見出し画像

この1冊『かか』(宇佐見りん 河出書房新社)

宇佐見りんさんが繊細な感性で大学在学中に書いた作品

この作品で、三島由紀夫賞を最年少で受賞、文藝賞も受賞、野間文芸新人賞候補にもなりました。
宇佐見さんは、『推し、燃ゆ』で第164回芥川龍之介賞を受賞しました。

『かか』の表紙はうーちゃん

「かか」と「うーちゃん」と「おまい」

母親を「かか」と呼び、その娘で19歳の主人公は自分を「うーちゃん」と呼びます。
弟のみっくんを「おまい」と呼んで、語りかけながら展開する独特なストーリーを宇佐見さんの思いを辿りながら読み進んでいきます。
一気読みしたあとに、もう一度ゆっくり読んでみました。

「とと」(父)と離婚したかかは、壊れてしまってお酒に溺れ、酔うと暴れて自傷します。
かかは「ババ」(祖母・かかの実母)から「長女がひとりだとかわいそうだからおまけに生んだ」と言われて育っています。
誰からも認められなかったかかが、愛してくれると思って結婚したととは、DV夫でした。
うーちゃんは、そんなかかを憎みながらも、愛している自分に苦しみます。

…うーちゃんはにくいのです。ととみたいな男も、そいを受け入れてしまう女も、あかぼうもにくいんです。そいして自分がにくいんでした。
…男のことで一喜一憂したり泣き叫んだりするような女にはなりたくない。誰かのお嫁にも、かかにもなりたくない。女に生まれたこのくやしさ、かなしみが、おまいにはわからんのよ。

『かか』より

宇佐見さんと「うーちゃん」

宇佐見さんは、NHKのインタビューに宇佐見さんこう答えています。

うーちゃんは「とと」という存在に傷つけられる「かか」を見て、自分も女性としての役割が嫌だなって思うんですけど、よくよくそれをたどっていくと、「自分が生まれたせいなのではないか」とか「自分が生まれなければお母さんはもっと幸せだったんじゃないか」、「ととと結ばれなければかかは壊れずにいられたんじゃないか」というような考えが彼女の中に渦巻いていて。
女性がいて男性がいて、性交渉して子どもが生まれてくるというシステムそのものに対する、どうしようもないことではあるんですけど、それがなぜなんだろうと思うという。難しいですけど・・・。』

出典:NHK
『かか』の内表紙

かかとととの行為の結果で生まれた自分を恨み、女として生まれた自分をも憎みます。
『うーちゃんは、かかのえんじょおさん(エンジェルさん)』と言って大事にしてくれるかか、壊れてしまっているかかを何とかしてあげたい・・・。
そして、うーちゃんは熊野に旅立ちます。

みっくん、うーちゃんはね、かかを産みたかった。かかをにんしんしたかったんよ

『かか』より

体や心に傷をつくってリアルな世界で生きながら、うーちゃんにはSNSの世界にも生きています。
そこには、リアルでない自分がいます。
そこでは、うーちゃんはかかを死なせてしまうことだってできます。

ばちがあたったんだ、と思いました。人の命をもてあそび不幸に嫉妬し踏みにじったばちがあたった。そいはうーちゃんをぎらぎら興奮させました

そいしてばちがあたったとき、その存在にふるえながらようやく人間たちは安心することができるんです。自分のことを本当に理解する誰かと繋がっている安心感に、身をまかしることができるんのよ

『かか』より

「うーちゃん」と「かか」と「ババ」、それぞれの母と娘のつながりの中に人の生きる姿が凝縮して描かれています。
一人称の「わたし」でない「うーちゃん」の語りは、リアルさを感じさせます。
家族だけの合言葉「かか弁」がさらに味わいが増します。
男性目線の書き手が多い中で、女性として生きることを感じるままに語るそのまっすぐさがとても心地いい。
男性の存在をクールに描く感じからも、女性が生きる様を強く感じさせます。

現実は変わらず、うーちゃんもかかもババもおまいも、そして読者のわたしたちも、今日の日常が続くということなのでしょうか。

最後まで読んでいただいて 「ありがとさんすん」 そして 「さよならまんもす」

🌸さくらワーカーズオフィス🌸

「かか」は、🌸さくらワーカーズオフィス🌸に置いています。
🌸さくらワーカーズオフィス🌸をご利用のみなさまは、いつでも自由に手に取っていただけます。
フリースペースは、ゆっくり過ごしていただくことできます。

さくらワーカーズオフィス
代表 山口哲史
810-0001
福岡市中央区天神4-1-28 天神リベラ702
Phone : 090-2581-9529
※見学、利用のご相談はHPの連絡フォーム、TwitterのDM、メール、Noteの問い合わせを使ってご連絡ください。
(平日日中は電話対応いたしません)
HP : https://mjm-counsel.org
Twitter : @sakuraworkers
Mail : contact@mjm-counsel.org

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?