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リーディング小説「お市さんforever」第三話 自分で自分を幸せにする方法


自分で自分を幸せにする方法

新婚生活は、ぬくぬくしたお風呂の中で身体を伸ばしているように幸せだった。夫の長政さんは優しくかった。私は毎晩彼のしっかりした長い腕に抱かれ眠った。そんなわけで、嫁いでしばらくし身ごもった。日々お腹が大きくなっていく私を見て、長政さんも嬉しそうだ。周りに誰もいないのを確かめると、そっと私のお腹に手を当て「元気な子を産んでくれ」と言いながらお腹を撫でた。「もちろんですわ」そう元気よく答え、私は微笑んだ。彼は私を抱き寄せた。彼の分厚い胸に抱かれると、未だにドキドキする。私はしみじみ愛され大切にされている喜びを感じた。ほんっと、こんなすてきな夫を選んだ自分を自分で誉めてあげたいわ!

そうやって二人が和んでいる場に、いきなり障子を開け舅が入ってきた。もうノックくらいしてよね!長政さんはパッと私を離し背筋を伸ばし、威厳を保つようにしかつめらしい顔を作った。
何をしにやってきたのか、と思うったらこの舅、わざわざ私の目の前に来てこう言った。
「この浅井家に、織田の血が入るなぞ、身震いがするわい!!」

私は思わずくっ、と顔を下に向け思った。
は?!何を言ってますの?この人。
浅井の中に織田の血が混じる?大間違いよ!
織田の中に、浅井を入れてあげてますのよ!!

何もわかってちゃいないんだから、この人は相変わらず・・・
あまりに可笑しかったから、下を向いたまま肩を震わせて笑った。
だけど長政さんからは、くっと下を向き肩を震わせた姿は父親の嫌味に耐えながら涙をこらえている健気な嫁に見えたみたい。

それからも舅が、やれ二人が仲良すぎて家臣に示しがつかん、だのもっと側室を持て、だの嫌味と小言をふりまき続けた。私はこんな奴に自分の顔を見せる必要はない、と下を向いたまま、右から左へ奴の言葉をスルーし、あくびをかみ殺した。ようやく舅は腰を上げて出て行った。

舅のような人を、エネルギー・ヴァンパイアと言うのね。幸せな人のところに来て、ネガティブな言葉を言うだけ言っていなくなる。もしここに長政さんがいなかったら侍女に塩を持ってこさせ、彼が吐き散らしたネガティブオーラを浄化させるところだ。ムカムカしたのはつわりのせいだけではないみたい。私は思わず着物の袂で、まき散らされたどす黒い悪意の粒を吸わないよう口元を覆った。長政さんはそんな私を心配そうに見て、頭を下げて言った。
「お市、すまん。
親父がいろいろと勝手なことを言ったが、何も気にしなくていい。お前は元気な子を産むことだけ考えてくれ。」

申し訳なさげに低い声でそう言った後、急に顔と声のトーンを上げ
「そうだ、お前に良く似合いそうな桜色の絞りの反物があった。
それを、お前にプレゼントしよう!」とポン!と手を打って言った。

それを聞いた私は、さっ!と顔を上げた。違うやろ!という言葉が3Dプリンターで印刷されたように、どどん!と私の目の前に現れた。私は長政さんをまっすぐ見て言った。

「あなたが私に申し訳ない、と思うのでしたら、お父様に反論して下さい。
その場で、私をかばって下さい。私を守って下さい。
私が肩身の狭い思いをしているのを、横で何も言わず見ておきながら
モノでわたしのご機嫌を取ろうなんて・・・・
最低!!」

あ~スッキリした!私はぐつぐつ胸で煮えたぎり吹き出す寸前だった思いを全部ぶちまけると、プイッと横を向いた。彼の顔を見なくてもわかる。長政さんは驚いた口もきけないに違いない。この時代、妻が夫に口答えするなんて、ありえないものね。
長政さんは、きっとこう思ったでしょうね。

な・・・
なんだ、この女は?!
いや、でもお市の言う通りだ・・・
私は父に彼女が侮辱されるのをただ、歯がゆい思いで見ているだけだった。
何もできない自分の申し訳なさをモノに変え、お市にお詫びをしようとしただけだった・・・

夫はそう思っているに違いない、と推測した私はまだ口を半開きにし、呆然としてる長政さんに言った。

「大丈夫ですのよ。
私、自分以外の誰かやモノに幸せにしてもらおうと思っておりませんから。
私は自分で自分を幸せにしますから。」
そう言って微笑んだ。きっと長政さんの目には艶やかな笑顔に見えたに違いない。なぜなら彼はうっとりと私に見とれているからだ。私は続けて言った。

「で、あなた。
その反物はいつ着物になって、届きますの?」
「えっ?!」
「あら、私いらないとは言ってませんのよ。
あなたがプレゼントしてくれる、というのでしたら、喜んでいただきます。単なるモノはどんなにすばらしいものであっても、私の心を温めません。
けれどあなたの思いがこもっているモノは、私の心を美しく彩ります。
それを身に着けた私は、自分を自分で幸せにできますわ。」

あら、私ったら。こういうところが、あの兄上の妹よね。私は自分のふくらんだお腹を撫でながら、お腹の子に思いをはせた。あなたも私や兄上に負けず劣らず強くなるのよ。自分で自分を幸せにするのよ。

長政さんは一瞬あっけに取られていたが、大きく破顔して言った。

「おお、ならば早く取り寄せようぞ!」
きっと彼には、桜色の絞りの着物を身に着けた美しい私の姿が目に浮かんでいるに違いない。

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しなやかに生きて幸せになるガイドブック

あなたは自分の心の空白を、自分以外の誰かやモノで埋めようとしていませんか?

あなたの心の穴を埋められるのは、あなただけです。
それが、自分で自分を幸せにする、ということ。

自分を幸せにするためには・・・・・・
まずは、自分の本当の気持に耳を傾けることが大切です。自分が何を感じ、何を思っているのか?それがブラックな本音であろうとも目をそらさずに受け入れる事。

幸せは、あなたの心の中にこそあります。そこにしかありません。

しなやかに生きる。
美しい開女(akujyo)への第一歩。


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