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コロナはインフルエンザより凶暴です(JES通信【vol.158】2022.12.12.ドクター米沢のミニコラムより)

1.第8波にご用心

 10月後半から再び増え始めた新型コロナウイルスの新規感染者数は、今回最も早く増え始めた北海道で、夏の第7波のピークを超える過去最多の感染者を出しました。宮城、福島、秋田、山形など寒い地方から増え始めています。おそらく暖房を使うようになって換気が十分にできないことに一因があるように思います。
 11月30日に厚生労働省の専門家会合で、日本人のコロナ既感染率(抗N抗体陽性者)は26.5%と発表されました(資料1)。2022年2月の調査では東京や大阪で5%程度でしたから(資料2)、第7波で多くの方が感染したことがわかります。ちなみにアメリカやイギリスはすでに9割を超えていますので、マスクを外すなど対策を緩めることができたわけですが、日本ではまだ約7割の人が感染しやすい状況にあり、第8波で過去最多の感染者および死者が出るのではないかと心配されるわけです。 

2.コロナはインフルエンザより凶暴です

 新型コロナウイルス感染症は、以下の4つの点でインフルエンザよりも凶暴です。
 
1)重症化率、死亡率について
 最近、「コロナの危険性はインフルエンザ並みになったので、厳しい対策は必要ないのではないか」という話が国会などでも聞かれるようになりました。その根拠の一つが厚生労働省の7月の資料で(資料3)、コロナ第6波の重症化率は0.03%、致死率は0.01%(60歳未満)であり、季節性インフルエンザ(2017-2020年)と同程度になっていることがわかります。ただし欄外の注意書きを見ると、同じ条件で集められたデータではないことがわかります。死者数を大幅に数え間違えることはないのですが、罹患したのに受診しなかった人の数はわからないので、感染者数はもっと多いはずなのです。
 ではコロナとインフルエンザ、どちらの未受診者が多いのか?毎年恒例のインフルエンザの方が未受診者は多いように思いますが、わかりません。この表から言えることは、2021年のデルタ株に比べオミクロン株の死亡率は1桁下がり、インフルエンザに近づいた。ただしデータのとり方が違うので、判断は慎重に、ということではないでしょうか。
 しかし身近なニュース報道からある程度推測はできます。北海道では2022年11月の1ヶ月間にコロナで585人が亡くなっています(資料4)。仮に年明けの1月までこの死者数が続くとすると 約1,800人。インフルエンザでの国内の年間死亡者が約3,000人と言われていて、関連死を含めても約9,000人ですから(資料5)、インフルエンザ並みとは言えないのではないでしょうか。
 海外からも同じようなレポートが出ています。カナダの報告では、全年齢に渡ってインフルエンザよりもコロナの死亡率が高く(資料6)、アメリカでは過去3年間、コロナが死因の3位です(資料7)。
 極めつけはコロナ現場の、「オミクロン株のどこが風邪やねん!」という声です(資料8)。臨床医の「肌感覚」ですね。いくら重症化率が下がっても感染者が激増すれば重症者も増え、医療逼迫を起こすのです。厚生労働省の推計だけでなく、さまざまなデータに目を配りつつ議論を進める必要があると思います。さらにオミクロン株の重症化率の低下には、ウイルスの変化だけでなくワクチンの効果もあると言われており、ワクチン3回の接種率が7割に届かず、ワクチンの効果は時間が経つと減弱することを考えると、この先油断できないのです。
 「虫の目」「鳥の目」「魚の目」という言葉があります。「虫の目」は複眼。つまり「近づいて」さまざまな角度から物事を見ること。「鳥の目」は高い位置から「俯瞰的に全体を見回 して」見ること。「魚の目」は潮の流れや干潮満潮という「流 れ」を見失わないこと、だそうです。経済学者や政治家、官僚など非医療系の人は、その職業柄から当然なのでしょうが、鳥の目で物事を見がちです。一方、街の臨床家は虫の目で見がちです。ホテルのブッフェの手袋とか学校で毎日消毒しているなどは、魚の目の視点に乏しく情報のアップデートができていない結果でしょう。「虫の目」「鳥の目」「魚の目」の3つの視点を忘れず、冷静に判断していきたいものです。
 
2)感染力
 オミクロン株の問題の一つが感染力の強さです。ウイルスの感染力(伝播性)を評価する指標を基本再生産数(R0)と呼びます。1人の人が何人に感染させるかを数字にしたもので、季節性インフルエンザでは1.2から1.6と言われているのに対し、オミクロン株BA.5では5を超えると考えられます(資料9の4ページ)。
 たとえば季節性インフルエンザのR0を1.5、潜伏期間を2日間、オミクロン株BA.5のR0を6、潜伏期間を3日間とします。極めて単純化した計算ですが、感染者がどのように増えるかを見ると 、
○インフルエンザ
1人→1.5人(2日後)→5.1人(6日後)→45万6976人(12日後)
○オミクロンBA.5
1人→6人(3日後)→36人(6日後)→167万9616人(12日後)
というように、わずか12日後に3.7倍の差が出ることがわかります。
 実際には私たちの予防策・行動のおかげでこのようには増えませんが、感染力の差が実感できる数字です。過去2年、インフルエンザはまったく流行りませんでしたが、コロナは封じ込められなかったことからも感染力の強さの差を実感できると思います。
 
3)体へのダメージ
 身体へのダメージにも大きな差がありそうです。インフルエンザでは、稀に脳症で亡くなる方があるにしても、基本的には上気道の感染症ですが、コロナは上気道だけでなく、心臓や血管に障害を起こし、心筋梗塞や脳卒中などの致命的な疾患を起こすリスクが10倍から30倍高くなっています(資料10)。これも致死率を高めている一因と思われますし、後述する後遺症の原因の一つにもなっているようです。
 
4)後遺症
 インフルエンザなど他の呼吸器疾患でも、罹患後に後遺症が残ることは知られているのですが(ウイルス感染後症候群)、今回のコロナはその確率が高いようです。後遺症によって仕事や社会生活に大きな影響が出始めており、無視できない問題です。

3.後遺症を理解しましょう

 WHOは後遺症を post COVID-19 condition と呼んでいて、コロナ感染が原因と考えられるさまざまな心身の不調が2カ月以上続く場合としています。厚生労働省では「罹患後症状」と呼んでいます。後遺症が起こる原因は、ウイルスによって肺の組織が傷つけられること、感染によって免疫系に異常が起こり慢性の炎症が続くこと、血液凝固系に異常が起こり血管を傷つけること、微量のウイルスが体に残っていて悪さを続ける可能性などが考えられています(資料11の10ページ)。
 
1)後遺症の症状(資料12)
 代表的な後遺症症状は、倦怠感、関節痛、筋肉痛、しびれなどの全身症状、記憶障害、集中力低下、不眠、頭痛、抑うつなどの精神神経症状、咳、痰、息苦しさ、胸の痛みなどの呼吸器症状、下痢、腹痛などの消化器症状、動悸、嗅覚・味覚障害、脱毛などです。
 症状は時間経過とともに徐々に減るものの、少なくとも1つの症状が1年以上続く方が1割弱もいるのです。そのことが次に述べる労働損失の大きな原因となっています。
 
2)後遺症による労働力の損失
 後遺症によって仕事に支障をきたした人が多数発生して問題になっています。アメリカでは労働年齢(18~65歳)にある米国人1,600万人が現在コロナ後遺症を患っており、200万~400万人が働くことができていないと推定されています(資料13)。イギリスでは290 万人の労働年齢層 (全体の7%) が後遺症を患い、生活に支障が出ている人は19%、仕事を辞めた人が8万人と推計されているのです。日本の報告はまだないのですが、既感染者26.5%の1割に後遺症が出ると考えると300万人以上です。これは大変なことです。
 
3)後遺症の対策・治療
 後遺症を防ぐためにもっとも大事なことは、罹患したら7~10日間の療養期間はしっかりと休み、その後も2ヶ月間は無理をしないように気をつけて過ごすことです。
 通常は罹患後2、3週間で症状がなくなりますが、それ以上続くようなら、受診した病院や後遺症に対応している病院へ相談してください。相談機関のリストを用意している自治体もありますので調べてみてください。後遺症の治療法はまだ十分には確立されていないのですが、上咽頭擦過療法(EAT、Bスポット療法)、鼻うがい、漢方薬などで効果が出る人もいます(資料14)。
 ともかく病気の治療でもっとも基本で大切な、安静、休養、養生を心がけてください。ワクチン接種していると後遺症が出にくい可能性があるので、3回以上の接種をお勧めします。
 
4)職場の理解
 職場での配慮も大切です。倦怠感くらいなら会社に来い、甘えるな、気のせいだと言われたといった話を聞くと、職場の理解が十分に進んでいないと感じます。感染したのが職場であれば労災問題にもなりえます。職場の安全配慮義務の観点から、専門家の意見を参考に、職場での配慮、業務の調整などを検討してください。オミクロン株の感染力を考えると、もはや「誰でもかかる病気」と考えるべきで、この冬は過去最多の感染者が発生する可能性があります。感染や後遺症による欠勤者が常時出ることを想定した上で、業務の体制を組むことをお勧めします。

参考資料

1)https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001018624.pdf
2)https://www.mhlw.go.jp/content/000945078.pdf
3)https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000964409.pdf
4)https://mainichi.jp/articles/20221201/ddl/k01/040/017000c
5)https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000906106.pdf
6)https://twitter.com/KashPrime/status/1572041720203730950/photo/1
7)https://www.healthsystemtracker.org/brief/covid-19-leading-cause-of-death-ranking/
8)https://news.yahoo.co.jp/byline/kuraharayu/20220216-00282294
9)https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001003670.pdf
10)https://m.facebook.com/story.php?story_fbid=pfbid05YUc6euYJ4eJyCCEsLP6rjG7jeiLRtpxEZddyQsBQWDDKJx5A9m3zBHrFqje57BYl&id=100003403973006
11)https://www.ajha.or.jp/topics/admininfo/pdf/2022/221017_1.pdf
12)https://news.yahoo.co.jp/byline/kutsunasatoshi/20220410-00290640
13)https://www.cnn.co.jp/business/35192375.html
14)https://www.hirahata-clinic.or.jp/covid19/treatment

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