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リーディング小説「お市さんforever」第七話 自分だけの美しい華を咲かせ、自分を誇りに思う一生を生き抜く

自分だけの美しい華を咲かせ、自分を誇りに思う一生を生き抜く

浅井が兄上のいる織田家を裏切り、同盟が破綻した時期から私はずっと体調が悪かった。ムカムカして吐き気をもよおし、寝込むことが多くなった。この症状に覚えがあった。私は身ごもっていた。愛する夫との第二子を授かったのはうれしかったが、その喜びは控えめにでも顔に出せなかった。
なぜならこの時、城内の誰もが
「生まれてくるのが、男子でなく女子でありますように」
と祈っていたのを知ったからだ。浅井にはすでに跡取りの男子はいる。だから敵にまわった織田の血筋を引く男子が浅井の中にいることは耐えがたいのだ。

横になっている私のそばでさきは憤慨し、舅が祈祷師まで雇い私の流産、もしくは女子祈願をしていることを話した。私はあの人ならやりそうなことだ、と思って笑ったらさきに怒られた。「お市様、笑っている場合ではありません!どうして怒って長政様に言わないのですか?」と、さきは私にくってかかった。「ねぇ、さき、よく考えて。あの人やっぱり馬鹿よ。生まれてくる子が男だろうと女だろうと、織田の血が流れていることには変わりないことに気づかないんだもの」そう言うとさきはハッとして「本当にそうでございますね」と言って膝を折って座りなおした。


女はこうやって脈々と、己の生きた証を残していく。それは男にはできない。一人子供を産むたびに女は図太くなっていく。横になったまま、私は自分のお腹に手を当て祈った。
「私の愛おしい娘が、無事に生まれてきますように。
織田と浅井の血を受け継いだ私達の娘が・・・。」

月満ちて生まれてきた子は、元気な女子だった。
姉の茶々が生まれた時のように、真っ赤な顔をして泣いている娘を抱きしめながらホッと安堵した。
生まれてくるのは女子だろうと、わかっていた。それでも生み出してみるまで不安だった。夫もうれしそうに生まれたばかりの娘をのぞきこんだ。そして私を見て、笑顔でうなずいた。
この戦国の世で、もはや私も夫も男子を望んでいなかった。男子であることはあまりにも過酷で、まだ女子の方が生き延びる可能性が高い。

私はやさしく娘を撫でながら誓った。この世に、私を母として選び生まれてきた娘たちを、生かしてやりたい。どうやっててでも、生かす。
生きていく方が、うんとすばらしいから。
メンツだの、プライドだの、沽券だのは、男どもに任せておけばいい。
女は生きて生きて、命の華を咲かせるの。
この子が成長し子供がいればいたでいいし、いなくても構わない。
どんな人生だっていい。
自分だけの美しい華を咲かせ、自分を誇りに思う一生を生き抜くの。生き抜くのよ!

起き上がって娘を抱いた私は、知らず知らず厳しい顔になっていたのだろう。茶々が心配そうに「お母様、どうしたの?」と私の顔を見上げていた。私はすぐ笑顔になり「大丈夫よ。この子があなたの妹よ」とは生まれたばかりの妹を茶々に見せた。三歳になった茶々は嬉しそうに「お母様、この子のお名前は?」可愛い顔を向け聞いてきた。
「もうじき、お父様がお名前を持ってくるわ」と答えた。やがて夫の長政さんが、娘の名前を墨で記した紙を手にやってきて言った。
「市、このたびもご苦労であった。
無事に娘を産んでくれ、礼を言う。
この子の名は「初」だ。」

「まぁ、次女なのに「初」?」
「浅井は織田と袂を分かった。
その時に生まれた子だ。
ここから、新しい浅井の歴史が始まる。
だから「初」だ。」

「そういうことね。
浅井家、リセットということね。」

私が頷くと、横で茶々が首を傾げて聞いてきた。

「お母様、リセットてどういうこと?」

「もう一度、新しく生まれ変わる、ということよ。
茶々、女はね、何度でもリセットできるの。
憶えておきなさい。」

「そうなの?お父様は?」

茶々は今度は夫の方を向き、首を傾げた。
私はわざと黙って夫の顔を見た。
夫は苦笑いしながら、茶々を抱きあげて言った。
「う~ん、男はむつかしいなぁ。
女性の方が、しなやかだからね。
女性には、かなわないよ。」

私はフフフッ、と笑いながら心の中で言った。あら、よくおわかりで。
この人のいいところは、素直なところだわ。
女は男を立てているように見せながら、実際男を動かしているのは女ですものね。だけど私は、そんなあなたが大すきよ。
言葉は口に出していないけど知らず知らず、顔がほころび笑が広がった。

夫は笑顔の私をまぶしそうに見て、茶々の頭を撫でながら言った。
「茶々、妹の初と仲良くするんだよ。」
「はぁい!」
茶々が無邪気な声で返事し、部屋は和やかであたたかい雰囲気に満たされた。

夫が茶々を連れ、部屋を出て行った。私は初という名をもらった娘と寝床に横になった。眠っている初の頭を撫でながら初に語りかけた。「女は、何度でもリセットできるのよ。ただしそれは自分を開いたなら。閉じたままだと、何も変わらない。だけど女は何度リセットしてもいいの。そうやって女達は、嫁いだ家が滅んでも、また違う家に嫁ぎ、何度でも自分の華を咲かせるの。未来への扉は、いつも用意されている。でもその扉を開けるのは、自分しかできない。あなたも自分の手で開くのよ」

私は今、茶々や初をふくめたさきやすべての女達が愛おしくてたまらない。眠っている初の赤い頬にそっと顔を寄せた。初は新しくスタートする浅井家のリセットのあかしだ。
茶々、初、そして女達、自分だけの美しい華を咲かせ、自分を誇りに思う一生を生き抜くのよ。
それが、女の一生だから。


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しなやかに生きて幸せになるガイドブック

あなたは何度でも、リセットできます。
新しく始めることができます。


その時「過去、~だったから今回も~だろう。」という「思い込み」を手放しましょう。
過去のあなたと、今のあなたは違います。
過去の自分を手本に考える事を止めましょう。

何かを始める時、まず決めるのは未来のゴール。
先に未来を決めます。
そして、その未来に意識を向け、進んでいきましょう。

見るのは、過去ではなく未来です。
過去に縛られず、未来を先に決めてから進みます。

何でも自分を開き、自分の声本音に耳を傾けましょう。心の声に従いましょう。それがリセットすること。

自分だけの華を咲かせ、自分を誇りに思う一生を生き抜く
それが、女性のしなやかさ。




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