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アルコール関連問題啓発週間です(JES通信【vol.173】2023.11.10.ドクター米沢のミニコラムより)


▼職場のアルコール問題

○職場の3Aとは

 アルコールは嗜好品として親しまれており、日本の飲酒人口は約8,500万人と言われています(2013年)。一方、アルコール性の健康障害(肝臓病、胃潰瘍など)による欠勤や、飲み会で同僚に絡むとか、飲酒を強要するアルコールハラスメントなど、さまざまな職場の問題も起きています。さらにアルコールはうつ病や不眠症の原因にもなります。アルコール問題は「職場の3つのA」(absenteeism:欠勤、勤怠不良、alcohol:アルコール、accident:事故、ミス)の一つとされ、従業員のメンタルヘルス不調を早期に発見するためのポイントと言われてきました。
 アルコール問題はいずれも多量飲酒で起こるのですが、アルコールを飲んで赤くなる人・ならない人がいるように、体質には個人差がありますし、個人で自由に買える物の消費量を規制するわけにもいきません。さらに「飲みニケーション」といった言葉があるように、飲酒がコミュニケーションを助ける手段と認識されてきました。欧米に比べると日本はお酒に寛容な文化なのです。

○11月10日~16日はアルコール関連問題啓発週間です

 このような背景を踏まえ、2013年にアルコール健康障害対策基本法が成立しました。毎年11月10日~16日が「アルコール関連問題啓発週間」と定められ、国や自治体では酒害防止のための各種イベントを予定しています(資料1)。また今年9月に開かれた「アルコール健康障害対策関係者会議」では、国内初となる「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン(案)」が公表されました(資料2)。当社も11月10日に、東京アルコール医療総合センターと共催でアルコールセミナーを行いました(資料3)。

○コロナ禍での職場のアルコール問題

 そもそも私たちEAP (employee assistance program:従業員援助プログラム)は、1940年代アメリカで職場のアルコール問題へ介入することから始まりました。飲酒問題を抱えている社員を休職や退職させるよりも、早期に治療につなげ回復を促す方が、本人や家族はもとより企業側としてもメリットが大きいことがわかったからです。
 今回のコロナ禍では従業員の飲酒行動が大きく変わりました。三密(密集、密接、密閉)が危険と言われ飲食店が時短営業になり、外食で飲酒する人が激減しました。一方、在宅勤務が普及したことで「家飲み」が増えました。通勤がなくなったので早い時間から飲み始め、飲酒量が増えたという人がけっこういます。運動不足も相まって健康診断でメタボの人が増えました。
 ただ、在宅勤務になって飲酒量が増えた人ばかりではありません。営業活動で飲酒していたが、在宅勤務になったらほとんど飲まなくなったという人もいます。今年5月のコロナ5類移行後も、職場の飲み会はあまり増えていないようです。一人ひとりが飲む・飲まないを考えるようになり、飲酒行動が多様化してきたのかもしれません。

○アルコール問題の難しさ1:対応の難しさ

 企業の人事・健康管理担当者から、アルコール問題は厄介だと言われることがあります。多量飲酒が原因と思われる勤怠問題や業務上のトラブルを指摘しても、言い逃れをする。産業医面談や病院受診を勧めても拒否する。同僚や上司からは対応に困ると苦情が来るが、本人は周囲のせいにする。さまざまな手を打つがうまくいかず、最終的には退職に至ってしまう。担当者の疲労感、やるせなさは半端ではありません。

○アルコール問題の難しさ2:問題に早く気づくことの難しさ

 一方、多量飲酒者が最初から問題を起こすわけではありません。飲酒が習慣化するにつれ飲酒量が増し、少しずつ健康問題や業務上の問題に現れます。徐々に悪くなっていくと、急激に悪化した場合に比べて「何とかしないと」という危機感を持ちづらいのです。健康診断や周囲の人の助言で飲み過ぎに気づき、飲酒量を減らせればいいわけですが、そのチャンスが得られないと、5年後10年後にはアルコール問題として顕在化し、職場は対応に苦労することになるのです。

○職場こそ健康を提供できる場

 基本法制定で国がアルコール健康障害防止に動き始めたこと、飲酒の強要がハラスメントの一つとして認識されてきたこと、コロナ対策を受け飲酒習慣が変わったことで、私たちは飲酒について考え直すようになりました。飲酒できる人でもあえて飲酒せずに集まりを楽しむソーバーキュリアス(しらふを楽しむ)というスタイルも生まれています。ノンアルコールビールなどの製品もバリエーションが増えました。ノンアルコール飲料を活用することで飲酒量を減らすことができるといった研究報告も出ています(資料4)。
アルコール問題を視野に入れることで、職場の健康管理はより効果的なものになります。第一歩は健康診断の事後措置です。肝機能や脂質、血圧、血糖、尿酸などで「要再検査・要治療」になった人への対策を人事と産業保健職で検討し、アルコール問題が軽度のうちに減酒や断酒に導きましょう。そしてすべての従業員がアルコールで健康を害さないよう、社内の啓発活動を続けましょう。
 アルコール問題は防げます。それは普段の健康管理対策にかかっているのです。

▼感染症概況

○インフルエンザ急増、コロナ減少

 ニュースなどで報道の通り、9月からインフルエンザが急増しています(資料5)。この時期に増えるのは2009年の新型インフルエンザ流行以来のことです。さらに夏に流行するはずのプール熱(咽頭結膜熱)が、9月から10月にかけて増えており(資料6)、過去に見られない状況になっています。コロナの夏の波はようやく収まってきましたが(資料5)、この冬はコロナとインフルエンザの同時流行が懸念されますので、風邪症状が出たら人と会うのは避け、引き続き有効な感染対策を心がけてください。

○予防接種について

 9月20日から新型コロナウイルスのワクチン接種が始まりました(資料7)。XBB.1.5対応のもので、生後6ヶ月以上の方が対象です。今回も自己負担金なしで接種できます。接種券が届いていない方はお住まいの自治体にお問い合わせください。
 インフルエンザワクチンも10月から接種が始まりました(資料8)。すでに流行が始まっており、この冬は猛威を振るう可能性がありますので、接種をお考えの方は年内に接種されることをお勧めします。

資料
1)https://izonsho.mhlw.go.jp/
2)https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000202961_00027.html
3)https://www.jes.ne.jp/news/2023/0908_1999
4)https://tokuteikenshin-hokensidou.jp/news/2023/012628.php
5)https://moderna-epi-report.jp/
6)https://www.hokeniryo.metro.tokyo.lg.jp/kansen/pcf.html
7)https://www.mhlw.go.jp/content/001145121.pdf
8)https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou18/index_00011.html

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