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ビジネス書に学ぶ小説を読む意義|『欲望の見つけ方』

今年読んだ本のなかに『欲望の見つけ方』というビジネス書があります。

フランスの哲学者ルネ・ジラールが提唱した「模倣の欲望」という理論について書かれた本です。

ここで書かれているのは、人が何かを「欲しい」という欲望は、自分自身の中から自発的に沸き起こるものだと思いがちだが、実はそうではなく、欲望は他人を真似するところから喚起されているということです。

SNSで友人が美味しい料理の画像を挙げていたらその料理を食べたくなり、著名なモデルが着ている服を自分も着たいと思うようになります。何かを欲する時、その欲望は実は他者を媒介しているのです。

この概念を知ることで人の行動をより良く理解することに繋がり、例えばマーケティングなどのビジネスにも大いに役立つことかと思います。

更に、この理論を通して、自分が本当に欲しているものは何かを理解する手助けにもなってくれます。

欲望を通して人の行動を理解するだけに留まらず、自分自身の欲望に対しても焦点をあてて考えることができるようになるのです。


自分の欲望を喚起させる

本書では、実際の身近な知人や所属する会社の社員、またはテレビやスマートフォンなど映像メディアを通して欲望が喚起される様子が多く説明されますが、応用すべき場面は他にも多く存在しているはずです。

身近な存在を模倣の対象とするだけでは、恵まれた環境にいないと質の高い欲望が喚起されなくなってしまうだけでなく、悪い影響を受けてしまうリスクも発生します。

また、テレビやスマートフォンなどのメディアからは誇大な広告が付きものなので、喚起された模倣の欲望は営利企業のターゲットになってしまうかもしれません。

こういった特性を考慮に入れたときに、最もコントロールすることが可能な欲望の喚起方法は小説を読むことではないかと気づきました。

何も現実に存在している対象ではなくとも、個人の欲望が喚起されることがあるとされています。つまり、小説の登場人物を通じて、読者の欲望が喚起されるケースもあるということです。

闘病中に小説を読む

ルネ・ジラールの模倣の欲望理論にある、人は他者の行動や価値観を模倣する傾向があるというのは上述の通りです。

だとすると、例えば闘病をしている人や引きこもりの状態になってしまっている人でも、小説を読むことで欲望が喚起され、行動変容を促す効果があるのではないでしょうか。

小説のなかでは、現代の日常生活に比べて多くの困難が描かれていることは想像に難くありません。

登場人物が困難や試練に向き合っているところを読み、それをモデルと見なすことから読者がそれを真似したいという欲望が喚起されるはずです。

僕はプロフィールに書いた通り、過去に病気による休養を経験しています。

当時は辛い現実から目を背けたい気持ちで現実逃避として読書を始めましたが、振り返ってみると小説の登場人物を通して社会復帰をしたいという欲望が喚起されていたことがわかります。

『エキゾティカ』という東南アジアで各国の食事を食べながら物語が繰り広げられる中島らもの短編小説があります。僕が食事を摂れなくなった闘病中にこの本を読んで、湧きあがる様な食欲が蘇ったのも「模倣の欲望」です。

安部公房の『砂の女』の主人公である仁木が、砂丘での孤独な生活から庭先の花を育てる身近な幸せを見出しているシーンを読んで、僕も困難な環境にも適応して力強く生きていきたいという欲望を強く感じたのも「模倣の欲望」です。

もちろん闘病中だけではなく、読み手の様々な状況に対して応用して考えることができます。

登場人物の成功を目の当たりにすることで、自分も同じように成功を叶えたいという欲求が生まれ、モチベーションを得て行動変容を促すことができます。

読書は、登場人物の行動や価値観を模倣することで、読者に勇気や希望を与え、自身の状況に応用できる知識や対処法を提供してくれます。

まさに「欲望の見つけ方」を教えてくれる良書なので、未読の方はぜひお読みください。

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