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極私的分析/藤井隆『Music Restaurant Royal Host』

『ロミオ道行』から20年の節目に。

丁度「素肌にセーター」→「リラックス」を聞いていた辺りで新譜リリースの一報を耳にした。正直奇跡的なタイミング、でも必ず来ると思ってた。やりかねないという確信があったから。つまりロイヤルホスト50周年とのコラボは言っちゃナンですが表向きの事情で、裏テーマはバッチリ『ロミオ道行』アニバーサリーイヤーと掛けているはず。

ざっくりとした新作の概観。

つまり読んで文字の通り、国賓級(royal)のおもてなし=圧倒的顧客志向でもって編み上げたアルバムなのだという静かながらかなり強めの意思表示をビシビシ感じて。旧来のファン層にも、これから初めて藤井隆沼に直面するであろう浅瀬勢にもニュートラルに向き合う。そんな氏の誠実さが表れている1枚、本当に皆さん聞いて下さい。こんな銘盤が埋もれてはならない。

「未来エキスプレス11」

『Coffee Bar Cowboy』あるいは『light showers』ファンを意識した一手と見えました。4つ打ちフィールかつ盟友冨田謙とのコラボ、テイ・トウワ「GBI」あるいは砂原良徳『LOVEBEAT』世代に心底響く質感。作品としてのサンドウィッチ構造を考えた時、間違いなく後者の文脈が強くなるであろう楽曲。まりんで始めてまりんで締める作法を氏は心得ているはず。

「We Should be Dancing」

先行シングルとしてリリースされたKAKKOこと鈴木杏樹氏とのデュエット。不勉強ながら90年代にまさかユーロビートのシングルを発売し、なおかつUKチャートインまで果たしていたとは。前作『light showers』からの世界観を引き継ぎつつ、令和の時代に合わせチューンアップされたサウンドメイク。楽しい演出が続きます。

「アイリーン」

まさかの安部恭弘カバー、かなり意表を突かれました。吉田豪氏のインタビュー曰くここ1、2年で知った曲との言及がありましたが率直に後藤輝基『マカロワ』収録曲候補にも挙がっていたのではないかと。つまり正直、万が一溢れたら自分で歌うわくらいの覚悟と歌い込みを感じた。上澄みを掬うだけの表現を心底嫌うタイプの表現者と映る、氏ならではの選曲。

「ヘッドフォン・ガール」

作曲、堀込泰行。個人的には「カメレオンガール」の質感を強く感じました、これも約20年前の楽曲。今でこそキリンジはダンサブル路線へ大きく舵を切った印象ですが、00年代の比較的早い段階から打ち込みサウンドとの親和性の高さを伺わせた。「ロマンティック街道」も大好きです。藤井隆の真骨頂といえばこのアルバム中盤からの圧倒的展開力ではないでしょうか。

「おやすみ東京」

東郷清丸作曲、鈴木京香作詞。主宰の勝手な読み筋ですが、作詞脱稿→清丸氏の歌入れ→デモに忠実にレコーディングされた文脈を強く感じさせた。つまり細かな息遣いや強弱、ビブラートやフレーズの後処理まで忠実に「清丸さんらしさ」を再現しようとする姿勢の反映。作り手の肌感覚を的確に読み取り、歌い上げられる能力の高さに歴を感じた。本当に歌が上手い。

「ムーンライトアドバイス」

津軽三味線とダンス音楽が結実した好例として、例えばMONKEY MAJIKの「Change」が挙げられるのではないかと思います。水カンの文脈で鳴らしてみるとまた一味違った風合いに、本当に面白い楽器ですよね。歌い出しからぶっ飛んだ歌詞の世界観で思わず笑っちゃいましたが、心地良い違和感としてパッケージングしてくる辺りさすがケンモチマジック。

「メモリアフロア」

こちらも先行シングル、フレンチハウスとの接合点を探った1曲。音楽理論抜きに、独自の世界観でもって第一線でのプレゼンスを勝ち得た超一流で。楽曲ありき世界観ありきの制作姿勢がどことなく氏のイズムとも結び付き、今作でのコラボに至った雰囲気はある。m-flo「Come Again」のリミックスを担当した経験からも、ハウス音楽を突き詰めたい欲が伝わっていた。

「14時まえにアレー」

先行シングルが続きます。今作のリリース記念ツアー帯同が決まったばかりのパソコン音楽クラブが作編曲を手掛けた逸作。seaketa氏が手掛けた『See-Voice』全曲トレイラーの再アップロードも熱望されるばかり。今年の森、道、市場公演はじめ各所で絶賛の声が挙がっておりますゆえ長く観続けたいコラボの一つでもあります。

「東西南北」

堀込泰行氏が手掛ける本作2曲目、ソロ作「燃え殻」を彷彿とさせる極上のバラードに仕上がっていて。氏のキリンジ脱退後初リリースとなるシングルでしたので、尚更記憶に刻まれた1曲でもありました。本来5年振りの新作を締め括るにふさわしいナンバーのはずがまだもう1曲控えている、こうしたギミックの巧みさに心底感服し、我々は次回作リリースを待ち侘びる。

「Chocolate」

コース料理のラスト、所謂「アシェット・デゼール」としてはあまりに異質な響きで幕を閉じる当アルバム。奇しくも高橋幸宏生誕70周年とも重なる、そんな記念すべき年にリリースされた最新作。返す返すも徹底した顧客志向つまりリスナーがどんなサウンドを求めているかをつぶさに感じ取り、作品に落とし込む能力に長けた唯一無二な存在。次回作が早くも待ち遠しい。

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