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【小説】愚。#6

前回

パーマネントヘア・スクラップ

 女の揺れはどんどん大きくなっているいや、揺れと言うよりはもう回転である。
 かき揚げ饂飩を器用に掲げたままで相変わらず小汚い床にベッタリとへたり込み骨盤を中心として上半身が回転している、ぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐると、ぐるぐる、とその回転と同調して煽るように靡く髪に隠れて表情を伺うことはできないがはて?どうしてこの女は回転しているのだろうとそんなことを股間の張りが女の回転に連れて強くなっていくのを感じながら贋造は思っていたと同時に先程来、ひたすら耳を襲うこの金切り声いや、本当に文字通りの金切り声であってそれはもう社食のこの空間でガンガンに反響し耐えきれないものとなっているしまた、次第に音量も上げてきているこの音に苛ついていた。
 やばいやばい耳がやられるなんとかしねぇとと、周りを見回す贋造。
 その凶悪な金属音の発生源は回転する女の向こう側約1メートルくらいであってそれは、絵に書いたようなおばちゃんパーマの小柄な中年女性であった。
 いったいどういった声帯を持つとこういう強烈な音響が出せるのかそのおばさんは自らのパーマを手で掻き毟りながらもう、パニックを起こしている。
 パニックを起こして金属音を発している。
 おばさんの金属音で脳がキンキンに痺れ始め「もう無理」と判断した贋造がぶっ飛ばそうと拳を握るとほぼ同時のことであったそれは。
 山空が片目を閉じたまま中年女性にスタスタと歩み寄り、その顔面のど真ん中に膝をめり込ませた。
 あ、と息を飲む贋造。飲んだ息がそのまま股間に落ちて更にペニスは硬くなる。
 吹っ飛ぶおばさんしかし、金切り声は収まらない。
 山空はウィンクしたままおばさんに歩み寄り、いきなりパーマを鷲掴むとそのまま力任せに放り投げた。
 小柄なおばさんは一旦宙に浮きまた、重力したがって当然床に落下、そのまま滑って回転する女の正面まで転がった。
 バサバサと髪を振り回しながら回転する女の真ん前でおばさんは金切り声を上げ続けているそれどころか、ジリジリと女にすり寄りとうとう女の回転域に到達しようとしていたその時、突如女の回転が止まった。
 女はやや俯き加減の姿勢で回転を止め、ゆっくりと顔を上げた。

 女は笑っていたそして、手に持っていたかき揚げ饂飩のどんぶりを、まるでお面をはめ込むような形でおばさんの顔面に叩きつけた。
 顔面に丼を貼り付け、顎とどんぶりの隙間から饂飩と汁を垂れ流しながらそれでも、おばさんは叫び続けていた、どんぶりのせいでややくぐもってはいたけれどそれでもまだ金切り声を上げていた。
 女は笑ったまま一旦おばさんから丼を引き剥がし、右手にしっかりと持ち直してそれを振り上げそして、振り下ろした。
 女が放った渾身の一撃はおばさんのこめかみ付近にヒットし、丼は砕けたそして。
 金属音が止まった。

 白目を剥き泡を吹いて昏倒するパーマのおばさん。

 小汚い床にへたり込んで笑う女。

 唖然としながらも勃起を続ける贋造。

 山空は。知らぬ間に女の前に立っていた、片目をつぶったまま、股間がちょうど女の眼前にあった。
 女は笑顔のまま視線を山空の足元から次第に上に上げていき、一旦股間のあたりで数秒停止、その後また上げて山空の顔へ。
 みつめあうふたり。

 床には砕けたどんぶりの破片と、ぐちゃぐちゃになったかき揚げ饂飩。
 贋造は空腹を思い出し、自分の山菜蕎麦を少し口に入れた。
 蕎麦はダルダルにふやけ、蕨は青臭く、細竹は固かった。
 ただ、なめこのぬるぬるが心地よくて嬉しくて贋造のペニスはまた、ひと回り膨張したのだがそれよりなによりこの愚かしく流れる空気に彼は懐かしさを覚え、遠く見えるような気がするその懐かしさの情景に、ついひとつぶの涙を。

 食堂に静が溢れている。


(つづく)

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