー！仲悪いなーっ！」
一瞬ときが止まった。
夫もわたしも、そしてばあばも顔を見合わせて大爆笑。
そんなわたしたちを見てコリスはちょっとニヤリとしながら困ったなあという顔をしていた。
しかたないなーと夫と手をつないで歩く１０メートル。
温かさと懐かしい感じがした。コリスが見守る中、自然と手ははなれていった。
「もー！仲悪いなーっ！」
コリスがまたつぶやいて、はなれた夫とわたしの手をつなごうとする。
みんなで笑う。
夫とわたしの手をつなぐことを諦めたコリス、こんどは夫とばあばの間にはいり、二人の手をつなごうとする。
ばあばも夫も「いやいやー」と手をつなぐことを拒んだ。
そしてコリスがひと言はなつ。
「もー！仲悪いなー！」
みんなで顔を見合わせて大爆笑。照れながらばあばが言った。夫と手をつないだのは小学3年生くらいのときが最後だったね〜。コリスによる手つなぎ作戦が展開されては、大人があーだこーだとごまかしながら海に着いた。

「まま　ワラワラ」作コリス

子どもと親、夫婦、いつから手をつながなくなるのだろう。いつまで手をつなげるのだろう。わたしが父や母と最後に手をつないだのはいつだろう。
１０年以上前、結婚式のときが最後かもしれない。
父母の手の感触、もう忘れてしまったな。
久々に手をつなぎたい、でもきっかけがない、コリスに間に入ってもらおうかな。

わたしはコリスとはいつまで手をつなげるのだろう。
いま、まだ小学校までわたしと手をつないで登校している。お友だちも一緒に。
早く子どもだけで学校に行くようになってほしい気もするが、朝こうしてコリスと一緒に手をつないで歩く時間も愛おしい。そんなことを考えながらコリスと手をつないだ写真はないかと探してみた。コリスが生まれてからは、わたしたち夫婦の真ん中にいつもコリスがいた。

生まれてはじめてパパと手をつないだね

生まれてきた翌日、ママとも手をつないでくれた

はじめての保育園遠足

桜散る季節をパパと歩く

ハンカチでつないだ手

急な坂をのぼる

保育園年長さん　朝の登園

小学校入学式へ

コリスを守ろうと手をつないできたけれど、この日コリスはわたしたちの手をほどいた。夫とわたしの真ん中から抜けだして、夫とわたしの手をつないだ。
小さなその手が、人と人とをつなぐことができるようになっていたことに感動した。わたしのことはいいから、あなたたち仲良くしなさい！と言われてしまったのだけれど。

「もー！仲悪いなーっ！」

わが子にここまでストレートに言われると、夫もわたしも思わず笑えた。
近年ケンカ三昧の日々を過ごしていたけれど、手をつないで歩いた１０メートルが2年分の心の距離を縮めてくれた気がする。
夫とふたり、コリスの言葉を思いだしては一緒に笑う。
そんなしあわせな時間が増えた。

つないだその手をわが子がほどくとき
自由になったその手を誰かのためにつかうときなのかもしれない

コリス、しあわせをありがとう。
まだまだたくさん手をつなごうね。