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〜闇を抱えた少年から教えられる愛の大切さ〜映画『YOU CAN GO』

「人生、うまくいかないことばかり」
あなたはそう思った経験ありませんか?

それは会社の人間関係やお金のことかもしれません。または、突然大切な人が目の前から消えてしまったり。人間は何か悪いことがあると、自然とネガティブな方向に考えてしまうものです。

おそらくこの世界で、悩みを持たずに生きている人はいないでしょう。言い換えると、誰もが悩みを持って当たり前で悩みと共に生きているのです。

しかし限界はあります。

今でこそ抱える人が多くなりつつある心の病。ネット上でのアンチコメントなど、たった一言の言葉かもしれませんが、やがて人生を変えるほどの大きな問題になる可能性も。

特に思春期はとても大切な時期です。現代の思春期でうつ病を抱えた人は、5人に1人といわれているほど。さらに、引きこもりや不登校状態でも病気と気づかない生徒も多いのだとか。

映画『YOU CAN GO』では、そんなうつ病を抱えて苦しむ1人の少年を物語にしています。経験した人だけにしか理解するのが難しい心の苦しさ。

心の病を抱えた人の感覚や思いが鮮明に描かれた作品。
この映画の魅力や解説を通して、人を愛することの大切さや心の病への理解を深めていただけたら幸いです。


<作品時間> 9分34秒
<監督> Christine Turner
<あらすじ>
心に闇を抱えてしまった少年ビリー。彼の心の状態は、爆発しそうなほどだった。ある日、学校の事務スタッフ・ブライアントと話をする機会があった。

ビリーは、ブライアントにうつ病で苦しんでいることを告白する。さらに6歳から薬を飲んでいることも明かした。そんな様子に優しい表情を浮かべるブライアン。

実はブライアンも同じ薬を常用している人だった。それから心を許したかのように話を続けるビリー。話はうまくいったかのように思えたが、あることがきっかけでビリーは態度が急変する。

その後ビリーのとった行動が緊張感を漂わせる・・・。


◎うつ病を持った少年の心の闇

ビリーはうつ病を患っており精神安定剤を飲んでいました。この映画は、彼が事務スタッフ・ブライアンと会話をする様子を切り取った作品ですね。

実はこの映画全体を通して、うつ病患者の持つ心的状態や症状が、細かく表現されていたのがわかります。これらの描写により「ビリーの状態がどれだけ深刻なのか?」への理解につなげることができますね。

まず、冒頭にビリーが伝えていた電子レンジのお話。
「レンジを爆発させたいと毎晩考えてしまう。」

これはそのままビリーの感情の状態ですね。
抱えているものがもう爆発寸前であるということです。

「それが爆発すればもう考えなくていいから」

ビリーはここで「俺が死んでしまえばもうそのことを考えなくていい」と伝えているのでしょう。しかし、彼は電子レンジを爆発させることができない・・・。

つまりは「もう死にたいのに死ぬ勇気がないんだ。度胸がないんだ。」と、自殺できないことでさえ自分に憤りを感じている。まさに切羽詰まった状態です。

さらに心の状態の深刻さを感じさせるのが、音への反応や周りからの目線でした。

ブライアントが引き出しを開けることに反応したり、ラジオの音楽にイライラしてしまうのは心の病の特徴です。普段は気にならない小さな事にも過剰に反応してしまう神経過敏状態。

そして彼が発言した「俺は他人の目を通して自分が見える」にも注目です。

「あいつは惨めなやつだ・・・」
「ビリーは変なやつだ」

うつ病のビリーにとっては、他人から上記のように思われているようにしか考えられないのです。全てをネガティブにしか捉えられなくなってしまう・・・。

紹介した全てが、心の病を抱えた人に起こりやすい症状の数々です。
ただ、深い悩みを持っていただけではありません。


◎ブライアントが抱えていたこと

ビリーの希望の光となった事実がありました。それはブライアントも同じようにうつ病に苦しみ、精神安定剤を服用していたことです。

ブライアントは長年の結婚生活の末、夫に捨てられたことが原因で心の病気を患ったと主張していましたね。

実は『共感』こそがビリーにとっての歩みを進める一歩だったようです。

おそらく学校に誰も友達がおらず、この気持ちを表現する場所がなかったビリー。うつ病を持った人は彼自身だけだと思っていたでしょう。

しかし、目の前に同じ状況に陥っても頑張って生きている人がいたのです。ビリーにとって同じ悩みを持った人に出会ったのは、ブライアントが初めてだったはず。

最後に銃を乱用しようとするも、思いとどまれたのはブライアントだからですね。ビリーが彼女と話したことで、わずかでも「生きていい」と思えた一連の会話だったのではないでしょうか。


◎壁に隠れた女性とは?

2人が会話をしている途中で、壁に隠れて話の内容を聞いている女性の姿がありました。その女性はいかにも苦しい表情です。

一体、この女性はどのような存在だったのでしょうか?
実際、物語で明らかにされることはありませんでした。

一番に考えられるのはビリーの担任の先生です。

着眼していただきたいポイントは、銃を持ち始めた後に発言したビリーのセリフです。

「容疑者のことを知っていましたか?」
        ⇩
「いいえ。内気なタイプでいつも同じ服を着ている変な生徒だった。だけど、こんなに暴力的になるとは思わなかったわ。」

「誰も彼を愛していなかった。」

おそらく、この会話をビリーが聞いていたと考えられます。そしてこれらの話をしていたのが、きっと壁に隠れていた女性なのでしょう。

女性はビリーと親しい人物である可能性が高いです。どれだけ友達がいなくても、味方になってくれるはずだった担任の先生。

そんな先生が、他人事のような発言をしていたのを知ったビリー。もう学校に居場所がないと思ったに違いありません。

一方で、隠れた女性に映る表情もとても興味深いですね。うつ病を抱えたビリーに手がつけられなったような表情。

怖れているのか、後悔しているのか、それとも申し訳なく思っているのか、わずか数秒の登場ではありますが、印象に残るシーンです。



◎ビリーが欲しかったこと

人生の窮地に立たされたビリーに足りていなかったもの。それは最後のセリフに全て隠されていました。つまり『愛』ですね。

クライマックスに言い放ったブライアントの言葉は、ビリーの心を大きく動かしました。

「時に人を愛する理由は、その人が愛に値するのではなく、その人が愛を必要としているから。あなたは愛を必要としている。」

最後に銃を手放すことができたのは、ビリーの全て受け入れてくれるブライアントがいたからです。ビリーが、ようやく生きる希望を感じることができた瞬間でした。

『愛』はきっと表面的な気持ちではなく、相手の全てを受け入れ、存在そのもを大切にすること。人を思う重要さを、改めて教えてくれる作品です。

映画『YOU CAN GO』をぜひSAMANSAでご覧ください!

<映画ライター/ shuya>


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