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第一章 初めての土地で単身出張、二泊三日の場合④

⇩ 前回<第三節 いざ、店内へ>はこちら

第四節 注文と食事

 先ず大前提ですが、こういった飲食店の場合、お酒類を提供する事によって利益を生んでいることを理解しておく必要があります。ですから貴方がお酒を様々な理由で飲めない場合は、一言最初に言っておく方が親切かも知れません。しかし今日はとことん呑む気満々の貴方は最初から躊躇なくアルコールを注文します。最初の一杯について様々な流派があるのですが、約60%方がとりあえずビールと発声します。最近はここに追随する形で約10%(この%は年々上がる傾向にあります。)の割合でハイボール派に属しています。洋食の場合はハイボールと並ぶ形でスパークリングワイン派も少なからず存在します。何れも共通点は炭酸による清涼感を求めるという点にあります。しかしワイン派閥は開けるとその日に呑み切らねばならないという焦燥感に駆られる為、単独でボトルを開ける強者か、高い社交性を持ち、その店の中で信頼を勝ち得た猛者のみが発注し得る傾向にあります。又、和食の場合、ややワインがお品書きに対して不向きであるという学説もある為、ワインの品揃えに不備がある場合もあり、ここは避けておいた方が無難です。貴方はハイボールを注文する事にしました。ハイボールの多くはウィスキーを炭酸で割ったものですが、蒸留酒であるウィスキーに比較的糖分が少ないという学説の信奉者である貴方は、最近気になりだした、腹囲が順調に成長している件を鑑み、せめてもの抵抗としてハイボールを選択します。和食の店ではウィスキーも国産品を置いていることが多く、この日も貴方は国産ウィスキーをハイボールにして呑む事にします。

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 店の店主は女性と男性の二名ですが、どうやら調理担当が男性で、接客担当が女性である様です。店の名前もひらがなと漢字の融合でしたから、妙に納得がいくところですが、ここで店主の事を呼ぶ時、関係性が出来る前から「大将」や「女将」、又は「ママ」等と呼ぶことは非常に危険です。周りの常連さん達がどう呼んでいるかを傾聴する事も大事ですが、それも含めて人間関係がなせる業なので、現段階では魔法の言葉「すいません」が活用できます。最初の難関である飲み物を発注出来た貴方は、とうとう食事を発注するチャンスに見舞われます。食事をオーダーする最大のチャンスは最初の飲み物が造られて運ばれてきた時です。この飲み物を頼んで手元に持ってきてくれる間の時間は、この規模のお店の場合、約2分少々といったところです。5分だと余程混んでいるか、店主の体調が悪いか、貴方が絶望的に嫌われているかのどれかとみて良いでしょう。この2分の間に何か注文するべきものを決めなければなりません。幸いカウンターには総菜が5種類並んでいます。貴方はこの中から菜っ葉の炊いたんとポテトサラダを注文する事に決めました。総菜に関しては目の前にありますから、自身の判断のみで決めて良いと思われますが、特に刺身に関してはお店側のアドバイスが必要となります。刺身は新鮮さが命なので出来る限り早く売り切る事が肝要だからです。ですから発注の仕方は「すみません(これは相手がこちらに注視して居れば敢えて言わないでも大丈夫です。)、この菜っ葉の炊いたんとポテトサラダ、それと刺身は何がお勧めですか?」これでパーフェクトです。すると先方が説明をしてくれますから、それを聴いて好みのものをチョイスする事で関係性を損なうことなく注文が可能でしょう。 

 この発注する際の言語選択ですが、ポイントは「相手に意味が通じる程度の標準化された方言モード」が最適と考えられます。発注する際に意味が通じない程の方言は問題が有りますが、お互い対する情報が少ない中で親しみやすさを増幅する為には、こちらの情報をある程度与える事が必要だからです。その際に、標準化された方言は、コミュニケーションを深める為の最適なツールとなります。ですから貴方は自身が関西出身である事を印象付ける為に、敢えて菜っ葉の煮物を、「菜っ葉の炊いたん」と表現しました。これで後に先方が貴方に話しかけるきっかけを作る事に成功したと言えます。その地域の方言を覚えて注文する事も有効な手段となりますが、間違った発音やイントネーションをした場合、相手が馬鹿にされている様な印象を受けてしまい、要らぬ誤解の基となるケースが有ります。地元の方言を使う際は、地元の方に方言の御教授を受けた後に、下手ですが頑張っていますよという事が認識されている状況で行いましょう。

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 さてそうこうするうちに食事が運ばれてきました。先ずは味の薄い菜っ葉ら頂き、その後、刺身に移行しましょう。和食の場合、ほとんどの場合刺身で勝負と方針を出しています。そして店側も刺身に対し、客が如何にリアクションするかが気になって居ます。嘘をつく必要は無いですが、美味を感じたら少し大きめの唸りを入れながら「美味しい」と言えば大抵は喜んでいただけます。そうすると店側もどこどこで今日採れたとかの情報をくれます。その際は素直に、どうしてこんなに美味しいのかを聴いてみましょう。様々な理由があります。潮の流れ、魚が何を食べているか、水温、山から流れてくる豊富なミネラル等々、そのどれもが自慢の一品の自慢たる所以です。又、地名が出る事によって、自分の地元の事に話が及ぶことが有ります。この際、先ほどの「菜っ葉の炊いたん」が効いてきます。間違えても刺身にポテトサラダを乗っけて食べるみたいな、トリッキーな食べ方は慎みましょう。トリッキーについては第二章で論じる事になります。 

次の第五節では弾みだした会話をどう盛り上げて愉しい時間にするかについて論じて行きたいと思います。

<第五節へつづく>

⇩ <序章>及び<目次>はこちら


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