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リーディング小説「お市さんforever」第十七話 自分という女の価値を知る

自分という女の価値を知る


清州会議で、猿が兄上の孫の三法師を出してきたことで、織田の後継者は三法師に決まった。その子の後見人に勝家の押した信孝がなることで、どうにか話しはまとまった。
織田の領地も、それぞれ分割されることになった。
その時、勝家がみなに私との婚姻をぶちまけた。
それを盾に
「信長様の妹のお市様にふさわしい領地を!」
と北陸地方だけで終わりそうだった領地に近江も加えさせ、自分のものにした。清州から帰った勝家は、意気揚々と私に報告しに来た。

「あの時の猿の顔を、見せてやりたかったですわい!!」
カッカッカッと髭をしごきながら、勝家が大声で笑った。
「猿はお市様とわしの結婚を聞き、一瞬ポカンと口を開いた後、慌てて
「それは、それは、勝家殿、まことにおめでとうございます」
と心ならずも、祝辞を述べましたわ」とまた勝家が、してやったりの得意顔で言った。

私は脇息に腕を置き、顎に手を置いたまま暑苦しい勝家の話を「そう」と聞き流しながら、猿のことを考えていた。猿はビックリもするわよね。だって私・・・・・・猿に秋波を送っていたもの。いえ、言葉はかけていない。
わざと猿のいそうなところに出かけ
「あら、私を抱きたいと思っているの?」
「私をものにしたいと思わなくって?」
と思わせぶりな目線やオーラなどの非言語で、猿に語りかけていたの。

今はもう私の中から湧き上がってこない甘い蜜。
それが滴るほどあふれ出るフリをし、猿を寝床に誘い込もうとしていた。
これが、戦国女子(しかも未亡人、しかも子持ち)の生き方よ。
猿にしたら私に蜜があろうがなかろうが、関係ないでしょう。
主君の妹という高嶺の華をくみし抱くだけで、男としての支配欲がとてつもなく満たされるでしょう?私も猿を使い、兄上が果たせなかった天下統一の夢をちょっとだけ叶えたかったの。その為に猿に抱かれるなら、なんでもないことだった。Hがうまいか下手か、早いか遅いか、そんなこと、どうでもいいのよ。兄上とは違う猿のギラギラした征服欲に、乗ってみたかったのよね。お互いの利害が一致していたのにね。

奴に寧々という妻がおらず、私が「正妻」という立場になれるなら迷わず、口説かれ落とされたフリをしてその座に座り、後ろから猿を操っていた。自信があったわ。だけど、「妾」という立場はどうしても承服できなかった。この私が、そんな立場に甘んじることはできない。だから、勝家の案に乗るしかなかった。ほんと、残念・・・・・

私は勝家の長話を右から左に流し、大げさな身振り手振りで話を続ける勝家を眺めた。勝家も男として私を抱くことはできないけど、私を妻にすることで彼の支配欲は十分満たされたはず。
だから猿にも「お前が欲しくてほしくてたまらなかった女を、俺は手に入れたぞ!どうだっ!!」と上から目線で見下せる。

私は男達の征服欲をとてつもなく満たすことができる女だ。私は自分の価値を知っている。知っているからこそ、その価値を安売りしない。

清州会議が終わり私は勝家と3人の娘達と、福井の北ノ庄城に入った。
私は娘達に
「母は勝家と結婚し、あなた達と一緒に北ノ庄城にまいります。
今日から勝家様があなた達の父親です」
と告げただけだった。

三人の娘を前に、勝家との結婚を告げた時、彼女達はひどくショックを受けた。三人とも黙りこくって何も言わなかった。そこに激しい怒りがあることも知っていた。特に茶々は長政さんこそが父上と思っているので、私の所業にあきれプイと横を向き、目も合わせなかった。初と江も何か言いたそうだったが、茶々の怒りがすごかったので、無言で重い空気を漂わせていた。
彼女達は、ことのほか冬の寒さが身に染みると聞く北ノ庄城に行くのを嫌がった。それは私も同じだった。
今のあの子達に、何を言っても受け入れてもらえない。私はため息をつきながら、引っ越しの荷物をまとめた。
いつか愛する娘達に私の本音を伝える時がくるまで、私の想いはフリーズさせよう。特に長女の茶々には。だけど私は願わずにはいられない。私は胸の前で両手を合せ、どうか、その日が一日も遅くやってきますように、と天を仰いだ。

そして私達は、勝家と共に北ノ庄城に入った。
彼とステップファミリーになったのは、いづれ牙をむく猿と闘うため。
そして彼に立ち向かう、勝家という年老いた馬を乗りこなすため。
妻として私の第二の人生が始まった。
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しなやかに生きて幸せになるガイドブック


あなたは自分がどんな女だと思いますか?

自分という女の価値を知っていますか?

あなたの価値はどれだけのものでしょう?


周りの顔色ばかりうかがっていませんか?
それは、あなたの態度がそうさせています。

自分の価値を決められるのは、自分だけ。

あなたが自分の価値を決めます。

あなたが決めた価値観で、周りはあなたを扱います。

どれだけ高く自分を見積もってもいいのです。

まず、あなた自身がその価値を認め、その価値にふさわしく自分を扱いましょう。その価値にふさわしい言動を自分にさせましょう。

それが、女性のしなやかさ。


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