プラトンもアリストテレスも教えてはくれない進路も君の気持ちも ピアノとは星空八十八の音をひかりの代わりにさんざめかせる サンダルの紐なおしながら進む午後 ︎︎防波堤まで愛してあげる ともだち、とあなたを呼ぶしかないことを戸惑いながら木洩れ日をゆく 信仰の有無を問われたときふいに口走りそうで困る、きみの名 カントリーサイド・ガールとしてきみの前髪をめちゃくちゃにしてやるよ 音源になっていない曲を浴びるとき心臓に差す傘を捨てるよ You are you. 東京の秋の
長引いていた前の授業が終わるのを待って、廊下に立っていた。酷暑のなかを大学まで歩いてきた汗が引くにはぬるい室温が、じわじわ身体にこもる熱を感じさせて不快だった。 暇つぶしに窓の外を眺めても、授業棟と授業棟の間にある味気ない中庭が見えるだけだった。申し訳程度にベンチが置いてあるような。それよりも、白っぽい小さななにかが張りついているようにみえる窓の方が気になった。 近づいてみてみると、それは一枚の桜の花びらだった。七月に差しかかかるこんな暑い日まで、こんな長い間きれい
きみの身体を流れる血液が孤独の色をしていないことに、ひどく疎外感を覚える夜がある。自分の手首と比べて透かしてわからないとしても。心臓がこんなにからっぽなんだから、血管を流れているのは悲しみに違いない、と考える真夜中がきみにないことを、わたしはとっくに知っている。 だからこれはもし、の話でしかないけれど、もし、きみの脈拍がさみしさの鼓動で刻まれていたとして、きっとわたしはそれにため息をつくほど安堵してしまう。その仮定がわたしをまたひとりぼっちにする。きみの心臓をとりはずし
「太陽が沈んだあとの空が好き。」さみしくないの、ときみに聞かれた日のことを、コマ送りすらできそうなくらい隅まで記憶している。永遠は過去の別名だと知って大人になった気がした。けれど、「気がしてるだけだ」と鏡のなかに住む猫がこっそり教えてくれたから、今日は生鮮食品コーナーで一番高い魚を買った。 眠るのも泣くのも下手になっている。わからなくなって諦めていた。絡まった茨の棘に後ろから最高機密を抜き取られても、なくなったものがなにかを考えているうちに朝が来てしまうんだ。 「十
生まれた場所が帰る場所ではないことから吹いてくる冷えきった風に、どんな名前をつければいいんだろうか。捨てられないものだけを抱えて逃げてきたこの街で、失えないものがまた増えていくことが怖くてしかたがない。ひとりで泣くことには慣れていたはずで、けれどいつかすべてなくしてしまったときに呼吸の仕方を思いだせるんだろうか。 東京という街が一等うつくしいのは、どこにも帰りたくない夜に意味もなくどこまでも歩いていくときに違いなかった。失ったものを色褪せないままにしておくのに、これ以上
どうしてひとはだれかを愛すると、ふたりで一匹の動物みたいになってしまうんだろう。ひとりとひとりのまま、肩は触れるくらいの近さで、しずかに歩いていけたらいいのに。 その先に未来があると思えなくなる。いま、一匹だな、と思うとき、途端に永遠を手放してしまったような気がして心細くなる。もともとそんなもの持ってなんていないのに。心細さは弱音に変わって、そうしてたいてい悲しい顔をさせてしまう。 その手に触れられないのは、いつだってただ怖いからだった。私が孤独でなくなってしまった
もっていないもののことばかり考えている。なくしたもの。二度と戻らないもの。きっと一生手に入らないもの。そんなもののことばかり。この手のなかにあるものがどうでもいいわけではない、とは思う。ただ、私にとって生きることが待つことで、祈ることだというだけで。 ゆめみがち、ということばを久しぶりに聴いた。ずっと、夢をみているんだろうか。ゆめみがち、と口にしたひともそれを聴く私もどこかの曲がり角が違えばここにはいなくて、かわりにずっとずっと焦がれている憧れと笑いあっていたのかもしれ