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【カレー】【お弁当】

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#ショートショート

父としての君に告ぐ

 昨夏、日帰りで帰省した私に、父は日曜大工のようにいくつかの用事を言い付けた。姪の宿題を実父母に代わり手伝うことと、夕飯の給食当番、もう一つは地元盆行事における町内会の助っ人だった。

 彼は職場勇退後、地元盛岡に隠居の身となったのだが、実際は縁側で茶をすすっているのではなく、家の廊下で銃を構えている。昔取った杵柄で、射撃選手の育成に携わる。老体を酷使して。

 その父親から、簡単に言うと戒名を書

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彼女と彼

彼女と彼

 よく人のことを犬みたいとか、猫みたいとか違うものに喩えて表現する。人間観察が好きな私はというと、カレーで人を喩える。変だとか言われるけれど、それが一番しっくりくるのだから仕方ない。甘口な人は子供に好かれやすくて、辛口の人は大人っぽいみたいな。
 例えば面倒見がよくさわやかで、みんなから頼りにされているバイトの山下先輩は、夏野菜カレー中辛、隠し味にはカルダモンスパイスとチャツネ。最近入ってきた口数

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選択は時に、どちらも正解をはらんでいて。

ある日突然、母は言った。

「お父さんとお母さん、どっちについていく?」

妹はぽかんとして、訳が分からない、といった様子だった。でも、私にはわかる。父と母は、とうとう別れるのだ。正直、別れること自体には安心していた。受話器を持って泣く母を、もう見なくて済む、と思ったからだった。

「私はお父さん」

迷わずいう。母は驚いたような、悲しそうな顔をして、そう、とだけ言った。もちろん、母のことは好きだ

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