【読書感想文】上橋菜穂子/著 『香君』
こんにちは。
続編以外では7年ぶりとなる上橋菜穂子さんの新刊『香君』を読むことが出来ました。ページをめくると現実から離れて上巻から一気に物語の世界へ。「ああこれなんだずっと読みたかったのは!」と主人公の行く末を夢中で追いかけました。私に読書の楽しさを教えてくれた原点とも言える上橋菜穂子さん。ここは、私の一丁目一番地。
香君
まずはじめに上巻の帯に書かれているこの一文を読み、表紙を開く時からもう期待値はMAX。どんな女性なんだろう。君というからには位が高いのだろうか。美しい装丁が華を添え、開くページの先にある想像を掻き立てます。
次に目に飛び込んできたのは、上橋作品ではお馴染みの登場人物紹介と地図。これがあるといつもあたたかい安心感に包まれます。読んでいる途中でもここに戻れば関係性が一目瞭然です。いつもここから物語は始まっているようで、さあ始まるぞと映画館やアトラクションの長い列に並んだあと、入場券を切ってもらうあの瞬間を思い出しました。
五感で感じる壮大な物語
『香君』は五感で感じる壮大な物語でした。流石としか言いようのない地に足のついたリアリティあふれる描写。今回は“稲”が私達にとって身近な作物のため想像の解像度をぐっと上げてくれます。その地域の地形・歴史や食べ物に至るまで詳細に描かれているため本当に帝国があるかのよう。まるで精巧に作られた懐中時計のような組み込まれた世界観。ここまで読者が納得して読み進めることができることは、極めて稀有なことだと改めて感じました。
目をつぶると稲穂が揺れる風景がそこにあり、香りの声を感じます。本当に作物たちが風に揺れ共に話しているようです。作者が緻密に描いた世界の上に、揺れ動く登場人物の心の機微が読者の心に響きます。運命に翻弄される帝国の様子と怒涛のクライマックスを是非これから読むあなたに五感で感じてもらえたらと思います。
アイシャに、会いたい。
「あー読み終わってしまう。」
最後のシーンを読みたい気持ちと終わってしまう勿体なさの狭間でふと湧き出たのは、「アイシャに会いたい」という感情でした。
会って直接聞きたい。知りたい。“うるさい”ほど香りを感じるのはどんな気持ちなのか。あなたはいま何を想うのか。
自然の摂理、人々の考えを目の前にして高い崖の上に1人立つかのようなイメージのアイシャ。叶わぬのなら、せめてこの物語の中でもあなたに会えてよかった。またいつかどこかで、この続きを読むことができれば嬉しいです。
おわりに
巻末には、作者上橋菜穂子さんがこの作品を制作するにあたり参考にされた本がいくつか記載されています。私は『香君』を読んだ後、その中から早速『世界からバナナがなくなるまえに』(ロブ・ダン著)を読みました。現実に起こっている話でしたが、身近な作物について初めて知ることだらけで驚きの連続でした。
そして最後にもう一点。この作品が作者の新たな代表作になるのだと感じながらふと気付いたことがあります。きっと偶然でしょうが、作者の名前を今一度御覧いただきたいのです。あまりにもこの作品にぴったりなお名前に気付き、なんとも感慨深い読書となりました。
お読みいただきありがとうございました。
桜
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