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【短編作品】軟禁中




痛い。




とてつもなく痛い。





この痛みでは外に出ることは不可能だ。




しかし、真の男とはこんなところでは揺らがないのである。



力を振り絞り、この痛みに耐えよう。




そう、いわばこれは私の抵抗とも言える。


決して引きこもっているのではない。立てこもっているのだ。


ここから出るつもりもない。



そう、うんちをするまでは。






あれは去年の冬だった。



自由気ままに駆け回ってた私に、自分の家が与えられた。



これが悪夢の始まりである。閉じ込められたのだ。




美味しそうな餌に釣られた私はもうこの箱から出られなくなったのだ。



しかし、そんなわたしでも時々外に出ることができる日もある。




そう、お散歩タイムだ。


あれはあの人の優しさなのだ。



その時間を楽しみに私は生きている。



しかし、今は話が別だ。


私は今ここから出るわけには行かないのだ。



成果が出るまでここからは出られない。



真の男とは決して痛みになど屈しない。



ましてやトイレ以外でうんちをするなんてもってのほか。



そう、私は知っている、もうすぐ外に出れる時間なのだということを。



なんとしてでもお散歩したい。



綿棒をあむあむしたいテレビ台の裏に入りたいティッシュを噛みちぎりたい。



しかし外でうんちをしてしまってはしばらく外に出してもらえないだろう。



そうは言っても私のお腹が悲鳴を上げている。



そのくせ進捗は出さない。



生意気な腹だ。




だからここで、タイムリミットまでに私は、うんちをしなければならないのだ。


…痛い

…お腹以上に心が痛い。張り裂けそうだ。



少しずつ足音が聞こえてきた。


あぁ、嫌な予感がする。



頼むから待ってくれ、


大丈夫、すぐ済ますから、頼むから、


僕はもうすぐ、自由の身に…!






飼い主「ハム助、お散歩の時間だよ」

……ここまでか…

(ゲージの扉が開く音)

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