見出し画像

カタールW杯日本代表総括

はじめに -W杯で日本代表を見られる幸せ-

サッカー界においてW杯とは特別なものだ。各国で開かれているリーグ戦や、チャンピオンズリーグなどのコンペティションでは比にならないほどの注目を浴び、選手もそこを目指して日々絶え間ない汗を流し続ける。

それは、各国の国旗を背負った熱き男たちが頂点を目指し、鎬を削る世界で最も名誉ある戦いである。

1930年の第一回大会開催以降、その頂点に登り詰めたのはたったの8カ国。ブラジル、イタリア、ドイツ、ウルグアイ、アルゼンチン、フランス、イングランド、スペイン。そうW杯で優勝を飾ることができるのは、強国のみ。誰もが成し遂げられることではない。あのメッシやC.ロナウドですら優勝杯を掲げたことがない。それほど難しくタフな大会だ。

だからこそ、その頂点を目指す意味がある。


FIFAに加入しているすべての国が出られるわけではなく、各大陸から勝ち上がった、32カ国のみが、本大会(W杯)に出場することができる。また4年に1度しか訪れることがなく、その1回でも逃してしまえば、次に出られる保証もない。
いきたい選手が行けるかといわれればそうではない、クラブチームでのパフォーマンスが数年間良いだけでもメンバーに選ばれない。W杯の年にどれだけ照準を合わせてパフォーマンスを上げていけるかにかかっているが、チームスポーツである以上、簡単にできることではない。全てを勝ち取った26人がメンバーに選ばれ、W杯という叡智に足を踏み入れることができる。それほど難しい大会ということ。

私たち日本代表がこの名誉ある素晴らしい大会に、7大会連続(28年間)で出場できることは名誉なことであるとともに、誇りに思うことであると同時に、その有志を目に焼き付けることができたことにどれほどの価値があるのかをぜひ知っていただきたくこの記事を書く。

グループステージ

日本人の誰もが落胆しただろう。正直にいうと私自身も落胆した。グループステージにW杯優勝経験国が2チームもいることに。しかもドイツとスペイン。無理だ勝ち目がない。サッカーをよく見る人ならその意味がよくわかるだろう。ドイツとスペインは2010年、2014年の優勝国。ドイツはバイエルン、スペインはバルセロナやレアル・マドリードから選手が集まる。名門だよ。誰もが知っているチームだ。その2チームがいる中に放り込まれるなんて災難すぎる。4年に1度、期待感を持つ我々サッカーファンはその期待すらできない状況じゃないか。


さらに不安は大きくなる。それは森保監督。どの試合を取ってみても、戦略や戦術がなく、パッとしない試合が多い。とにかく選手交代やフォーメーションの意図を感じることができない。
さらに追い打ちをかけてきたのは、選手選考。原口、大迫、旗手、古橋などの活躍している選手を起用せずに、前田、浅野などあまり見込みがないような選手を積極採用。あまりにも批判が殺到した。直前のカナダ戦も惨敗。惨めなW杯にならないことを願った。

とにかくドイツかスペインどちらかには引き分けて、勝てそうなコスタリカに勝って2位で突破できたらいいねという具合。まそれが妥当だし、それすらも難しいと思っていた。

そんな中始まった第1戦。前半ドイツにものの見事にやられていた。前半に決められた1点でこれは無理だと諦めた。その後も終始攻撃を仕掛けられる危ないところで、ギリギリゴールにはならない。森保監督だし、修正能力もない。何が悪いかもわかってない可能性あるなともあ思った。

だがしかし、後半チームは別のチームになったかのように躍動し始めた、4231から3421へシステムを変更し、前から守備を仕掛ける。サイドが活性化し、攻撃も人数有利でボールを動かすことができるようになった。サイドチェンジも多様し、相手の守備陣系を動かしスペースを作る。さらに三笘の交代によってさらにサイドには攻撃のバリエーションができる。警戒しているドイツのズーレに少しづつ綻びが見え始めてくる。そして、三笘から南野で深い位置を取り、南野がきつい体制ではあったものの、勇気を持ってシュートを打った。ノイアーに止められた、がしかしそこには途中交代の堂安が中に絞り、こぼれ球に反応。ガラ空きのゴールにシュートを決めた。叫んだ。
後半になって得点の匂いはしていたがまさか本当に入ると思わなかった。その勢いのまま浅野が2点目を入れた。また叫んだ。それまで無理だと思っていたことが、今目の前で書きかわった。自分の何かモヤモヤしていた気持ちが晴れていった。日本強いぞ。いける。勝てる!そう思った。初めて日本代表が強いと感じた。

だが、その時ふとよぎった。2018年ロシアW杯のベルギー戦。ロストフの悲劇を。当時世界最強と歌われたベルギーに2-0で勝っていた日本。しかし後半3点を取られて逆転負け。その時悔し涙を流したことが、頭の中に鮮明に蘇った。ダメだまだわからない。まだ勝ってない。長すぎる14分間だった。
ボールが日本陣地に行くたびにヒヤヒヤした。頼む!耐え凌いでくれ!

長いホイッスルとともに、隣にいた友人と抱き合って喜んだ。涙が出そうだった。勝ったことが受け入れられないほどだった、これは夢なのか?いや今目の前で、歴史的な瞬間を目撃した!よし、これでコスタリカにも勝ってグループステージ突破するぞ!


負けた。まさかの展開に驚きを隠せなかった。気が緩んでいたのかもしれない。選手たちがどうだったのかはわからないが、精神的には余裕を持っていたはずだ、ターンオーバーで選手を数人変えて望んでた。またもや森保監督や選手たちを疑った。裏ではドイツとスペインが引き分けていた。
この時点での勝ち点はスペイン(4)日本(3)コスタリカ(3)ドイツ(1)3節を残してどのチームにも突破・敗退の可能性がある。負けは許されない。引き分けでもドイツとコスタリカのどちらかが勝てば敗退する。初戦勝っていても厳しい。メディアやジャーナリストは日本はスペインに負け、ドイツがコスタリカに勝って、スペインとドイツがグループ突破だろうと予想していた。自分もそうなると思った。



案の定前半に1点決められた、ボール支配率も20%を切っていたし、流れもすごく悪かった、奪ってもすぐにボールを失う。このままずるずる行くのかと思った。しかし、またもや後半チームが変わる。引いて守るだけではなく、パスコースを切りながら前へプレスをかけ始める。前からプレスをかけていくことはスペインにとっては好都合。剥がせばその裏にはスペースがある。しかもスペインはその剥がすを得意としているチーム。剥がせれても前に行くということはそれなりに解決案や、戦術がないと守ることができない。今までの森保ジャパンにはその戦略や戦術がなかったため、正直大丈夫か?と思ったが、その心配は必要なかった。空いたスペースを消すために、最終ラインを押し上げ、どの選手に対して誰がどれくらいのプレスをかけにいって攻撃の目を詰むのかがはっきりとしていた。今までの日本代表では考えられないことが起きていた。それ以降日本は試合を支配したとは言えないが、優位性を保ち、またもや2点をとりスペインに勝利した。素晴らしかった。


素晴らしいのは試合に勝ったことだが、なんといってもスペインとドイツに勝利したことだ。下馬評を覆し、なんと勝ち点6でグループ首位で突破を決めた。稀に見る大逆転勝利!そして、メディアでも批判されていた森保監督の戦術と、選手選考。見事に大ハマりをして批判していた人たちを黙らせた。

日本に起きた変化とは何か

これは私の主観になるが、今回と前回大会までで、大きく違うことは2つあると思う。
まず1つ目は、相手をリスペクトしすぎないこと。これはサッカーにおいて非常に大切なこと。ジャイアントキリングを起こせるチームには常にこの精神がある。前回大会のベルギー戦では相手をリスペクトしすぎていたように感じる。おそらく先に2点も取れると考えていなかった故に、その後の戦い方に迷いがあった。引いて守るべきなのか攻めて3点目を取るべきなのか。その迷いによって集中力がなくなり、先に2点取っておきながら逆転負けを喫した。


しかし今回は違った。流れの中で自分たちのサッカーを確立し、自分たちは勝てるんだという明確な意思を感じた。逆転することができると確信していたから、先制されても慌てなかったし、2点とって逆転した後も、引いて守ることだけに注力せず、3点目を奪える機会があるなら積極的に前へ前へといっていた。そういった点で前田大然の起用の意図も明確に感じた。正直決定力やいわゆるサッカーが上手いとは言えないかもしれないが、チームのために走ることができる選手がいることも今回大きなアドバンテージになっていた。

2つ目は、個の能力向上だろう、冨安、遠藤、守田、三笘はいうまでもなく、そのほかの選手もかなり相手の脅威になる選手に成長していた。特に三笘は群を抜いていた。体力を消費した後半から出てくる三笘ほど怖いものはないだろうと思った。今回ウイングバックでの起用になったが、守備でも攻撃でも違いを見せた。三笘にボールを渡せばほとんどの確率で、相手の陣地の奥深くまでボールを運ぶことができる。選手たちもそれをわかっているからあえてサポートには行かず、三笘にスペースを与える。警戒している相手のチームは1人では止められないから2人で止めにくる。相手を惹きつけることができ、味方にスペースを与えることができる。チームでの成長は時間をかければできるが、個人の能力はそれまでの個人の努力によるものが大きい。個でゲームの流れを変えられる選手がいることはそのチームにとってものすごく大きいアドバンテージになる。


また、守田や遠藤という選手たちも大きな存在だ。今大会ではよく見られるのが、なかなか中盤を経由してパス回しができてないチームがある。前線と最終ラインでのパスで中盤が間伸びしてしまうパターン。これはゴールを取りたいという焦りからくるものもあるが、基本的に中盤で奪われることのリスクがある。W杯ではその失点が命取りになる。しかし、それと同じくらい中盤でゲームを支配することは大切だ。その役割を担えるのが遠藤や守田、ボールを取る技術、保持する技術、前線へ繋ぐ技術がワールドクラスに高く評価できる。カウンターサッカーではなくボールを保持するポジショナルサッカーが向いている日本にとってはこれもアドバンテージになる。中盤で圧倒的にボールを支配し、攻撃を仕掛けれる足の速い三笘と伊藤や決定力のある堂安非常にバランスが良く、今後にも期待できる仕上がりだった。

今回のW杯を通して感じたこと

今回の日本代表の活躍は、日本人にも世界にも感動と衝撃を与えたと思っている。普段からサッカーを見る人も、普段はサッカーを見ない人も心は一つになっていた。
私は、最初から日本がグループステージを突破することを諦めていた。スペインやドイツに勝つことは無理だと思っていた。でもそれはメディアやそれに振り回されていたサポーターだけだったということ。選手や監督は全く諦めていなかった。明確な自信と戦術を今大会のために準備してきた。我々サポーターや日本のため自分たちのために、強国に引けを取らないどころか、それを超える強さで戦ってくれた。諦めていた自分が本当に情けないと思った。何かを応援することは信じることだということを改めて教えてくれた。そしてまた何かを応援することの素晴らしさを教えてくれた。日本代表はベスト8にはまたしても行けなかったが、価値のあるベスト16だったと思っている。日本がその強さを世界に証明し、アジアとしても世界的な地位を確立することができたのではないかと思う。

クロアチア戦はPK戦でというあまり納得のできない敗退ではあったが、その悔しさは、ベルギーに負けた時のそれとは大きく違うものだと思う。4年後の大会に向けた船はすでに動き始めている。次はアジアとしてではなく世界の日本代表として堂々と優勝目指して戦える国になっていると思う。

ありがとう森保ジャパン。4年後にまたアメリカで。


この記事が参加している募集

サッカーを語ろう

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?