全ては希望ある未来のためにー追い詰められる若者たち【映画『ザ・バン』】
今、母国を離れたいという若者たちがアルバニアで増えているそうです。全ては、より良い未来のため。
映画『ザ・バン』も、ストリートファイトに明け暮れる青年と、その父親を描いた作品です。
彼はなぜ、身を滅ぼしてまで戦い続けるのか。そして、そんな彼らを待ち受けている未来とは。
今回は、世界中から愛されたフランス映画『ザ・バン』に迫ります!
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なぜ命懸けでイギリスを目指すのか?
映画が鮮烈に描くのは、まるで麻薬に取り憑かれたかのように、危険なストリートファイトに参加し続ける主人公タイソンの姿です。
アルバニアの田舎町で父と2人きりで暮らす、ごく普通の青年。
そんな彼が、なぜあそこまでして大金を手にし、イギリスへ渡ろうとしていたのでしょうか?
実は、アルバニアは、貧困層の大半が農業に従事しており、依然として欧州で最も貧しい国の一つとされています。
コソボやギリシャなどと隣接するこの地では、今、タイソンのようにイギリスや国外を目指す人々が多いのだそうです。
その理由は、汚職や低賃金、劣悪な労働条件、そしてアルバニアでの生活の質の低さだと言います。
そもそも、アルバニアで貧困が激しくなったのは1990年代のこと。共産主義が崩壊し、自由市場経済に移行したものの、国民の多くがそのシステムに慣れず、そんな中でねずみ講が広がっていきました。国民の多くが被害に遭い、アルバニアは混乱に陥ったのです。
この当時、国外に逃れたアルバニア人は全国民のおよそ40%だったと言います。
しかし、その後もこの流れは続き、2022年の調査ではアルバニア人の42%が国外に出ることまたは国外で働くことを考えていることがわかりました。
平均月給が低い割に生活費の高いアルバニアでは、失業した若者がやむを得ず移住したり、家族の1人が先に移住をし稼いだお金で、住居を確保した後にパートナーや子どもを連れて移住する、といったことが増えているのだそうです。
こうして国外へ移住した人からの国内への送金は、なんとアルバニアの国民総生産(GNP)の約10%を占めています。
こうした社会的背景があるからこそ、タイソンは自分の身を危険に晒してまで、なんとかして大金を手に入れようとしていたのでした。
深まる世代間ギャップ
一方、タイソンと父親の間には、世代間による考え方の違いも見られます。
窓の建設会社で働く父親は、少ない収入でも故郷にとどまり、質素にでも生活を続けていくことを望んでいましたが、タイソンはそんな下っ端で上の言いなりになりながら働く屈辱に耐えきれず、未来のない故郷を捨てることを望みます。
また、父親は同時に、「移住先で虫ケラのように扱われる」という恐怖心も抱いていました。
実はアルバニアへの移民は、そのほとんどが女性や子供が占めています。移民問題が次第にシビアになっていく中で、彼らへの風当たりが強くなってしまうことも、当然ありえるのです。
一方で、父親もまた、息子がボロボロに傷つけられて帰ってくることを知りながら、すぐには彼を止めることはしませんでした。
もしかすると父は、息子の自由にさせてやりたいという気持ちの反面、何も救ってやれない自分に嫌気がさし、また、息子に微かな期待と希望を抱いていたのかもしれません。
それでも、お互いがお互いのことを思い合い、やがてそれは切なくて無残なラストへと2人を導きます。
子どもを守ろうとすればするほど、時に彼らは遠くへ行ってしまうー。
そんな切ない親子の愛がときおり顔をのぞかせています。
カンヌ、アカデミー賞ノミネート!
映画『ザ・バン』は、フランス国内だけでなく、世界中の人々の心をも掴みました。
カンヌ国際映画祭でのノミネートに加え、2019年には、SAMANSAでも話題となった『フィーリング・スルー』と並びアカデミー賞に見事ノミネート。
『フィーリング・スルー』の受賞により惜しくもオスカーは逃しましたが、それでもその他数々の映画祭で受賞するなど、多くの人々に愛されました。
『フィーリング・スルー』のnoteはこちらをチェック↓
アルバニアの”今”を必死に生きる親子を、鮮烈な青空と共に描いた映画『ザ・バン』。
彼らの向かう未来が、どうか良い未来でありますように...。
映画『ザ・バン』はSAMANSAで公開中です!ぜひご覧ください。↓
https://samansa.com/videos/1661
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