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映画『クロスワード』が描く、現代だからこそ沁みるロマンス

映画『クロスワード』はアイルランド出身のヴィンセント・ギャラガー監督によって制作された、
人々の優しさが連なるハートウォーミングな物語です。

変わり映えのない生活の中で孤独を感じる女性、
どうにかして彼女に幸せを届けたかった男性、
そんな彼らを見守る温かい人々。

主人公・ヘザーの名前や、作中に登場した歌『ゴー・ラッシー・ゴー』にはどんな意味が込められているのでしょうか?

今回は映画『クロスワード』の作品解説をお届けします!

ここから先はネタバレを含みますので、もしよければ作品をご覧になってからお読みくださいね!

『クロスワード』
〈監督〉Vincent Gallagher
〈作品時間〉13分09秒
〈あらすじ〉
39歳の孤独な女性、ヘザーの唯一の友達は新聞のクロスワード。子供の頃からクロスワードを解き続けてきた彼女だったが、40歳の誕生日を目前に、クロスワードの内容が全て自分の生活の周りにあるものばかりであることに気づく。一体何が起こっているのか...?

SAMANSA

***



◎不思議なクロスワードはあの人からのプレゼント

仕事をしてカフェに行って帰宅する。
そんな変わり映えのない毎日を送っていたヘザー。
毎日のように没頭しているクロスワードもそんな人生の「暇を潰すため」でした。
しかしある日のクロスワードの答えが、すべて彼女の身の回りにあるものだったことで違和感を覚えはじめます。


ようやく最後の答えにたどり着いたとき、
実はクロスワードを作っていた男性からの、ささやかでそれでいて大胆な
誕生日プレゼントだったことが明かされます。

新聞のクロスワードを作るスコットは、けが人を助けて電車を逃したことをきっかけに入ったカフェで、ヘザーに一目ぼれをしていました。
しかし、恥ずかしがり屋なスコットは彼女を見つめるだけで何も声をかけられず…。



クロスワードに熱心なヘザーを見て、誕生日プレゼントを通して彼女に話しかけようと考えたスコットはジャーナリストの彼らしく、毎日彼女に関する調査に奮闘していたのでした。

ギャラガー監督は本作の脚本家であるヒュー・トラバースの脚本を見てすぐに気に入ったと述べています。

私たちの普段の人間関係は学校や職場、住んでいる地域に主に起因していますが、イレギュラーな事態が起こったときにこそ、これまで出会うことのなかった人々と巡り合うことがあります。

ギャラガー監督は完全に独立した世界を持つヘザーとスコットが偶然の一致で出会いそして結ばれるまで、彼らのキャラクターにリアリティを持たせて描こうとしたのです。


◎登場人物の名前

本作で登場する人物にはクロスワードにも出てくるように、名前にさまざまな意味が込められています。

ヘザー・・・「ラッシーの周りにあるもの」


クロスワードをするヘザー

ラッシーと聞くとインドカレー屋さんで出てくるヨーグルトベースの飲み物が思い浮かびますが、本作はその意味ではなく、スコットランド語で「お嬢さん」「少女」を表す「ラッシー」として使われています。

ヘザーは花の名前。スコットランドでは、初夏と初秋の年に二回、ヘザーが野原いっぱいに咲き誇るそうです。
花の色は紫色が主ですが、結婚式に使われる珍しい白色の花もあるのだとか。

一面ヘザーで覆い尽くされた野原 https://tabizine.jp/2016/03/28/62657/

従来、スコットランドでは、ウイスキーなどのお酒の香りづけに使われたり、染料や燃料、建材としても利用されており、現地の人々にとっては昔から生活に深く関わりのあるお花だったのです。

スコット・・・「ハイランドからくる名前」

ヘザーに一目惚れをしたスコット

ハイランドとはスコットランド北部を指す地域。

出典: https://jpn-scot.org/scotland/


スコットランドはイギリスの4つのうちの一地域であり,特にイングランドと歴史的に深い関わりがあります。
山岳地帯が多く険しい地形で、そういった特徴を生かして作られるウイスキーも有名です。

詳しくはこちら!↓

『ハイランドモルト』とは?スコッチウイスキーの入門・ハイランドについて詳しく解説!

ジョアン・・・「600年前に火あぶりにされた女性」

優しくて世話焼きなジョアン

この「ジョアン」が意味するのは実はジャンヌ・ダルク

百年戦争にイギリス軍の包囲からオルレアン(フランス中部の都市)を解放し、フランスの勝利に貢献した彼女は、その後イギリス軍によってとらえられ1430年に火あぶりの刑に処せられたのでした。

日本では「ジャンヌ」と呼ばれるため、「ジョアン」ではピンとこないのですが

英語表記だと”Joan of Arc”、フランス語表記では”Jehanne Darc"とされているので、フランス語の発音に寄せられたものだったのかもしれません。

ちなみにこの当時は名字というまだ概念がないため、ダルク(Arc、Darc)は地名を表し、「ダルク(というところに住んでいる)ジャンヌさん」という意味になります!


◎『ゴー・ラッシー・ゴー』が紡ぐ愛の物語

ヘザーがクロスワードの最後の問題を解く鍵だった「ゴー・ラッシー・ゴー」。

これはスコットランドの自然を舞台としたラブソングで、

タイトルは『Will Ye Go, Lassie, Go?』(「お嬢さん一緒に行きませんか?」)。

歌詞の一部から『The Purple Heather 』(パープル・ヘザー)『 Wild Mountain Thyme』(  ワイルド・マウンテン・タイム)などと呼ばれることもあるそうです。

誰が作詞作曲したのか曖昧な点が残っているものの、スコットランドでは伝統的な民謡として浸透しています。

歌詞の中には

”And we’ll all go together
To pull wild mountain thyme
All around the bloomin heather
Will ye go lassie go ”

そして2人で一緒に行きましょう
野山に咲くタイムを摘みに
ヘザーも咲きほこる
一緒に行きましょう

SAMANSA

「勇気」や「幸福な愛」という花言葉を持つタイムやヘザーが咲く野山に、一緒に行こうというロマンチックな歌詞が幾度も登場します。

この曲の青年は、真実の愛を求めるために、女性に一緒に野原に行こうと願っているのです。

まさにヘザーとスコットの関係性にピッタリな歌でした。

詳しい歌詞はこちら↓
明治大学-ワイルド・マウンテンタイム



◎ギャラガー監督のこだわり

ヘザーが帰宅して、お気に入りの映画を見て、ジンジャーブレッドを作る、そしてベッドへ入ってクロスワードを解いていく一連の流れ。

実はワンショット(カットを入れずに1度で撮影する方法)で撮影されていたことに気が付きましたか?


ギャラガー監督は、ヘザーにとって家が快適な空間であることを見せるために、スムーズに流れるような展開にしたいと考えていたと言います。

しかし、カメラの移動のタイミングや、照明、美術の変更などを1度に成功させることが技術的にかなり難しかったようで、完璧に仕上げるのに17テイク以上はかかったそうです。

こだわりぬいたこの場面、確かにカフェや職場の場面と比較してみると、非常になめらかに感じられてますね。

カメラの演出をヘザーの心の状態とリンクさせることで、人が生活するリアルな温もりが潜在的に表現されています。

すでに『クロスワード』をご覧になった方も、もう一度観た時には新しい発見があるかもしれません。


ヘザーだけではなく、見ている私たちにとってもクロスワードのように仕掛けが繋がっていき、幸せな気持ちにさせてくれる今作。

遊び心がふんだんに込められたこの映画は、アナログでドギマギする部分があるからこそ現代を生きる私たちの心に響く部分がありますね。


映画『クロスワード』はSAMANSAで公開中です!

ふと寂しくなってしまう夜や心を落ち着かせたい時におすすめな作品です。

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