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献血


献血バスに入っていく女の細い背を見送り、カフェのテラス席でビールを飲み帰りを待った。献血が好きで、バスを見かければ必ずする、血を抜くと体が少しだけ透けて軽くなる、と女は言った。ビールを飲み終える頃、バスから出てきた。こちらへ歩いてくる足の運びが、微かに浮遊するような静けさを帯びた。やや顔が白んでいた。それは、夏の盛りの日の、暗いホテルから晴れ切った路地へ出て、目が痛いと額にやった掌に翳る青い顔に似ていた。はじめての時と、同じホテル、同じ部屋だった、と女は打ち明けたのだった。物音のない、明るいホテル街を女は目を細めて見回した。


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