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リーディング小説「美しい子宮~寧々ね~」第十七話 人は案外、自分の強みに気づきません

人は案外、自分の強みに気づきません

秀吉は望み通り茶々様を、手に入れました。
彼が三十歳も年下の茶々様に望んだものは、自分のDNAを受け継いだ子どもです。
茶々様の中に流れる浅井家と、信長様の織田家の血筋。
そこに自分のDNAを入れた豊臣の跡継ぎを強く望んだのです。
もしお市様を手に入れていたら、お市様に望んだでしょう。けれどその野望は、叶いませんでした。

信長様からいただいた秀勝を跡継ぎにすることも、叶いませんでした。
秀吉は亡くなった信長様を尊敬しながら、信長様を超える男になるために織田の血筋を求めた、と私は見ております。
自分の家系の中に織田の血を入れることで、信長様と同じ位置に立てる、と信じていたのです。

もちろんプライドが高い彼は、そんなことをハッキリわたしに言いません。
でも、わたしにはわかるのです。
秀吉は信長様にお仕えしていた時から、周りからさんざん自分の出自を馬鹿にされていました。
彼は自分を馬鹿にした世間を見返す為に、主君を超えるか同格のものを欲しがりました。
それが信長様が愛し可愛がっていたお市様であり、お市様の産んだ姫様達でした。
三人の姫様達の中で一番、お市様の面影を宿していたのが茶々様です。
秀吉が執着するのも、当然です。

彼は自分より身分の上の女を手に入れることで、自分の権力欲を満たしていたのです。この推測を裏付けるように、秀吉が手をつけた女達はみな大名の妻子たちでした。農民出身の下位の女には、目もくれませんでした。
身分の高い女を自分のものにすることで、彼は征服欲と満足感を満たし、自分を馬鹿にした男たちに復讐しているようでした。
けれどいくら秀吉がそんな女達を抱いても、子どもはできなかったのです。

秀吉は茶々様のところに、一週間に一度必ず忙しい中でも通っていました。
若い茶々様に、秀吉の子どもが授かるのでしょうか?
秀吉の、いえ、豊臣の子です。
これから豊臣の世を続けるために、豊臣の子がなんとしても必要です。

あの浅井と織田の血を引く茶々様は、きっと秀吉と豊臣のために子を産んでくれるでしょう。
そのために、わたしは秀吉に茶々様を差し出したのです。
茶々様のあの意志の強い目。
健やかな肢体。
なめやかな肌。
じっとりとした粘着質な女の顔をしていますが、彼女の内面は男でしょう。
茶々様からにじみ出るオーラは、どうやってでも欲しいものは必ず手に入れるパワーがありました。

二度の落城を味わい、親を失った悲劇のヒロイン。
意図的に悲劇のヒロインとなった旭とちがい、親の仇に抱かれ愛人にならざるを得なかった宿命的な悲劇のヒロイン。
それが、茶々様です。

ヒロインは、立ち上がります。
虐げられたまま、終わりません。
ましてやプライドの高い茶々様のこと。ご自身がどんな役割をこのドラマで課せられているのか、ご存知でしょう。その目的を果たす為でしたら、どんな手を使ってでも最大限の努力をして叶えるのが茶々様です。

わたしはそんな茶々様に、期待しております。
あなたはわたしの代わりに、ご自身の子宮に子を宿すのです。
豊臣の母としての思いを背負い、豊臣の子を産むのです。
あなたならきっとできます。
養殖の悲劇のヒロインではなく、天然の悲劇のヒロインのあなたならね。

秀吉の愛と関心をずっと自分に引き付けておくには、その手段しかありませんものね。
若さと美貌は、ある程度の女は持っています。
だけど、あなたにしかないもの。
あなただけが持っているものは、その血筋という何にも代えがたい出自。
その付加価値で、わたしはあなたを選びました。茶々様、ご存知ですか?

あなたは、自分の中に流れるその付加価値に感謝して下さい。
人は案外、自分の強みに気づきません。
もしかしたらわたしにもまだ、自分でも気づかない強みが隠れているかもしれません。

そして天正十六年、わたしのところに秀吉が喜び勇んでやってきました。頭から湯気が出そうなくらい真っ赤な顔をした彼は、わたしに抱き着きました。

「寧々!茶々が、わしの子を孕んだ!ついに、ついに、わしの跡継ぎが出来たぞ!!」
ああ、ついにこの時がやってきた、とわたしは自分の直感を誉めながら、秀吉を抱きしめました。

「お前様、ついに豊臣の後継ぎができましたね」

わたしの言葉に秀吉は涙ぐみながら、うなづきました。すべてわたしの予定通りです。茶々様は期待に、応えてくれました。

その時、嬉しいはずなのにどこか喉に小骨が刺さったような違和感を覚えました。
「本当に秀吉の子か?」むくむくした疑惑が、わたしの胸からわき上がりました。不吉な胸騒ぎを感じ胸を押さえた時、茶々様の声が聞こえた気がしました。
「わたしの産む子が、秀吉様の子です」

その声を聞いた時、仄かな疑惑は真っ黒な固まりとなり、すとん、と腑に落ちたのです。わたしは自分に言い聞かせました。

まぁ、良い。それでいいのでしょう。
誰の子種か、深く詮索しないでおきましょう。
でもね、茶々様、一つだけ言っておきましょう。秀吉が認めた子が、秀吉の子。どうぞ、それをお間違えなきように。

茶々様のご懐妊は、悲劇のヒロインの逆転劇が幕を開いた瞬間でした


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