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【エッセイ】ガンバレ


困難スライドリボルビング精神さんの記事

映画「バトル・ロワイアル」

 昨日、困難スライドリボルビング精神さんのnoteを読んでいて懐かしさとともに、我慢できなくて映画「バトル・ロワイアル」を、夜勤明けのテンションのまま鑑賞した。
 この作品が発表された時に私はまずその分厚い原作小説を読んでいたために、映像化に対して興味津々なうえ、公開について世論から政治の世界までも巻き込んだ議論になるほどの問題作として話題となったこの作品を観ないという選択肢はなかった。
 私は公開直後に観に行き、そういった話題性以外に、故・深作欣二監督の精神性から連なる反骨精神が重厚に練り込まれている上でこの、「子ども同士の殺し合い」というテーマをこれ以上ないほどのエンターティンメントとして成立させた演出力にあまりにも感動し、公開中の毎週末、時には平日の夜にまで劇場へ通い、全てのセリフを暗記するほど観倒した記憶がある。
 作品については困難スライドリボルビング精神さんのnoteを読んでいただいて、なによりも興味があれば記事内にあるリンクからAmazonプライム・ビデオでこの作品を鑑賞していただくのが良いと思う。

 余談だが、この作品には特別編というのがあって、これはR15指定となった初公開時に中学3年生で鑑賞することができなかった多くの子供達のために、シーンを追加して編集し直したバージョンで、初公開から1年後に上映された。
 初演時に鑑賞できなかった子どもたちが卒業証書を持参すれば割引料金で観られるという監督の粋(意地?)な計らいもあった。
 このバージョンは、冒頭のタイトルバック部分にも編集が加えられている。
 前フリ部分から映画のタイトル表記が描写される直前に[R-15]という画面が前面に出てくるのだが、この画面がまるでナイフで切り裂かれるように、縦に裂けるという、もう本当に深作監督の情念が噴出しているような演出もされている。
 私的にはこのカットのためだけにでも観る価値はあると思っている。

 こちらはレンタル扱いになるのでご注意を。

ガンバレ

 この作品には「ガンバレ」というキーワードが3度登場する。
 1度目は冒頭、主人公・七原秋也の中学校入学のその日に父親が自殺し、彼が身体に巻き付けたトイレットペーパーに繰り返し「秋也ガンバレ!」という文字を遺書のように書き遺しているシーン。
 2度めは中盤の回想シーンで、秋也の中学入学前、自殺直前の父親と外食に出た店内でその父親が「秋也ガンバレよ、ガンバレったって何をガンバりゃいいんだか・・」と独白めいたセリフを吐くシーン。
 3度目はラスト近く、この作戦の指揮官とも言える元担任教師のキタノが、ヒロインである中川典子に対して「中川、ガンバレ」と繰り返しつぶやくシーン。

 この「ガンバレ」という言葉、2度目に登場するシーンで父親が言う部分までは極めて無責任な言葉として描かれている。
 これが、この大人が発する、目的のハッキリとしない無責任な言葉の連呼というのが、子どもたちの大人への不信感につながっている。
 私はこれも深作監督がこの当時の社会情勢を前に、言いたかったことの一つだと思う。

 そして監督は最後のガンバレで、決着をつける。
 キタノは中川に、とあるハッキリした目的を明示し、彼女を前進させ、生き抜かせるために「中川、ガンバレ」を繰り返すのだ。

 個人的に私は、人と話す時、それが年長者であろうと子供であろうと、極力この「ガンバレ」という言葉を使わないようにしている。
 自分がこれを言われる時に、時としてまるで「どうでもいい」「自分でなんとかしろ」「私には関係ない」という面倒くさいからその話題を手っ取り早く切り上げる方便として言われている気持ちになることがあるからだ。
 相手はそれほどの深い意味で発しているのではないと思うのだが、逆にだからこそタチが悪い言葉になってしまう。
 要は心が無くてもまるで人を励まそうとしているかのように、その人のことを思っているかのように自分の体裁を作るために便利な言葉なのだ。

もうひとつのがんばれ

 バトル・ロワイアルがまだ小説としてさえ発表されていない時代に、ブルーハーツは声高らかにこの「ガンバレ!」を連呼していた。
 私はこの頃、東京から地元に戻って、地方のちいさなレコード店の店長をしていたのだが、当時の中高生が店に来るたび「人にやさしく」というレコードを探しているという。
 当時の私は店の性格上、洋楽ばかり聴いていたのでまったくわからず、発売元(ジャグラー)の連絡先をわざわざ調べてきた高校生の熱意に押されて直接連絡し、とりあえず50枚ほど入荷して、一枚を個人的に購入し、店舗で大音量で流してみたその時の衝撃は未だに忘れられない。
 結果的にこのレコード、田舎のちいさなレコード店でおそらく300枚近く売れた。県内では一番多く売った男という自負がある(笑)

 圧倒的な力。
 声と荒々しい演奏と、言葉の持つ力。
 励ましてほしい少年少女たちに直接投げかけるような「ガンバレ!」というシンプルなメッセージ。
 2コーラス目で「人に優しくしてもらえないんだね、僕が言ってやる・・」と「ガンバレ!」をコールするのだが、本当に胸を打つのは3コーラス目のガンバレ!なのではないだろうか。

優しさだけじゃ 人は愛せないから
ああ なぐさめてあげられない
期待外れの 言葉を言う時に
心のなかでは ガンバレって言っている
聴こえてほしい あなたにも
ガンバレ!

 励まされることを期待している人が欲しいガンバレという言葉を安直に発するのではなくて、時に苦言として捉えられるような言葉を吐いたとしてもその裏には必ず心の底からの「ガンバレ」がある。

 ガンバレは心の中でいいんじゃないだろうか?
 真にその人を励ましたいのならきっともっと具体的な、現実的な、もしかしたら厳しいと感じられる言葉が表に出ることもあるかも知れないけれど、それでも真剣ならその裏にはかならず「ガンバレ」があるはずなのだ。
 もしかしたらであるが、この連呼されるガンバレは、無責任な人を放り出すような安直な「ガンバレ」に対するアンチテーゼとして使われているのではないか?と、私的には勘繰ったりもしている。

公式の映像が見つからなかったのでここは敢えて
江頭さんのバージョンで(笑)


静かな日々の階段を

 バトル・ロワイアルについて書いて、音楽についても書いたのでここでバトル・ロワイアルのエンディング曲について(笑)
 この映画を見に行く際、監督が深作欣二であるということと、あとメインキャストの名前程度しか知識を入れておらず、ラストシーン後にこの曲を聴いてびっくりした記憶がある。まさかドラゴン・アッシュがエンディングテーマを担当しているとは思いもしなかった。
 当時、ドラゴン・アッシュは「グレイトフルデイズ」が大ヒットしてブイブイ言わせていた頃だったのだが、アコースティックでかつ、映画のエンディングからそのまま連なるようなポジティヴなメッセージの込められた秀作であると思う。

映画「バトル・ロワイアル」エンディングテーマ曲
ドラゴン・アッシュ/静かな日々の階段を


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