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「白髪染め専門店」デビューしたら、そこは銭湯だった。

先日、白髪を染めに行った。

わたしは、大学生の頃から数本の白髪をぽやぽやと、生やしたくもないのに生やしていた。
授業中、机に突っ伏したわたしの頭から、友人がそれらを抜く。
煩わしい白髪を友達が抜いてくれるような、そんなとってもキラキラした大学生活を送っていた。
まるで猿の毛づくろいのようだったろう。

毛づくろいをする側の猿では、相手が気ごころの知れた仲にあるとき、不安が和らぎ、リラックスしていると見られました。
また、毛づくろいを受ける側のサルは、相手が友好関係にあってもなくても、リラックスしていると見られました。

おさるランド&アニタウン/日光猿軍団 HP

わたしも友人も、授業中にリラックスしすぎだ。
特に、毛づくろいを受ける側のサルだったわたしは、相手が誰であってもリラックスしていたとか、ひたすらに学費を無駄にしたとしか思えない、バカ大学生だった。

白髪の原因は、遺伝とかストレスとか聞くけれど、確かに母も若い頃から月に一度、リビングでほぼ上裸になって自分で白髪を染めていたし、不倫をしてわたしに多大なるストレスもかけてきた。
つまり、わたしの白髪の原因は母だ。


白髪ってなぜか単独で立ち上がってくる。チンアナゴ。
エレベーターの中、会議中、ランチ中、後輩に指導している最中、友達との楽しい時間、まさかのデート中にも。
どんな時も空気を読まずチンアナゴしてくる可能性があるし、そのたった1本の威力ときたら。
突如オバ化するのだ。

これまでチンアナゴは1ヶ月半に1回くらい、もう10年以上通っている表参道の美容院で染めてもらってきた。
ただこれが、お財布に優しくない。
婚活中だからより一層白髪には気をつけなければならないのに、相談所に入会したらお金がなくなった。

前回白髪染めをした日から、気づけばもう2か月を過ぎていて、わたしの頭頂部はもう水族館。チンアナゴブース。
来週、ついに初めてのお見合いをするから染めないわけにもいかず、それならばとうちの最寄り駅で見かけた、「白髪染め専門店」に行ってみることにした。

わたしの住む街はベッドタウンで、都心のキラキラとは程遠い、緑豊かなのほほんとした田舎。オシャレさは微塵も感じられない街。
おじいちゃんおばあちゃん、家族連れ、あとはわたししかいない。
そう、それがわたしの住む愛すべき街。
そんな最寄り駅での、しかも「白髪染め専門店」という未知の世界に行ってきた。


午前10時半。
出迎えてくれたのは、わたしよりずっと年上と思われる店員さんたち。
例えるなら、幸楽の人たちくらい。渡る世間は鬼ばかり。
自転車で行ける距離だったのもあって、のんびり身支度をしていたら遅刻しそうになって、持っている中で1番太って見えるワンピースと、1番ダサいスニーカーで家を飛び出してきた。
でもそこは、さすが幸楽。
そんな醜い姿のわたしのことも、暖かく迎えてくれた。

そりゃいつもの美容院の方がオシャレだし、シャンプーやヘッドマッサージも最高だ。
コーヒーも出してくれるし、タブレットで雑誌も読み放題。
でも、1番太って見えるワンピースと1番ダサいスニーカーでは行けない。
それに比べて、一切緊張感がなく、ゆるゆる楽チン服とすっぴんでも行けちゃいそうな幸楽はラクだ。
都内にあるようなアボカドが入っているような絶品ハンバーガーは最高だけど、たまにはマックも食べたくなるよね、みたいな。
ここは幸楽なのかマックなのか。この際はっきりしてほしい。

いずれにせよ、1、2ヶ月に一回、ちゃんとした服を着て、わざわざ1時間ちょっとかけて表参道に行く労力を考えると、地元の白髪染め専門店も悪くない。
ただの白髪ごときに、時間もお金もかけたくなくなってきた。ばっきゃろー。

技術はどうかというと。

嗚呼!

と数回叫びそうになった。
もしくは、

Oh!

もう、叫んでいたかもしれない。
頭を洗ってくれる時、まるでオッサンたちが銭湯でするみたいに、ガシガシガシガシ頭皮を洗われて、その勢いで水しぶきが顔にかかるのだ。
気持ち良かったからいいんだけど。
案の定、洗い終わって鏡の前に座ったわたしの眉毛は、片方が無かった。

そして極め付けは、自分でドライヤー。
「ここのボタンが電源、強さはここで調整してね」とドライヤーを手渡された。
確かに隣とその奥にも、自分でドライヤーをしている人たちが並んでいる。
急に銭湯の脱衣所に思えてくる不思議。

乾かし終わったら、黙って店を出た。
お見送りなし。

自分で髪の毛を乾かしたせいだろうか。
銭湯のオッサン並みに頭を激しく洗ってもらったからだろうか。
まるでわたしは銭湯帰りのようなさっぱり感を感じながら、大好きなスシローに向かった。

また来月も行こう。
これまでの4分の1の値段だし。





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