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EPIC DRUMS 00s~ (part6)

2000年以降の楽曲のみを取り上げ、流行り廃りを超えた多角的なドラム/リズム分析を目指します(アーティスト名/曲名/リリース年、の順に表記)。一応ジャズ研OBという体は最低限守りつつも年代順不同、ジャンル不問。主観全開、批判は楽しく適量で。要するに単なる長文駄文。あえて音源掲載は行いません。気になったものだけコピペ方式で。

India Shawn/Movin' On ft. Anderson.Paak/2020

唐突なディスから始めますと、主宰は瑛人さんの「香水」ブームが全く肌に合わず非常にヤキモキしながらコロナ禍の中を暮らしておりました。売れる音楽にはそれなりの理由があるのだ、と自分自身に言い聞かせながら何度も向き合おうと努力してみたのですけど。やはりどう頑張ってもだめでした。そんな矢先、この楽曲に出会います。

Anderson.Paak参加曲という実に浅めのモチベーションで聞き始めましたが正直ぶっ飛びました。めちゃくちゃシンプルな、ある意味焼き回し焼き回しされ続けてきたフォーマットの中にも、パーソナルな色合いがしっかり反映されていて。正直、公式MVの再生数はもう二桁くらい上乗せされていてもおかしくない出来栄えだったと確信しております。自信をもって推せます。

「香水」と同じループ主体の楽曲ながら、リズム的ギミックが実に豊富で。デデッデデッっという印象的なリフで「頭ノリ」を焼き付けておいてBメロのAnderson合流パートから、突如「裏打ち」のメロディに転じる。鮮やか。鮮やかすぎる。この「かえるの合唱」方式で休符を埋めるアプローチにより縦ノリ・横ノリにも両対応してみせる。楽しい。楽しすぎるぞこの曲。

そしてサビの開放感。お笑いは緊張と緩和、と申しますが例外なく音楽にも当てはまるみたいです。そしてすぐさま2番のAメロがやって来るかと思えば今度は俺の出番だぜとばかりにAndersonがマイクを奪う。リズムマシーンを止めてみたり、スクラッチを入れてみたり。Bメロでは、聞こえないはずの「裏打ち」が脳内再生される不思議。聞き手を退屈させない圧巻の演出。

種蒔き、伏線回収、からの華麗な裏切り、時より見せる遊び心。「香水」にここまでの音楽的ギミックがあるようには到底思えない。もう雲泥の差だ。どこまでAndersonに発言権があったか定かではありませんが、主宰目線、彼の「ドラマー目線」が少なからず影響を及ぼしていることはまず間違いないと思っています。わずか3分半の楽曲の中に、夢がいっぱい詰まっている。

Mariah Carey/A No No/2019

「Movin' On」のモデルを軸に、ケーススタディを深めてまいりましょう。かつてLil' Kimが「Crush On You」で用いたことでも有名なループ。20年の時を超え、今度はMariahが新たな解釈を加えてサンプリングしてくれました。Jeff Lorber Fusion「Rain Dance」リリースから考えればちょうど40年の節目にあたるのが2019年だったというのも、何か巡り合わせを感じますよね。

これもデデッデデッで「頭ノリ」を印象付けています。直接的なオフビート演出は施さずMariahのフローで補完する。ここが彼女がトップランナーたる所以なのだと思います。「聞こえないが確かに鳴っている」といったところでしょうか。他に特徴的に映った点として、上ネタはしっかりサンプリングしつつ、ハイハットは全面的に打ち込み直しているところでしょうか。

これだけ音数が鳴っている中で、集中してハイハットだけを聞いている変態はおそらく主宰ぐらいのものだと思いますが。絶妙に軸ずらしされている。それも決まった拍数でというわけでなく、表拍に裏拍にと実に多様。ここがすごく面白いですね。「Movin' On」が比較的ハッキリとした味付けだったのに対し、キャッチーながらより複雑な旨味を目指した「A No No」。

ジャズファンクとトラップミュージックのマッシュアップ、これも新機軸。大体一回りした感のある、もういい加減トラップミュージックはという層をもう一度振り返らせるプロデューサーの粋な計らいとも取れる。まだまだ味しますね、聞けば聞くほど奥深いジャンルだと思います。主宰も当初あまり乗り気で聞いていたわけではなかったのですよ。それが今はもう。

新世代の台頭がめざましいR&B界にあって、改めてMariahの高いプレゼンスそして芸歴に裏打ちされた確かな技術を見せつけてくれました。この意味は非常に大きいと思います。リズム分析という観点からするとこの2曲は似た構造を持っていますが、そこに至るまでのアプローチに細かな違いが見られ並べて聞くと面白いですよ。


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