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「シャイニング・ワイルドフラワー~千だって~」第一話 たくさん恋をするために、生まれてきた


たくさん恋をするために、生まれてきた

騙されてばっかりで、生きてきた気がする。
大阪城から外の景色を眺め、ため息をついた。運命に流されてきた、という言い方もできるな、長い髪の毛を左の人差し指に巻きつけ、つぶやいた。
そんなわたしを見て、千姫様、お行儀が悪いです!小さな声で乳母の刑部卿局がにらむ。

あ、もうめんどくさー!わたしはクルリと外に背を向け、頬をふくらませ部屋に入った。わたしが部屋に入ると、ぞろぞろおつきの侍女達も一緒に入ってくる。一人で物思いすることすら許されてないのが、セレブの宿命ね。わたしは背負わされた荷物の重さに、そっとため息をついた。

わたしの運命は、生まれた時からねじをつけられたように、しっかり固定されていた。
生まれた時から、ううん生まれる前から結婚相手が決まっていた。そういうの、おかしくない?
わたしはたくさん恋をするために、生まれてきたのよ。

生まれる前から女として生まれるのを期待されていたから、女として生まれたの。そうしたらすでに、政略結婚の相手が用意されていたのよ!はりきってこの世に生まれたのに、このありさま。
「だまされた~~~!!」と思ったけど、後の祭りね。
恋はいつできるの?!
結婚相手に恋したらいいの?!
こういうの、あり?!
あ、だけどこれも想定内?!

わたしは物心ついた時から、両親やおじいちゃまから秀くんが許嫁、と教えられてきた。秀くんに会う前から、秀くんの似顔絵はよく送られてきたし、誕生日のプレゼントも送られてきた。わたしにとって彼は自然な存在で、彼に嫁ぐことは何の疑いもなかったの。きっと周りがそのようにお膳立てしていたんだけどね。

初めて大阪城に入り秀くんと顔を合わせた時のこと、よく覚えてるの。一目見て似顔絵通りの端正な顔立ちの秀くんのこと、すぐにすきになった。
秀くんかっこよくて優しくて、ちょっとマザコン(笑)
秀くんママは、うちのママのお姉ちゃまの淀ママ。
だから、わたしと秀くんはいとこ同士。
ま、この時代によくあることよね。

うちのママと淀ママ、子どもの頃は苦労してたけど仲良かったみたい。
でもママが三度目の結婚(!)でパパに嫁いで、秀くんのパパが亡くなり、おじいちゃまが勢力拡大したあたりから、微妙な関係になったみたい。
そんな話はママの義理のお姉ちゃまで、乳母の刑部卿局が教えてくれた。

刑部卿局は、ママのお姉ちゃまだけどお母ちゃまがママや淀ママと違う身分の低い方だから、わたしのおばちゃまにはならないの。
刑部卿局のパパは、ママや淀ママのパパと同じ浅井のおじいちゃまだけど、母親の身分が低いと、女は損をするのがこの時代。
その点ママの血筋はいい、というか、ママ達三姉妹はドラマチックな家系なのよね。

ママのパパであるおじいちゃまは、もう滅んでしまったけど浅井家。
おばあちゃまは織田から嫁いだお市さん、といって悲劇の美女だったんだって!
おばあちゃまのお兄ちゃまは織田信長といって、みなに敬われ恐れられていた、すごい人だったんだって。
すごい人ばっかりよね。うちの家系。
だけどわたしのママも、ある意味すごい。

何がすごい、ってママは超強運。
自分でも「わたしは運がいいの!」て豪語していたしね。
一回目の結婚は政治的にまずくなり、サヨナラさせられたけど、気持ちが通じ合う前だったから未練もなく、辛くなかったそう。
二回目の結婚は、だんな様が亡くなりわたしのお姉ちゃまがいたんだけど淀ママが引き取ってくれ、三回目に六歳も年下のパパと結婚し、わたしを含め二男五女をもうけたの。しかも、妹の和子は天皇家に嫁いだのよ。

わたしは長女だったけど、パパとママの間で問題児だったみたい。
わたしのせいじゃないと思うんだけど、ややこしい立場だったからかしら?
もともとわたしの結婚はパパとママが決めたんじゃなくて、徳川のおじいちゃまの鶴の一声で決まったの。
徳川幕府を開いたおじいちゃまに、パパもママも頭が上がらない。

徳川のおじいちゃまは、わたしをとっても可愛がってくれた。
「千、千」と呼び、お膝に抱っこしてくれ、大すきなお菓子をママに内緒で食べさせてくれた。
おじいちゃまが言うには
「千は、信長様の妹のお市様にそっくりじゃ!
千のママより、千の方がお市様の血を引いて可愛いのう。
大きくなったら、もっともっと美しくなるはずじゃ!」
わたしはおじいちゃまにほめらると、すごくうれしかった。
「千は綺麗な花嫁さんになる!」
というと、おじいちゃまは泣きそうな顔になった。

えっ、わたしと秀くんの結婚を決めたのはおじいちゃまなのに、どうしてそんなお顔になるの?!
その時は思ったけど、今ならなんとなくわかる。

わたしは七歳でこの大阪城に嫁いできたの。
だけど、立場的に微妙。
嫁ぎ先の家が少しずつ没落し始め、自分の実家がだんだん繁栄するように、豊臣と徳川のシーソーは、少しずつ重さが反対になってきたの。
淀ママはいつも眉間に皺寄せて、ちょっとこわい。
「こんな小娘に、うちのかわいい秀頼をやるもんか!徳川なんて、なんぼのものよ!」みたいなオーラを、薄々感じる。
わたしのことも、あまり好きじゃないんだろうな。

今も秀くんのそばに座っている淀ママは、わたしに目もくれず秀くんの方をずっと見ている。

その目線は「息子ではなく恋人を見る様な熱い目で見ているんようです」夜、自分の部屋に戻ったわたしの耳元で刑部卿局がささやいた。
淀ママの秀くんへの視線は、ネットリしてるらしい。
「あれは、千姫様に秀頼様を取られたくない淀様の思いが現れていますね」
わたしの長い黒髪を櫛ですきながら、尚も刑部卿局が言葉を続けた。

「そういうものなのね。ふ~ん」おしゃべりなわたしが心の中でつぶやき、黙ったままだから、刑部卿局がそっとわたしの顔をのぞきこんだ。とにかくわたしは眠いの。我慢してかみ殺していたあくびがふわぁ、と口から出てきた。

「これ!姫様!!最近、お行儀が悪すぎます!」刑部卿局が怒鳴った。わたしは彼女の小言をスルーし、布団に横たわった。今日も退屈な一日だった。秀くんともあまり話せなかったし、つまんない。天井を見たまま、秀くんの面影を追った。

秀くんに対する気持ちは、トキメキとかワクワク、という感じじゃないの。
そうねぇ、どちらかというと兄を慕うような気持?
て、わたしに兄はいないけど(笑)
もしお兄ちゃまがいたら、こうやってあたたかく見守って大切にしてくれるんだろうな~と思うの。

そして秀くんとの初夜を思い出した。するとカッと身体が熱くなったから、思わず両頬を押さえた。
初夜で秀くんがやさしくわたしの身体を開いてくれたけど、それは男と女というよりも、おままごとみたいだった。お医者さんごっこのように淡々とした営みだった。
秀くんは、わたしのことを妻というよりも、可愛い妹という感覚かもしれない。
あるいは、お人形。
可愛い着せ替え人形の着物を脱がすように、わたしに腕からそっと袂を引くの。
どうして、そう思うのかって?

うーん、その理由はわからないけど、強いて言うと女の直感?!
秀くんがわたしを見る目やわたしと一緒にいる時の態度と、淀ママと一緒にいる時の秀くんはちがうの。
わたしと一緒にいる秀くんは、すごく紳士的でやさしい夫。
でもそれは「いい夫であらねば!そうでないとダメだ!」みたいに、すごく無理しているようで、生身の秀くんじゃないの。
秀くんも、やさしい夫、という着ぐるみをまとっている、着せ替え人形。
だけど淀ママと一緒にいる秀くんは、生き生きしているの。
張り切っている、というか、やる気がみなぎって、淀ママにいいところ見せようとがんばってる。

だから秀くんといるのは、ぬる~いお風呂につかっているみたいで、初めは気持ちいいけど、だんだんイライラしてくる。
するとこの城にいるのが嫌になって、寧々ママのいる高台寺に駆け込んじゃう。
そこで、あーだこーだと話しを聞いてもらうの。
淀ママは、血のつながった伯母ちゃまだけど、距離感がある。わたしと百万光年離れている感じ。
寧々ママは、血のつながりは何もないけどすごく話しやすい。
表裏ないから、裏読みしなくていいものね。

わたしは溺愛されて育った子によくあるように、どこかぼんやりして、人の気持ちを忖度するのが苦手。
自分で考えるより、誰かの考えや意志に従って生きていくのが楽。
運命に乗っかるのが、得意ね。

運命に乗っかって、流されて生きるのはダメ?
だけど、わたしそれしか知らないの。

わたしは布団をかぶり、思いっきりあくびをした。さすがの刑部卿局も布団の中までチェックしないでしょう。あくびを終えると、布団を首元までずらした。

恋と愛のちがいは何かしら?秀くんへの思いは恋?それとも愛?!

明日も着せ替え人形の一日を送るんだわ、はぁ、と息を吐き、わたしは眠りに手をひかれた。



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