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てんぐ巣病 まとめ

冬、落葉した後現れる、写真のような枝を見たことはありませんか?
これが「てんぐ巣病」と呼ばれる病気です。
てんぐ巣病という名前は、日本だけの呼び方で、海外では「魔女のホウキ(witches’ broom)」と言われています。
日本人は、このモジャモジャした枝を天狗の住処だと表現した事で、「てんぐ巣病」と名付けられました。
山口大学の植物病理学の先生に教えて頂いたこと、調べたことをまとめてみました。

1、「てんぐ巣病」とは

実はこのてんぐ巣病、モジャモジャした枝が叢生している状態を言い、ソメイヨシノなどの桜だけでなく、カボチャや竹などにも、てんぐ巣症状が見られることがあります。
そのため、「桜類てんぐ巣病」と分けられることがあります。
このてんぐ巣病の枝には、わずかに花も咲くことがありますが、花はほとんど咲かず、小さめの葉っぱが沢山出ます。
この状態を放置していると、枝から枝、木から木へと感染が広がり、花はへり、木は元気を失い、見栄えが悪くなるだけでなく、重くなった枝は、風雨や積雪などで折れ、そこから腐朽菌等の菌が侵入することで、木本体が枯れてしまいます。
菌が侵入しなくても、てんぐ巣病のひどい木を放置していると、10年後には枯れてしまうことになるので、甘く見ては行けません。
※春に満開の桜のなかに、緑の塊が目立つのですが、これを「宿り木」と勘違いしていまう人も多いので、その違いにも触れたいと思います。

てんぐ巣病と桜

2、病理

桜類てんぐ巣病(以下 てんぐ巣病)を引き起こす原因は、タフリナ・ウィースネリ(Taphrina wiesneri)(以下 タフリナ菌)というカビの一種の感染によっておこります。
カビと言いますが、実は酵母の仲間で、人体には無害です。
タフリナ菌の感染によって、植物ホルモンが正常に分泌されず、バランスを崩すことで、細かい枝をモジャモジャと叢生させます。
その枝には、花はほとんど咲かず、細かい葉っぱが沢山出るのですが、実はこれが、タフリナ菌の栄養元となっているのです。
沢山の葉で、光合成を促し、そのできた養分を横取りして成長していきます。
これは、桜の木全体の栄養の横取りではなく、てんぐ巣症状の枝からの横取りのようですが、てんぐ巣症状が重度になればなるほど、正常な枝が少なくなるので、木を元気に保つほどの栄養が得られなくなるので、木が弱ってくるのです。
そして、その葉っぱは、先が丸まる特徴があり、葉っぱの裏は白っぽくなります。
この白っぽくなっているのは、タフリナ菌の胞子が出ているため白く見えているのです。

3、拡散

どのように感染を広げていくか、みていきましょう。
花が桜く時期にてんぐ巣症状の枝から出た、沢山の葉っぱの裏から、胞子を出し、拡散させます。
最も飛びやすい温度は、20℃~25℃。
空気中には、昼夜問わず開花が始まる4月から飛び始め、4月下旬にはピークを迎え、5月にはほとんど飛ばなくなります。
胞子は、約8m飛ぶので、近い枝や近い木に次から次へと感染することで、勢力を拡大させています。しかし、どうやって感染するのかは明らかになっていません。
タフリナ菌は、カビの一種であるため、雨天で多く拡散されます。
(晴れの日22個、雨の日3,700個)
そのため、てんぐ巣病がまん延しやすいのは、川沿いや山あいなどの風通しが良くなく、霧が発生しやすい場所や、湿気の多い場所です。
逆に、風通し、日当たりが良く、比較的乾いた所であれば、てんぐ巣病になりにくいと言えます。
春に葉っぱの裏から胞子を出すタフリナ菌ですが、冬はどこに隠れているのでしょう。
冬は、潜伏感染の状態で、枝先に菌糸の状態で隠れています。
ですが、この菌糸には、感染する能力は無く、胞子でのみ感染していきます。
この枝の中の菌糸は、取り出すことが困難で、また、胞子を培養しても、胞子しか作ることができないため、研究は難しく、今まで明確な研究がなされてこなかったというのが、現状のようです。

4、治療と予防

このてんぐ巣病には、効果のある薬剤が、ありません。そのため、薬剤散布などで防ぐことはできないのです。
そのため、治療法、予防法はシンプルで、2種類しかありません。
<治療>
① てんぐ巣症状の枝を健康な枝から、切り取る。(なるべく根元から切りますが、大きい場合、1度に切ろうとせず、2,3回に分けて切ります)
②  切り口が5cm以上であれば、トップジンMペーストという殺菌癒合材を塗布する。
③  塗布後、アルミホイルをかぶせる。
<予防>
①  剪定治療したとしても、見落としや、取りきれないこともあるため、3年は継続して経過を観察する。
②  見つけしだいすぐに切る。
③   風通しの悪くなっている場所など枝が密集している所などは、日がよく当たるように、風通しがよくなるように枝打ちする。

5、てんぐ巣病と宿り木

春、満開の桜のなかに、緑の塊がみられるため、なかには宿り木と勘違いしてしまう人もいるかもしれません。
ですが、これは全くの別物。
宿り木は、全く別の植物です。
宿り木とてんぐ巣病の明らかな違いは、常緑かどうかという点です。
花の咲いているときには、緑の塊があるのに、冬、落葉後には、葉っぱは無くなり、モジャモジャの枝だけになるのが、てんぐ巣病です。
宿り木は、冬の寒い時でも、葉っぱは落ちず、青々としています。
つぎに、葉っぱの形も全く違います。
てんぐ巣病の葉っぱは、桜の葉ですが、宿り木の葉は、丸ってこくて、双葉のような可愛らしい格好をしています。
さらに違いは、宿り木には、赤やオレンジなどの実が成ります。
なかには、宿り木とてんぐ巣病が隣り合っている木もありましたが、冬に見ると確実に違いがわかるものになっていますので、注意してください。
宿り木は、木の栄養をもらって生きているわけではないので、見つけたらそっと観察してあげて下さいね。

宿り木
春のてんぐ巣病(花が散った後)
冬のてんぐ巣病(落葉後)

6、まとめ

てんぐ巣病の研究は、ほとんどなされていない事がわかりました。
枝にどのくらいの菌がいるのか、そこからの感染は無いのか…などなど、不明な部分も多いのですが、先生との協議の結果、拡散の方法から考察するに、枝自体からの感染はほぼ無いと言えるので、枝を持ち運ぶ事は理論的に問題無いのでは。
また、染め物などに利用する等の火を通す場合は、確実に問題無いとの見解をいただきました。
あまり研究されなかった事もあり、一般的に剪定後のてんぐ巣病枝は、焼却しかないと言われていました。
しかし、近年CO2や環境問題、焼却場所がない、処分に莫大な費用がかかるなどの問題もあり、剪定が進まないこともありました。
まん延している場所では、数本の木を剪定しただけで、ものすごい量の枝が出ます。
それを資源として活用することができれば、地域活性化や、剪定者を増やす事に繋がると考えています。
その実現に向けて、背中を押してもらえる有意義な交流となりました。

引き続き、学生さんとともに、山口大学でできる限りの研究をしてくださる事になりました。

今後がとても楽しみです。

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