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ここは男の子と行ったら損するラブホ

恋人と別れて一週間後、私は、女ともだちと傷心旅行に出かけた。傷心旅行なんて言っているけれど、私が恋人と別れたことは、旅行するためのただのいいわけだ。だって、別れたから傷心旅行をする、なんて普通すぎる。普通すぎることをするときは大体、頭を働かせることなくトクをしたいときだけだもの。「旅をして、気持ちを切り替えるわ」なんてうそぶきながら、私は気の許せる女ともだちと、久しぶりに、遠くへ遊びに行けることを純粋に心待ちにしていた。

それに、楽しみを共有している女ともだちと行ってこそ、価値が増すラブホテルの存在を、私はずっと前から知っていた。体を共有できる男の人とではなく、言葉を共有できる女ともだちと、一晩中、発展性のないくだらない話をして過ごすために最適の場所。大阪にあるから、なんでもない日に行くには遠すぎる場所だったけど、私は彼女と訪れる機会をずっと伺っていたのだ。

「こんなん、ディズニーのホテル泊まるくらいやったらこのラブホ泊まるやろ!」

『ローズリップス』の部屋の扉を開いた瞬間、大阪人の彼女はしっかりとツッコミを入れてくれた。

そうでしょう。私は、選んだ部屋が期待通りに完璧であることに安堵した。女の子と行く時も、男の人と行く時も、どのラブホテルにするかは、いつも私が決めている。それで毎回、こんないい部屋見つけられるなんて天才だわって自負しなおしているのだ。今回、もし、期待しているよりもチャチな部屋だったらどうしようって、入る前からソワソワしていたのだ。「どうしよう、緊張する」なんて、これからホテルでヴァージンを失うというわけでもないのに、不安がっていた。

お花とか、洗面所とか、クローゼットとか、細部までラブリー。

最近建てられたラブホテルって、すごく女の子に向けて作られている感じがする。ラブホテルのロビーでは、彼氏ではなく彼女が部屋を選んでいる姿をよく見るし、「ラブホ女子会」なんて言葉も、今ではもう耳馴染みがいい。だけど、これって、あんまり当たり前のことじゃあないんだろうなって、昔のラブホテルを観察していると思う。つまり、ラブホテル側が女性の満足度を考えてサービスするのって、歴史的に見れば、すごく目新しいことなんじゃないかと思う。

昭和ラブホの代名詞である、回転ベッドや、大きく壁に描かれた春画、やけにきらびやかな内装外装は、それ自体に意味があるというよりも、男の人が女の人を連れ込むための口実のようだし、実際、昔のラブホテルは「連れ込み宿」って呼ばれてたくらいだもの。だけど、今ではラブホテルのことを、誰も、「連れ込み宿」なんて言わない。男も女も二人ともが行きたいから行くのが当たり前だから。それに、二人でラブホテル街を散歩して、部屋を選ぶ過程そのものが、一番楽しい。

ラブホテルも、時代に合わせて進化をしているんだわ。

それにしても、ローズリップスはもはや、女の子のためのホテルだ。ここは本当に、ラブホテルなのかしら? 私たちが入ったのは、ファッションブランドのアナスイの雰囲気を基調とした、少し大人っぽいけど、とてもラブリーな部屋。ラブホテルにしては、ゴージャスすぎる。

お部屋には、大きくて天蓋付きのベッド、メイクドレッサー、カラオケに、サウナ、ラジオとテレビ付きのお風呂。ルームサービスには、GODIVAのアイス、お酒、女子力アップグッズ、アナスイの化粧品、可愛いルームウェアに、人気の雑誌。

一晩だけでも、魔法にかけられてプリンセスに変身したいなら、ディズニーのホテルよりも、ローズリップスの方がいいんじゃないかしら。ラブホテルだからって、必ずしも、装飾がチャチだとは限らないんだわってことを私はここでしっかりと学んだ。

彼女は、さっそく、カラオケで私の知らない曲を入れて歌っている。長い夜がはじまりそうだ。

朝、備え付けのコンドームを一つずつ貰ってから、私たちはローズリップスをチェックアウトした。その時ちょうど、ロビーで、若い女性とおじさんの二人組とすれ違った。彼女が私の耳元に近づいてきて、

「ここに男の人と来た女の子、ぜったい私たちみたいにレンタルできないよ。可愛く、『これが気になるなあ』って言って、アナスイの化粧品を頼むくらいが関の山だって」

と囁いた。その言葉に、私は大きくうなずいた。私も、もし、男の人と来ていたら、恥ずかしくて、きっとアナスイの化粧品しか頼めなかったし、せっかくアナスイの化粧品なのに、濃いアイシャドウにだって挑戦できていなかっただろう。ホテルのルームサービスを思う存分使い倒してはしゃげるのは、女友達とラブホにきた時だけの特権だ。だって、セックスする前の男女に、アナスイの化粧品を楽しむ心の余裕はないし、二人の雰囲気は、この部屋を女子力アップグッズを使い倒す空間にはしないはずだ。

そう、ここは男の子と来たら損するラブホ。気のおけない女ともだちと来てこそ、最大限の価値を生み出す。私たちは、発色の良いアイシャドウをまぶたに塗ったいつもと違う自分にはしゃぎながら、二日目の大阪旅行へと出発した。

【まとめ】
『PETIT HOTEL Rose Lips501号室』@大阪 心斎橋
・おすすめ度:◎
・タイプ:プリンセス
・料金:○(平日休憩4000~、平日宿泊14700)
・アクセス:心斎橋から10分くらい
・デート:○(いいと思うけど、男の子がいるとレンタルを頼みにくくて悔いが残るかも。男性から、積極的に、「レンタルをしよう」と声をかけてあげればいいと思う)
・コンドーム:2つ普通
・お風呂:◎(広くてバブルでテレビとラジオ付きでサウナもある)
・アメニティ: 素晴らしい
・テレビ:◎(AVも映画も大画面で観れる、カラオケもできる)
・Wi-Fi:あり ・特徴:ANNA SUI、女子会、プリンセス、女子受け


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