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2021年3月の記事一覧
夢見るそれいゆ 142
もしかしたら、幼稚だと笑われてしまうかもしれない。
でも、國吉先輩に嘘はつきたくない。
私は万が一笑われることを覚悟した。
「…國吉先輩、笑わないで聞いてくださいね?」
私の言葉に先輩は真顔でうなずいた。
「私が手芸部を選んだのは、先輩後輩の上下関係なく穏やかに活動出来そうだからという理由からでした。
それと、手芸部に入ったことで『夢』が生まれたんです。」
「…夢?」
「私の両親は2020年に籍
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「國吉先輩、早く展示室入りましょう!」
私は動揺を誤魔化すように、そそくさと展覧室に入った。
「わぁ…!」
そこは、エントランスとは別世界だった。
デザイナーの手掛けた服だけでなく、世界観が室内全体に施されていた。
「…すごいね。」
先輩も感動している。色々あったけど、誘って良かった。
室内を見回したけど、更紗先輩はいなかった。
全部見終わってしまったのだろう。
私と國吉先輩は、ゆっくりと作
夢見るそれいゆ 140
(國吉先輩って、そんな表情になるんだ。
また、新しい発見。)
「ひなたさん、顔がにやけてる。」
先輩が赤い顔のまま拗ねている。
「あ、すいません。」
私は真顔になるよう努めた。
「でも、何でだろう。ひなたさんには、格好悪いところばかり見せてしまっているね。」
普段しないであろう、大遅刻という失態をしてしまったことで、先輩はかなり落ち込んでいる。
確かに学校の國吉先輩は、完全無欠に見える。
だけ
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エントランスで待っていて20分、國吉先輩が息を切らして館内に入ってきた。
全速力で走ってきたからか、自動体温測定器に引っ掛かり、スタッフさんに止められていた。
さらに30分後、先輩はようやく館内に入ってくることが出来た。
待ち合わせの時間から1時間が経っていた。
「ひなたさん、遅れてごめん。」
國吉先輩は今にも泣きそうな顔で謝った。
「先輩、大事な用事があるなら先に言って下さいよ!」
私は自
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「それは誘った手前、先に観て回るのが悪いって思っているから?」
更紗先輩から聞かれて、私は自分の心に問い直した。
「──それも少しあるけど、私は國吉先輩と一緒に観て回るのを楽しみにしていたんですよ。」
昨日、ワンピースを縫い終えて最初に見せたいと思ったのは國吉先輩だった。
「ひな、それ國吉に会ったらアイツに言ってやって。
私は、先に展示室に行ってるから。」
更紗先輩は私の肩を軽くたたくと、一人
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芸術館の中に入ると、エントランスに色とりどりの短冊が吊り下げられた笹が設置されていた。
今日は、七夕である。
「まったく。七夕の句会の接待、代わりに羊司に頼んでおいたのに、まさか氏子の人に捕まって遅れるって!」
更紗先輩が憤慨している。
「え…七夕の句会?
私、そんなタイミングの時に國吉先輩を誘ってしまったんですか?」
都合が悪いなら、言ってくれれば良かったのに。
國吉先輩だけでなく、羊司先輩ま
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少し歩くと、芸術館に着いた。
更紗先輩が芸術館のシンボルタワーの前で手を振っている。
國吉先輩はまだ来ていないようだ。
「更紗先輩、おはようございます!」
「おはよう、ひな。早速イヤリングつけてくれたんだ。」
更紗先輩が嬉しそうに微笑んだ。
「はい。私、イヤリングに合わせて今日の服作ってみたんですが、どうですか?」
「うん、コットンパールの軽やかさとシャーベットオレンジ色のワンピースがいい感じに