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さらぬわかれ

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村の1本の咲かない桜の木。 その木には、曰くがあり…。 8歳のまま成長を止め意識のない姉とその妹の話。 GREEのコミュニティで発表していた小説(2009/1/17~)の完全… もっと読む
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2022年7月の記事一覧

さらぬわかれ 86

「お姉ちゃんが死んじゃうなんて、そんなの嫌だ!」
栄子はその場にうずくまって泣いた。

さくらは栄子が泣いているのを、ただ眺めているしか出来なかった。

さくらの魂が桂に還る為には、恒之新の魂をこの場所に連れてこなければならない。
しかし、恒之新は恒太の肉体を乗っ取ってしまい、実の親に刀を振るうという暴挙を起こした。
連れてこられたとしても、本当に桂が目覚めるかどうかは確実ではない。

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さらぬわかれ 87

ヒュッ!!

栄子は咄嗟に横方向に転がった。
刀の切っ先が地面に刺さった。

「…恒太。ううん、『恒之新』様ね!」
栄子は立ち上がり、恒太の顔を見据えた。
恒太を乗っ取っている亡霊は無表情のまま、栄子を殺そうと妖刀【櫻葉】を構えた。

「恒之新様っ!!」
栄子の前に、さくらが立ち塞がった。しかし、恒之新と思われる亡霊は、その声に無反応である。

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さらぬわかれ 88

「…栄子。」
栄子の名前を呼んだのは、亡霊ではなく、恒太本人だった。

しかし、肉体の主導権はまだ亡霊の方にあるらしく、刀を持つ手は栄子に斬り掛かろうとしている。

「栄子に…危害を…加えるなんて、許さない!!」
恒太は亡霊に抗うように、自分の足に刀を向けた。
そして、雄叫びを上げながら、左大腿に刀を突き刺した。

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さらぬわかれ 89

「だ…大丈夫なわけない。こんなに血が出て……」
栄子の動揺は収まらない。

「…栄子。もうちょっと近くに来て」
青ざめた顔で恒太が言うので、栄子は言うとおりにした。

すると恒太は栄子を抱き寄せて、そっと口づけをした。

栄子は一瞬、何が起こっているのか分からなかった。

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