【詩日記】 雫の結晶

雫の結晶
 
 
 大きな水槽から溢れて溢れて仕方ないんだ
 みんなの教室から見える運動場にある
 液体は地面に着いた瞬間に雫の結晶になる
 それを僕はかき集める
 とても綺麗だから
 太陽にかざすといろんな光を放つんだ
 ねえ見て。
 振り返ったけれど誰もいなかった
 見せたい人はいるんだろうけれど
 すぐには思いつきたくないんだろう
 
 この結晶で『エイエン』って文字が書けるとここから出してもらえるって
 雪の女王が言ってたよって
 三組のやつが言ってたらしい
 みんな一斉に書こうとしているけれど
 僕らはまだそこまで漢字を習っていないんだ
「奇遇だねえ 君も気づいた?
 そうだよ 僕ら一生ここから出れないよ。
 それか来年の授業で漢字の勉強が進むまで待つかい?」
 どうせ何をしても無駄だから
 僕はこれから大好きな雫の結晶を太陽に一番近いところで並べるよ
 屋上がいいかなあ
 
 君に手を引かれて登る屋上への階段はまるで天国への階段
 夢の中みたい ずっとずっと上まで登るんだ
 君はいつも日の光の方を見ているから
 顔が見えない
 繰り返し繰り返し見る夢の中で一度聞いたことがある
「ねえ、君は誰だっけ?」
 こちらを見たその子は泣き顔でわからないと言っていた
 屋上に着くとたくさんの綺麗な結晶が並んでいた
 素敵と言うたびに
 その子の鼻が高くなっていった
 あれ?ハーフなの?
 そうかもしれないと言ったその子は
 黒からヘーゼルの瞳に変わった
 次第に優しい香りがしだした
 暖かく私たちを包んでくれる洗いたてのバスタオルみたいな香り
 それはお日様の光で結晶が溶ける香り
 「僕たちだんだん天国に近づいているんだね」
 と瞳がきらめいていた

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