やりたいことがない人の仕事探し|写真集とドラッカー
「やりたいことが見つからない」という人が多いようです。昔とは違って現代は職業選択の自由が保障されただけでなく、実際にキャリアを目指すことができる選択肢が若者たちの目の前にたくさん拡がっているにも関わらずです。
それもそのはずで、これだけ便利で平和な世の中においては、人生の目標となるほどの出来事が青年期に起こることはそうそうなく「やりたいことを見つけなさい」と抽象的な助言を何の尊敬もしていない大人から言われたところで、若者たちが行動変容を起こすことはないでしょう。
かく言う僕も今までやりたいことや人生の目標があったことはなく、抽象度の高い人生のビジョンのもと毎日を過ごしています。その考えの源泉は過去にnoteでも書いたことがあるので、興味がある人はお読みになってください。
しかし、やりたいことを見つけるために自分探しの旅に出かけたり、自己啓発セミナーに参加したりしたところで、そもそも自分のなかに何かがあるわけではありません。旅先では何も見つけることができずにぼったくりツアーに参加させられ、セミナーでも高い商材を買わされてしまうかもしれません。自分を探しに行くのは危険な行為なのです。
それでも現代社会で生きていくためには、何かしらの仕事をする必要が出てきます。生活費を稼ぐというだけではなく、人生の時間の大半を過ごすことになる仕事ですから、できる限り「やりたいこと」を仕事にした方が良いというのは、理想としては正しいことだと思います。
じゃあ、どうすれば良いのか。ひとつだけ再現性の高い方法を提供できると思っています。
それは「やりたくないことを避ける」こと、消去法による仕事探しです。
やりたくないことを避ける仕事探し
「やりたいこと」を見つけるのはなかなか難しいものです。シンプルに「やりたいこと」であれば、誰でも簡単に思いつくことができるかもしれません。
例えば、野球が好きであれば「野球選手」に、音楽が好きなら「ミュージシャン」に、絵を描くのが好きであれば「画家」に、というようにです。
もちろんこれらを目指すことは理想的であり、本気で目指す価値のあることです。しかし、スポーツの場合は競争率が非常に激しく、ミュージシャンや画家のような芸術関係は、一般企業が募集する枠組みの職業とは相性がよくありません。
この様なシンプルな「やりたいこと」を仕事として目指すことができる才能のある若者は迷うことなく真っすぐにこれらを目指していただきたいと思います。そういう人の中からスーパースターが生まれるものです。
しかし、一般の若者にとって、これらの特殊な職業を目指すことは再現性が低いため、これらを排したうえで「やりたいことを見つけなさい」と言われると、なかなか見つからないというのが現状の悩みなのだと思います。
そこで今回の提言が「やりたくないこと」を見つけて、それ以外から消去法で仕事を選ぶという方法です。
もしもエクセルやパワーポイント等の扱いが苦手でどうしてもできないと思う方はオフィスワークではなく、身体を動かす仕事か接客業を中心に探せばそれら事務作業に関わる苦痛を免れることができます。
反対に人付き合いが苦手で体育会系の文化が根付いた営業職をこなすことに自信が持てないという人は、IT系などの技術職を調べてみるとよいでしょう。
この様に「自分がどうしてもやりたくないことは何か」であれば、少ない人生経験でも本能的なものであるため、見つけることができるはずです。
そして「やりたくないこと」を排した状態で「自分には何ができるか」「何を学んで臨めばよいか」と段階的に考えていくことで、再現性の高いキャリアをイメージできるようになるでしょう。
こだわりを持たない仕事探し
先ほどの例えでは「野球選手」や「ミュージシャン」、「画家」のような例えを出したため、「そこまで極端に考えない方法もある」という意見もあるかもしれません。
例えば、野球が好きであればプロ野球球団の職員を探してみたり、音楽が好きであれば音楽配信サービスの社員や楽器屋の店員になったり、興味関心に沿った職業選択はもっと幅広く行うことができます。絵が好きな人は「画家」とまではいかなくともWEB媒体でのデザイナーやイラストレーターであれば、好きなことを仕事に繋げることはできるのではないでしょうか。
確かにこれらはやりたいことを仕事にできるうえに再現性が高いです。
しかし、僕があくまでも消去法をおすすめしているのは、仕事に対して「こだわりを持たない」ことが会社員としての働きやすさに通ずることがあるからです。これはどういうことでしょうか。
過去に2年間ほど書店で働いていたことがあります。新卒で入社したIT企業を大病を患って退職してしまい、そのリハビリ期間として働いていたのです。
胃の摘出手術をしていたこともあって食事量が極端に減った当時の僕が思いついたのが、シフト制で働くことができる仕事で、尚且つ飲み会やランチに行く文化が少なそうな書店員でした。そして、当時は療養中にたくさん本を読んでいたので「本に囲まれて働けるなんて幸せ」といった気分でもありました。
こういった経緯で始めた書店員は、初めの1年こそ非常に働きやすくうまくいったのですが、2年目からは担当を持つこととなって売上をあげる成果が求められるようになります。
この時に成果を上げる障壁となったのが「本が好き」だということでした。自分が面白そうだと思っている本や価値があると思っている本が必ずしも売れるわけではありません。
そのため、自分の好みを反映させないことが成果を上げることに繋がるという葛藤を抱きながら働くこととなります。
結果的に当時の僕は自分の担当であった「文芸・芸術」ジャンルのなかから、自分が今までに一度も買ったことがないアイドル写真集とライトノベルを前面に押し出す棚の展開を考案して、大きな成果を挙げました。
その書店の近くには競馬場やメイド喫茶、ゲームセンターが多かったのです。その立地の特性から客層を見極めることができ、自分が好きな海外文学や純文学よりもアイドル写真集やライトノベルの方が需要が高いことに狙いを定め、ボコボコと写真集とラノベを売り上げていきました。(そしてそれらは単価も高かったのです)
こういった視点は自分が興味のないジャンルの本だったからこそ持てたものです。自分の「やりたいこと」ではない方が仕事がうまくいくこともあるのです。
なされるべきことを考える|経営者の条件
ピーター・F・ドラッカーの『経営者の条件』という経営の古典があります。
この本はタイトルこそ「経営者」という言葉が入っていますが、経営者よりもむしろ全ての会社員に向けて書かれたビジネス書です。
時代が進歩するにつれて労働の形態が「肉体労働」から「知識労働」に変化してきている時代では、トップダウン型で労働者が作業をするのではなく、社員ひとりひとりが経営者の様に考えて行動するべきである、というドラッカーの金言が多く詰まった一冊です。
この本に書かれている金言のなかに、今回の消去法で仕事を探すうえで役に立つ名言がひとつ書かれています。組織に向けて書かれたことではありますが、本質的には同じ意義を持つ言葉なので個人にも置き換えて考えることができるでしょう。
そもそも仕事というものは、働く人の「やりたい」にあわせるのではなく、世の中が求めた「なされるべきこと」に合わせて企業がアプローチをするものです。
長い歴史のなかで、やりたいことを仕事にできる様になったのは、つい最近の数十年からです。今まではそもそもそんな選択肢はありませんでした。
時代の進歩によって急に拡がった選択肢から「就活市場」とも呼べる新しいマーケットが生まれ、「やりたいこと」を見つけることが新しいトレンドになったに過ぎません。
そういったトレンドに惑わされることなく「なされるべきことを考える」ように自分がすべき仕事を探しましょう。
書店で僕がアイドルの写真集で多くの売上を挙げたように、その方が案外うまくいく仕事というのもあるものなのです。