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背徳書簡#0


Blood,Sex&Sadism are pleasures 

今 ふたりきりで抉る深秘の楔


前文

 見ず知らずの男が肉欲を満たすために書き記した文言は、とある夫婦の妻にとって実に嫌悪すべきもので、彼女は眉を顰め唇を震わせ顔面を紅潮させながら憤怒の余り何の落ち度もない夫に対して罵詈雑言を浴びせかけるのだ。
 自らと無関係な妻の憎しみをただひとりで受け止めた夫はその晩、ふたりの寝室からそっと抜け出して狭苦しいクローゼットの中、悲しい眠りに就き悪夢にうなされていた。
 吐き出す場所を他に探す事さえもできず夫にぶつけてしまった妻の怒りはそれでも治まることがなく、激情に駆られるあまり図らずもその忌まわしい文字を何度も何度も読み返すこととなる。
 野獣の交わりよりさらに穢れた行為が何度も脳裏をよぎり、イメージは明確になって行く。血の中に雄雌の性液が入り混じった匂いは、次第にリアリティを伴って妻の鼻腔を満たしていく。
 夫を見下し罵った金切り声を思い出すとそれは、いつしか夫以外の男根に貫かれて叫ぶ自分の歓喜の声に摩り替わる。
 惨めな夫はクローゼットの隅で嗚咽を漏らし、微かに聴こえる夫の啜り泣きを耳に捉えながら妻は自らの性器を弄び始めた。

#0


 私が匿名で投げかけた提案は世間の人々ほとんどから無視された。その、私自身が、私だけがただひとり満足するために、見ず知らずの女を利用して陥れ支配し蹂躙した後に捨てる、という行為についてその提案を行ってから3日後のある朝、ひとりの女が反応した。

 私は慎重にできるだけ丁寧に言葉を選び上品な文体で手紙を書いた。はやる心を押さえつけ震える手をバーボンで宥めながらのその作業はしかし、私にとって至福だった。
 その女が誰なのか、名前も素性も顔の造形も体形も全く知らない。素性などは今後も知りたいとは思わない。容姿は事が進めば自ずと知れる。雌雄は互いをよく知るべしというのが定説のようで、それが幸せな関係に繋がるとか、ふたりの明るい未来を創るとか言うけれど、私はありきたりな幸福も目が眩むような輝ける未来も欲しいとは思わない。ただ、今、自分の思うまま、場所も時も人目の有無も選ばずに、飽きるまで放蕩の限りを尽くしたいだけなのだ。それが悪逆であれ傲慢であれ一切の呵責を感じることも無い。
狂乱の鞭を揮う者がいて、喜悦に仰け反りながらそれを受ける者がいる。共に恍惚に至り、爛れて熔けるのみ。





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