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新譜/旧譜レビュー、追悼/リリース記念日特集

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自称「雑食系」の主宰が洋邦不問、ジャンル網羅的に、あるいは局所的に狙い撃ってまいります。
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記事一覧

新譜レビュー/Gareth Donkin『Welcome Home』

8月25日リリース。期待を大きく上まる、まさに快作でした。 主宰が初めて彼の音楽を耳にしたのは2021年、コロナ禍の最中でした。当時はMaster Soul Boyという名義で活動していた。本作にも通底するループ主体ながらモーダルとコーダルの間を揺蕩う「Catharsis」Stevie Wonderの面影が残る「Dreaming」、御堂筋の銀杏並木を吹き枯らすような風を感じられる「Autumnbreeze」。フェイバリットを挙げ始めると本当にキリがない。 細かな節回し、ブ

新譜レビュー/Elijah Fox, Zé Eduardo, Chuck Owen, Art Lande, Sam Williams, mindfreakkk, Jake Sherman

Elijah Fox『Wyoming(Piano Works)』気まぐれジャズ批評、2023年8月号をドドンとまとめてお届けします。 Elijah Foxの名を知ったのは2021年初春のことでした。「The Afterglow is Still Enough For Me」山河の一雫とでも言い換えましょうか、ドビュッシー作曲「水の反映」の引用が冴え渡るアウトロに至るまで実にオーセンティックで優美な響きが漂う。"一耳惚れ"とはまさにこういうことだと感じましたね。タイトル『大

新譜レビュー/Antonio Adolfo『BOSSA 65: Celebrating Carlos Lyra and Roberto Menescal』

久方振りのジャズ新譜レビューとなります。主宰すっかり映画にお熱らしく『aftersun/アフターサン』2回目鑑賞したらしいぞ、しかも補足稿まで打つらしいぞ、なんでも今年ベスト級の仕上がりだったらしいぞ。等々含めて、ますます泡沫DJイベント宣伝用アカウントが訳わからなくなってしまう前に強気の一手。5類引き下げ一過、いろんな意味であつくなりそう夏に最適。 Antonio Adolfoの名前を知ったのは2021年、コロナの最中でした。 リードトラックである「イパネマの娘」を聞い

新譜レビュー/Ben Wendel『All One』

Edition Recordsさん、4月暮れにとんでもねえ名盤をぶち込んできました。 令和5年の大型連休、怒涛の7連投を締め括るのは伝家の宝刀・ジャズ批評でございます。大学ジャズ研OBが立ち上げたDJイベント宣伝用アカウントとか言っておきながら、最近なんか映画ばっかり観てますよね。お客様、今年度は「みる」「よむ」「きく」の三本柱でバランス良く回していこうの意識。それにしたってバランス崩れ過ぎですよね、ここらで修正してきましょう。 何をもってして「いまジャズ」「コンテンポラ

新譜レビュー/Valtteri Laurell Nonet, Frederico Heliodoro, Phil Woods

当方泡沫DJイベント広報用アカウントは2023年「みる」「きく」「よむ」の3本柱であれこれ発信していきます。とはいえ肝心の「きく」部分に致命的なカブりが生じてまして、それつまりライブレポートと新譜レビューです。どちらかを書こうとするとどちらかが疎かになってしまう、そんなジレンマを払拭すべく待望の祝祭日に大放出!!新譜レビュー3連発です、胸焼け必至。 Valtteri Laurell Nonet『Tigers Are Better Looking』古き良きクール・ジャズの風格

David Bowie『The Next Day』リリース10周年に寄せて。

10年前の4月、主宰は仕事の都合で東京におりました。 就職活動中も片手で勘定できるくらいにしか上京する機会がなく、せっかくの週末だってどこへ出掛けてよいものやら。寮生活をしていましたから何かアクションを起こす度、いちいち同期がくっついて来る。勿論同期のことは大好きでしたけれど、休日までくっつき虫の相手をしていられるほど悠長な人間ではありません。気付いたら仕事の話ばかりしていましたし。 気分転換は決まって、ラーメン屋巡りと抱き合わせのタワレコ探訪でした。渋谷、新宿、池袋を隔

Massive Attack『100th Window』リリース20周年に寄せて。

「私を構成する9枚」ひと昔前一世を風靡したハッシュタグの一つ、当時主宰はまだジャズ研在籍中だった頃でしょうか。正直あんまり講釈垂れるのが上手じゃなかったもので、せめて音だけでも後輩世代にあれこれ遺せたらと頭を悩ませ選び抜いた9枚の中に、残念ながら潜り込んでしまったジャズ以外の作品群がありました。ここら辺、趣味が出ますね。Underworldとか挙げたような気もする。 そりゃあ、世間的には『Mezzanine』が圧倒的プレゼンスを誇っているのは間違いない事実です。マッシヴとい

新譜レビュー/Pietro Pancella Collective『Vol. 1: Music of Henderson, Shorter & Coltrane』

「リハーモナイズ」の先を映し出す1枚久し振りにジャズの新譜レビューなぞ拵えてみようかと思います。過去連載「極私的ジャズ銘盤選」をきっかけにこちらへ足を運んでいただいた皆様におかれましてはたいへんのご無沙汰、多忙につき22年盤ジャズまとめも豪快にサボってしまいました。ところが新年明けまして、避けては通れない銘盤に不意に出会ってしまったものですから。 22年の暮れ先行配信された「Witch Hunt」を聞いてもう度肝抜かれちゃったんですよね。数あるショーターカバーの中でもあまり

極私的分析/藤井隆『Music Restaurant Royal Host』

『ロミオ道行』から20年の節目に。丁度「素肌にセーター」→「リラックス」を聞いていた辺りで新譜リリースの一報を耳にした。正直奇跡的なタイミング、でも必ず来ると思ってた。やりかねないという確信があったから。つまりロイヤルホスト50周年とのコラボは言っちゃナンですが表向きの事情で、裏テーマはバッチリ『ロミオ道行』アニバーサリーイヤーと掛けているはず。 ざっくりとした新作の概観。つまり読んで文字の通り、国賓級(royal)のおもてなし=圧倒的顧客志向でもって編み上げたアルバムなの

【追悼・Barry Harris】極私的Lee Morgan/The Sidewinder論。

享年91。丸谷明夫先生の訃報に続き、ポッカリと言うにはあまりに大きな心の穴を開けこの世を去っていきました。しかし悲しんでばかりもいられません、時折後ろを振り返りつつしかし着実に前進していかなければ。すなわち主宰の立場はこうです。歴史的名盤と呼ばれる氏の演奏をできる限り分析し言語化することで、残された世代へと語り継ぐ。 音楽の聞き方に正解なんてありませんし、凄ぇモンは凄ぇンだよで済む話なのかも。御託は不要。しかし今回取り上げる「The Sidewinder」に関して楽理的ある

Adele「Easy On Me」に込められた、静かなる決意表明。

いきなりですが、ここでクイズです。「21世紀、イギリスで最も売れたアルバム」といえば誰の何という作品か。なんだかんだリアムやノエルやビートルズが強いのでは、あるいはMuseとかColdplayとか。しかし新世代の台頭も目覚ましい、ということはアクモン?The 1975??いいえ、ヒントはソロアーティストです。わかったSam Smithでしょ?惜しい、正解は彼と同じく007シリーズ主題歌を担当した名手。 Adele『21』。21世紀、UKで最も高いセールスを誇る名盤。ぶっちゃ

追悼 George Mraz

また一人、偉大なジャズメンの訃報が。心に残った氏の演奏を挙げ、献花に代えさせて下さい。ピッチ、リズム感、フレージング。どこを切り取っても「完全無比」なベーシストは彼を差し置いて他にはいなかったと思います。個性を輝かせつつ音楽に溶け込んでいく姿勢。大の親日家でもありました。天国で待つ偉人達と好きなだけ酒を酌み交わし音楽を奏でて下さい。合掌。

【リリース20周年】スガシカオ/8月のセレナーデ

早いもので、リリースから20年が経過しました。当時小学5年生、J-WAVEの帯番組も毎週欠かさず聞いていて。時折母の送ったFAXが読まれるとそれはそれは大騒ぎになったものでした。スマホもラジコもない時代、スカパー!のサイマル放送(もはや死語ですか?笑)をVHSに録画して翌日じっくり観る独特なスタイル。夜更かししない良い子でした。たまーに録画し損ねて。 過度な身バレは避けたい所存ですが主宰は8月生まれでして、勝手に自分のテーマソングと位置付けている1曲。去年の今頃は「Affa

Ginger Root「Loretta」に学ぶ令和のディスコ音楽。

Wingsの再来を思わせる名曲でした。 祝・アルバム発売決定。主宰が生まれ落ちた家系は元来ロックに疎くジャズ研の友人に初めてThe Beatlesの全作品及びメンバー関連作を貸してもらいましたが、最も血眼になって聞いたのはWingsのアルバムで。結果的にThe Beatlesのサウンドが魅力的に映る一番の理由はつまり、ポール・マッカートニーの作風が好きだったからなんだという結論に至った。 実験的でありながらキャッチーさを忘れない、マスでありながらコアを堅持する音楽性の支柱