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「シャイニング・ワイルドフラワー~千だって~」第八話 運命は自分の思いで、変えられる

運命は自分の思いで、変えられる

その年の十一月、ついに徳川と豊臣の戦いが始まった。
初めは徳川が有利だったけど、真田丸で豊臣はよく踏ん張った。
わたしはもちろん豊臣の応援をしながらも、心のどこかでおじいちゃまやパパやママ、弟達のことを考えていた。

わたしは城の中でオロオロしながら、自分の身体が二つあれば、いいのに!
わたしが二人いれば、いいのに!そうしたら心置きなくわたしの思いを分け、そこにいられるのに!!と思った。
そんなわたしの心の揺れに呼応するように、大阪城の内部でスパイ行動や裏切りが横行しているようだった。
そばにいるものが敵か味方か疑う目つきで見て、心を許せない日々が続いたの。今やわたしが心を許せるのは、刑部卿局だけだった。
忙しくてなかなか奥には来られない秀くんだけど、たまに様子を見に顔を出してくれる。時折見るからこそ、彼がどんどんやつれていくがわかる。
仲間だと信じていた家来たちの裏切りに、秀くんは傷つき疲弊していた。

わたしも秀くんも、戦を体験したことがない。
秀くんパパが日本のてっぺんに立ちこの国を治めた頃に、わたし達は生まれた。だから生まれる前の悲惨な戦国時代を知らない世代。
だから秀くんは生まれて初めて、命をかけ地位とプライドを守るための戦いで、味方だと思っていた仲間が亡くなったり、裏切り心変わりをする姿を秀くんはリアルに見たの。
それは秀くんの心を深く傷つけ、引き裂いた。

わたしは日に日に痩せていく青白い顔の秀くんが痛々しくて、彼をそっと抱き寄せ、背中を撫でた。
秀くんはわたしにされるがまま身体を預け、目を閉じていた。
そのほんの一瞬だけでも、彼の心が穏やかでいられるよう祈った。
わたしができるのは、それくらいだから。

真田丸で、豊臣は徳川に勝った。
でもそこから毎日、昼夜を問わず大阪城に大砲が打ち込まれた。
それでもおじいちゃまは、わたし達がいる場所は避けていた。
城に打ち込まれる大砲の音や掛け声、城の内部で叫び、ざわめく声はわたし達に強いストレスとプレッシャーを与えた。
わたしの身内が攻撃を与えているという負い目も重なり、わたしは何もものが食べられなくなった。
目の前に食事を出されると、目は欲しい、と望むけれど身体が受け付けなかった。
夜も落ち着いて眠られない。
目は落ちくぼみ、黒いくまができた。
身体全体で「ごめんなさい」と、大阪城に謝っているみたいだった。

秀くんは周りの人たちの姿や、味方がどんどん亡くなり減っていく姿を見かね、ついに徳川に和睦を申し伝えたの。
正直わたしはホッ、としたわ。
でもね、その和睦の条件がかなり豊臣にとってハードだった。
おじいちゃまは、大阪城の外堀を埋めることを条件に豊臣の和睦を受け入れた。
外堀を埋める、ってことは、城としての機能を失うことなの。
そこまでの条件を飲んだのだから、豊臣は徳川に与した、という証になる、と淀ママは考えていたみたい・・・

その話を刑部卿局にしたら、彼女は顔をしかめた。
「も、本当に詰めが甘いですわ。
大御所様がそれで手を打つはずなど、ないではありませんか!
大御所様は、それはそれは用心深いお方です。
幼少の頃から、艱難辛苦を乗り越えてきたお方です。
ご存知でしょう?
お母様の江様の伯父様、織田信長様に命じられ、初めの奥様もご嫡男様のお命も奪わざるを得なかったのですよ。
それだから、秀忠様が嫡男になられたわけですけどもね。
とにかく、豊臣の方達は甘いです!
甘すぎます!!」

珍しく刑部卿局が、声を荒げ首を左右に大きく振った。わたしはのんびりした声で彼女に言った。
「でも、これでもう豊臣と徳川が争わなくてもすむのでしょう?」

刑部卿局はそっと声を潜め、わたしの耳元で囁いた。

「これで終わるとは思えません。いろいろな準備と根回しが必要です」

言い終わると、刑部卿局は足早に退席していった。

なにの準備と根回しなのかしら?これで戦は終わりではないの?
そんなむなしく苦い気持ちが、胸いっぱいに広がった。わたしはうつむいたまま胸を押さえた。この戦で亡くなった人たちを悼んだ。
豊臣にも徳川にも、たくさんの死者や負傷者が出ただろう。
みな、愛する家族や友人もいただろう。
争いは、何も生まない。
痛みだけを残し、立ち去る。
それが、とても悲しい。そして天に向かい両手を合わせ、亡くなった人たちの冥福を祈った。

大阪城の外堀を埋める工事が始まる前、淀ママは寧々ママに会いに行った話を聞いた。
わたしはその話しを後から、寧々ママに聞いた。
それが豊臣の女として、寧々ママに会った最後だった。

寧々ママは穏やかながら、凛とした声で言った。
「千姫、覚悟をしていて下さい」

たぶんわたしはポカン、とした顔をしていたんだろうな。
だって、頭の中で
「わたし、死んじゃうんだ・・・大阪城で・・・秀くんといっしょに・・・」
と思っていたから。だけど、一緒に命を絶つ図がどうしても浮かんでこない。

寧々ママは続けてこう言った。
「残された秀頼様とのお時間を、大切にして下さい。わたしがあなたに言えるのはそれだけです」

そうか、やっぱりわたし死んじゃうんだ。
和睦をしたのに、豊臣は負ける、てこと?
秀くんは、死んじゃう、てこと?

心が押しつぶされたように苦しくなり、鋭い刃物でぐさり、と切り込みを入れらたみたい。
気づくとわたしは大きく目を開いたまま、声も出さず泣いていた。

寧々ママがやさしくわたしを抱き寄せた。
「宿命は変えることは、できません。
けれど、千姫、良く聞きなさい。
運命は自分の思いで、変えることができるのです。
変わるのです。自分の手で。
ただ、運命に流されているだけではだめですよ。
運命を操る女になるのです。
あなたならきっとできます」

運命を操る女になる・・・・
後にこの言葉が、どれだけわたしの心を支えてくれただろう。

運命は自分の思いで、変えられる。
わたしは、運命を操る女になる。

単純なわたしに、寧々ママの言葉はすっ、入ってきた。
そのとたん、ずっと閉じられていた心の扉の閂(かんぬき)が、ぎぎぎ、と音をたて外れる音が聴こえた。
わたしは開いた先にある運命の中に、こわごわ足を踏み入れた。
そこは目の前いっぱいに広がる砂漠のような荒涼とした光景だった。
草木も水も、何もない。
希望も夢もない。

砂漠に足を踏み入れたわたしの中にあった感情は、怒りだった。

神様のばかやろう。
あなたになんか、負けやしない。

この砂漠に、わたしの花を咲かせてみせるわ。
わたしの目に砂漠に咲く真っ赤なワイルドフラワーが見えた。

わたしは唇を噛みしめ、両手を強く握りしめた。

わたしは運命を操る真っ赤なワイルドフラワーになる!

眠っていたわたしが、目覚めた。



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