【短編小説】苺のパフェ
自分へのご褒美が欲しかった。
祝日が1日もない6月を休まずここまで乗り越えたのだから褒められるべきだと思った。
今月が終わるまで数日あるけれど、思い切って有給を取ることにした。
今日はパフェの日だ。
以前から行きたかった海辺のカフェに足を運ぶことにした。
仕事がない日は昼から起きれるのがいい。
ゆったりと準備してから電車に1時間半ゆられて、目的地に向かう。
もうすぐ7月になるとはいえまだ6月なのだし少し暑さを自重してもいいんじゃないか
なんて太陽に毒づきたくなるほど夏の日差しは容赦なかった。
都会のビル群を抜けて少しずつ緑と青が景色に混じってくるのがなんとも心地良い。
開かれた車窓の隙間から流れ込む潮風が海への到着を知らせてくれた。
普段来ない駅に降りるのは冒険に出ているみたいでとってもワクワクする。
お店に到着するとそこは可愛らしい茶色い屋根のお家だった。
一軒家をリフォームしたらしきそのカフェはあちらこちらにフェルトでできた小さなぬいぐるみが置いてあり、可愛らしい字で書かれたメニューが置いてあった。
お目当てはもちろん苺もりもりのパフェ。
旬ではないけれど1ヶ月頑張った自分へのご褒美に大好物の苺が食べたかった。
席に届いたそのパフェは山そのもので、こんな楽園のような山があったら是非とも登りたいと思わせてくれた。
苺をパクっと食べると口の中には天国が広がった。
甘酸っぱく、苺の爽やかな香りが口いっぱいに広がる。
夏の暑さでほんのり柔らかくなったバニラアイスとの相性は昔からの相棒のようで、口の中の天国に拍車がかかった。
苺のジュレと控えめな生クリーム。
先程までの暑さをさましたくて食べる手が進む。
いかんいかん、と思い直し、一息ついて外の海を眺めた。
砂浜の上を波が押し寄せていく。
この日のために履いたロングスカートは海と相性が良くて、気分は女優だった。
しばしば海を堪能したあと、溶けないうちにまたパフェと向き合った。
よろしくお願いします。
心の中でそうつぶやいて一つ一つ丁寧に味わう。
苺、アイス、ジュレ、クリーム
苺、アイス、ジュレ、クリーム、パイ
あ、パイ隠れてたんだ。
パフェは掘れば掘るほど楽しみが見つかる。
気分は考古学者だ。
そうこう発掘を楽しんでいる間に最後の苺になった。
好きなものは最初の最後に両方食べたい。
しめの幸せを噛み締めて、ゆっくり鼻で息を吸った。
潮風と苺の香りが混ざって、普段食べるパフェとは一味違った。
有給最高。
ちょっとフライングご褒美だったけれど、来月の自分のための必要投資だ。
いつもの日常に戻る前に、
もう少しだけこの時間を楽しむことにした。
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