【短編小説】これはババじゃないよ!
「みんな!これはババじゃないよ!!!!」
彼は高らかにそう宣言してカードを見せびらかした。
「だから!これを引くんだよ!!」
彼はニコニコしながら隣の人に手札を引かせた。
しかしだれも引こうとはしない。
当然だ。ババなのだから。
カードは対になって次々とテーブルの中央に積まれていく。
2枚、4枚と。
彼の手元には残り2枚。
誰もババじゃないカードを引かない。
彼の負けは当然の結果
のはずだった。
最後の2枚、ババじゃない方は、本当にババではなかったのだ。
まさか。
そんなバカな。
テーブルにいた誰もがそう思った、そして。
皆が思い出した。
彼がどれだけ素直なのかを。
敗北した。
素直な人が最後に勝つのだ。
彼は勝った。
最後の最後に。
決して一位ではなかったが、ババを引かされて負けたわけでもない。
真の敗北者は、最後まで疑い続け、嘲笑い続けた、彼以外の人間たちであった。
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