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産業医の先生は何をしてくれるんですか?

事例

ナインエス株式会社は120人の社員が所属する設立10年の、IT企業である。ここ1-2年で社員が大幅に増加し、従業員は会社の拡大に合わせるように毎日ばりばり働いている。先日、労働基準監督署の立ち入り調査で、『産業医を選任するように』という指導をうけたため、人事部員の朝倉が、産業医を探すことから契約、来社時の対応まで全てを一人で行うこととなった。今日は、産業医の佐々木が初めて来社する日である。

佐々木:「はじめまして。医師の佐々木です。よろしくお願いします。」

朝倉:「ナインエス株式会社、人事部の朝倉です。よろしくお願いします。」(とりあえずネットで調べた紹介業者さんが勧めるがまま募集をかけてみたけど、まともそうな先生でよかったな。)

佐々木:「早速ですが、この1時間で何をするか教えていただけますか?」

朝倉:「お恥ずかしい話、これまで産業医の先生に来ていただいたことが弊社では1度もなくて、先生がよいと考える内容をお教えいただければ、それを行っていただくような形でかまいませんが・・・」(えっ?こっちで考えるの?どうしよう・・・)

佐々木:「なるほど・・・」(えっ!?産業医先ではいわれた通りに時間を過ごしていればそれで良いって紹介会社の人にいわれたのに、何か提案しろっていわれても、会社のことなんて何もわからないのに無茶言うなあ・・・)

佐々木:「とりあえず、職場巡視は法的にしなければいけない(でよかったよな・・・)ので、それを今回はさせていただいて、次回以降に詳しくどうすれば良いか打ち合わせをさせてください」(なにをしていいか全然わからない。とりあえず、今回は職場を見せてもらって、産業医に詳しい知り合いに何を提案すれば良いかを相談してみよう。)

朝倉:「職場巡視ですか・・・承りました。ちょっと確認してみますね。(職場を見て回るなんて聞いてないよ・・・セキュリティの問題もあるから今から手続きしていたら1時間以内だと厳しいかもしれない・・・)」

手続きの結果・・・

朝倉:「先生、申し訳ないのですが、社内のセキュリティの関係で本日は社内を見て回ることが難しいので、今回は顔合わせということで、次回以降にお願いする形でよいですか?(ただ世間話しただけ?この先こんな感じに毎回なるんだったら産業医って何のために来てもらうの・・・?)」

佐々木:「わかりました・・・(なんか朝倉さん不満そうな雰囲気だな。産業医の仕事は難しくない仕事と聞いていたのに、いままでやってた病院での仕事と全然違うぞ・・・本気でわかっている人に相談しないとまずいかも・・・)」

<この記事の事例はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。>

事例の解説

この事例は、企業側も産業医側も産業保健の進め方を知らないという設定にしていますが、このようなことは実際に発生しています。専門家にお任せしたいというご意見もあるかと思いますが、産業医側の経験が乏しいこともありえるため、会社側が何に困っているのか、産業医に何をして欲しいのかという問いに、明確な答えをまず持つことが、「産業医との上手の付き合い方」の最初の一歩になると思います。

産業医は何をしてくれるのか?

「産業医が何をしてくれるのか?」難しい質問ですが、誤解を恐れずにお答えすると「働く人が健康に働き続けるために必要なことであれば基本的にはなんでもします」ということが、産業医学が専門である医師の回答の一つになるかと思います。
 
 企業側の求めに応じて、産業医がすることが大きく変わるという風にも考えることもできます。なので、「産業医に何をしてほしいか」という問いに、明確な答えをまず持つことが、良好な関係を築くための必要なこととなります。

産業医と良好な関係を築くための最初の一歩
  
 産業医とうまく付き合うためには、互いに理解しあうことも重要です。そこで、今回の事例のように初めて契約する産業医の1回目の訪問日には、次の2点を意識することをお勧めします

① 自社を知ってもらうこと
② 最低限の業務を依頼すること

①自社を知ってもらうこと
 まず、初日の打ち合わせの日に、自社の事業内容(製品・サービス)や従業員の業務内容について一通り説明します。IR資料やパンフレット等を準備してもよいでしょう。多くの経験の浅い産業医は、企業で働いている方々のイメージを持てていない場合があります。そのため、どのような企業なのかを産業医に知ってもらうことは、今後の長い関係をスタートする上では非常に大切になると考えます。自社の紹介の後に、社内を一周しながら、追加で説明することで、さらに企業や従業員の働き方のイメージがつきやすくなります。

産業医としてある程度経験を積んでいても、初めて訪問する企業は緊張するものです。実際の事例として、初回訪問時に「産業医の先生には正直何もしてほしくないので、お茶飲んで30分したら帰ってください」と担当者に言われるようなこともあるため、どのようなスタンスで産業医を受け入れてくれるのかと、初日はいつも本当に緊張します。「この企業は少なくとも産業医と連携しようとしている」という姿勢を産業医とも共有するためにも、このプロセスを丁寧に行うことが、その後の関係のためにも重要だと考えます。

②最低限を依頼すること
 ここでいう「最低限」は、次の3つです。

  1. 職場巡視(法令で求められている、産業医が職場を見回り、健康に問題が生じそうな業務や設備の状態がないかを確認するためのものです)の毎月の実施の依頼

  2. 健康診断結果の確認と、働かせることに問題がある社員の抽出の依頼

  3. 安全衛生委員会への委員としての選任と、毎月の参加の依頼(安全衛生委員会は、法令で定められた、労使がともに参加して、事業場の安全や衛生について報告・調査・審議する会議体です。事業場の規模によっては設置が義務となるので、設置されていない場合は、その設置も優先して取り組むべきことの一つであると考えます。産業医の参加は必須ではありませんが、企業の安全衛生活動に一緒に取り組むためには、参加することが自然です。)

 法的には、1)と2)が求められており、3)はその性質上参加が望ましいと考えられます。これらの詳細についてはトリセツプロジェクトの別記事で解説されますので、詳しくはそちらを参考にしてください。

今回の事例の佐々木先生、産業医業務の経験をしっかり持つ医師に相談しようと考えていたようなので、次の訪問時には、最低限必要なことについても説明してくれるはずです。

それでは、引き続きこの二人がうまくナインエス株式会社の産業保健体制を構築できるのか?あるいは、すれ違ったまま悲しい結末に終わってしまうのかを最後まで見届けていただけると嬉しく思います。

本記事担当:@NorimitsuNishi1 ,@ohpforsme

記事は、産業医のトリセツプロジェクトのメンバーで作成・チェックし公開しております。メンバーは以下の通りです。
@hidenori_peaks, @fightingSANGYOI, @ta2norik, @mepdaw19, @tszk_283, @norimaru_n, @ohpforsme, @djbboytt, @NorimitsuNishi1
現役の人事担当者からもアドバイスをいただいております。

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