女性のカラダと生理について(近代医学と漢方)

妊娠可能な年齢にある女性のカラダ(初経12歳〜閉経50歳頃まで)ではおおよそ月に一度の周期で、妊娠に備えてホルモンが分泌され子宮内の環境が大きく変化します。それに伴い、体内での水分や血流(栄養素)の吸収と排出にも大きな変化が生じます。

こういった女性ならではの体の変化は正常なもので、何ら問題のあるものではありません。しかし、近年では働く女性の増加や生活リズムの多様化、人間関係のストレスなどを受けて、ホルモンバランスをとても崩しやすい状況にあります。ホルモンを分泌する神経系は原始的なシステムなので、身体や心の安定が保たれていないと、正常に働けなくなっていきます。今の社会において、規則正しい生活を実践するというのは大変難しいことかもしれませんが、少しでも身体の負荷を減らし、ストレスを上手に回避しながら心を安定させるようになると、このホルモンバランスを自己調整できるようになります。
女性ならではのこの生理という月経周期を楽しみ、女性であることをより楽しむために、女性のカラダの中でどんなことが起きていて、何が自分の生理期を不快なものにしているのかを知りましょう。

近代医学から見た生理(月経周期)

月経周期をつくり出すホルモンの変動と卵巣、子宮の様子

上記のグラフが、おおよそ1ヶ月間に女性のカラダの中で起きている変化です。

【月経周期とホルモンの影響】

身体に大きな変化をもたらす女性ホルモンの働きについて、簡単に解説していきます。排卵前に分泌されるのが『エストロゲン』と呼ばれる女性らしい身体づくりを助けるホルモンで、排卵後に増加してくるのが『プロゲステロン』と呼ばれる妊娠準備のためのホルモンです。

  • エストロゲン(卵胞ホルモン)
    女性らしさをつくるホルモンと言われ、生殖器官を発育・維持させる働きを持っています。子宮内膜を厚くして、妊娠に備えるホルモンです。
    ・乳腺や子宮に作用→乳房の発育・丸みのあるカラダ
    ・コラーゲンの産生を促す→美肌
    ・代謝が上がる→血管・骨・関節を健康に保つ
    ・自律神経を整える→精神の安定・記憶力があがる

    エストロゲン優位な時期は、妊娠に向けて心身が整えられていく時期になります。代謝が上がることで情動も落ち着き、冷静な判断ができる時期になります。セロトニンという幸せ物質も出ることがわかっていて、月の中で最も気分良く過ごせる時期になります。
    妊娠という重大な判断をする時期になるので、心身がスッキリとし、さらに女性の魅力で男性を惹きつけられるように働いています。

  • プロゲステロン(黄体ホルモン)
    排卵後から分泌量が増える、妊娠準備のためのホルモンです。エストロゲンによって厚くなった子宮内膜を柔らかくふかふかに維持して妊娠(着床)しやすい状態にし、妊娠した場合はそのまま妊娠を維持します。
    ・妊娠に備え身体に蓄える→水分や栄養を溜め込みやすい
    ・インスリンの効きが悪くなる→食欲を増やす
    ・基礎体温の上昇→子宮内膜を充血させ、ふかふかにし妊娠しやすく保つ
    ・エストロゲンの減少によるセロトニンの減少→気持ちが不安定になる
    ・エストロゲンの減少によるコラーゲンの減少→肌荒れ・シミ・そばかす

    エストロゲンがやや減少傾向になり、プロゲステロンが優位になるこの時期は、様々な不調を感じ始める時期になります。プロゲステロンは妊娠準備・維持のために体内に栄養素や水分を溜め込むように働くため、インスリンの効きを鈍らせる働きがあります。栄養価の高い飲食が多い現代では、空腹時に高い糖分を摂取してしまいがちで、血糖値が乱高下しやすくなります。血糖値の乱高下すると今度はアドレナリンの分泌が増え、やる気とともにイライラを増やしてしまい、情動が落ち着かないという現象が起きます。この血糖値の乱高下による情緒不安定が、カラダの不調を敏感に感じさせたり、過食。による肌荒れ・イライラを助長したり非常に大きな影響を与えていると考えられます。


【月経周期の各期間のカラダの状態】

月経の週(生理期間の5日〜7日ほど)
女性ホルモンの分泌は少なくなっていき、妊娠準備が進んでいた子宮内膜の排出がされます。この時期は妊娠状態として体内に溜め込んでいた栄養や水分が、排泄されていく時期です。排泄期には入っていますが、身体から体液を失っていく分、体内に水分を溜めておこうとするため、むくみが続く人も多いです。
また、子宮内膜を剥がす際、プロスタグランジンという子宮を収縮させ、不要になった粘膜を血液とともに体外に排泄するための物質が出されます。この物質が過剰に分泌されたり、血流が悪くなって排出が滞ると生理痛として痛みを強く感じます。

プロゲステロンの減少により、少しづつ食欲も落ち着いてきます。それでも、まだ心の不安定感は続いている状態で、カラダの不快を感じやすいです。
血液の排泄により体液バランスが大きく動くため、むくみを感じる人も多いです。むくみは、肌も敏感にしてしまいます。もともとプロゲステロンの影響が続いている生理時期には、肌のバリア機能が落ちていますので、むくみでさらに肌荒れが気になってしまうこともあります。


排卵前の週(月経終了から1週間ほど)
この時期は、エストロゲンの分泌が増えてくる時期です。女性らしさをつくってくれる上、幸せ物質のセロトニンの放出もしてくれる時期なので、とても情動が落ち着き安定して過ごせる時期になります。この時期は、体液バランスも本来の状態に戻りますので、ダイエットにもおすすめの時期です。新しいことを取り入れたり、前向きに頑張れる時期でもあるので、十分自分のペースをつくっておきたいですね。
このように『安定した時期が1週間程度しかないなんて…』と思ってしまうかもしれませんが、月のうちでも四季があるようで、それぞれの変化をしっかりと感じ取り、それぞれに備えることを楽しむことができたら良いと思います。いい時期も短いけれど、不安定な時期も決して長く続くわけではないということを知っておきましょう。そして、きちんと理解して備えられたら、不快な症状もずっと減らすことができます。


排卵後の週(排卵後から1週間ほど)
この時期からエストロゲンが減り、プロゲステロンが優位になってきます。そのため、食欲が湧いてきたり、エストロゲンの効果が下がり始めているのでなんとなく不安を感じたり、肌や体調にも少し不調を感じる人が出てきます。この時期を過ぎるとさらに情動が不安定になって、食欲をコントロールするのが難しくなってきます。その時期に備えて、自分なりのストレス解消法を見つけたり、今すべきことのリストや計画を立てることも重要になります。
身体面でもストレッチをしたり、マッサージをしたり、血流をよくして体調を整えておくと、月経時期の不調もグッと減らせるので、心地よく続けられるストレス回避方をいろいろ試してみてください。


月経前の週(生理前1週間)
この時期は、非常にストレスに敏感な時期になります。この時期に外的なストレス(職場の人間関係や家庭の問題など)で負荷がかかると、一気に過食や不眠といった不調を増長する原因行動を加速させてしまいます。情動が落ち着きを失ってきて、冷静な判断が難しくなっていますので、今やることに集中できるように事前に計画を立てておくことも重要です。
プロゲステロンがインスリンの効きを悪くするというのが、この時期を不快にする最も大きな原因になっています。食欲をコントロールするインスリンの影響はとても大きいものです。糖分の摂りすぎというのは非常に情動を不安定にさせ、さらに『食欲が止まらない・過食したくなる』という欲求に抑えを効かなくさせるのです。だからと言って、我慢を続けて2週間以上も過ごすことは難しいので、自分がリラックスできること・少量でも食欲を満たすもの・食事以外のストレス解消法を見つけて、糖質に依存せずに済むことが重要になります自分がリラックスできること・少量でも食欲を満たすもの・食事以外のストレス解消法を見つけて、糖質に依存せずに済むことが重要になります。食物繊維の多い食材(玄米)や粗い成分の糖(黒糖・麦芽糖)をよく噛んで摂取するというのは、血糖の上昇を緩やかにして食欲を抑えるのには非常に効果的です。


漢方学からみた生理(月経周期)

漢方学では、『女性は肝に先天する』と言われます。
(漢方学での肝は、肝臓とは捉え方が違います。)

肝は経血の元となる『血』を蓄え、月経や排卵を促す『気』の巡りを整えます。月経にとって大切な気血のバランスを支えているのが肝です。
そのほか、肝は『解毒』『自律神経』『情緒の安定』『運動機能』にも関わっています。

漢方ではホルモンバランスというよりも、この気血の巡りや量、肝の負担による情緒のバランスが生理(月経周期)に影響すると考えます。

* 漢方での用語と簡単な捉え方 *

生命エネルギーであり原動力です。空気のように、全身にエネルギー、熱を届け、バリアのように身体を守っています。

体内にある栄養のある水分です。全身に栄養と潤いを与えるもので、思考の源でもあります。

血以外の水分のこと。全身に潤いを与えるもの。むくみの素でもあります。

生理期の不快症状

〈不通則痛(流れの滞りによる痛み)〉

  • 肝鬱気滞
    ストレス緊張・情緒変動などにより肝気の流れが悪化し、痛みを生じる。生理痛と共に月経前症候群(PMS)も強い。

  • 血瘀
    血行不良による生理痛。精神的ストレスや冷えなどでむくみやすい体質の人に多い。
    生理とともに下腹部痛が始まり、経血量が減ると痛みも減少。

  • 気滞血瘀
    気血の両方が停滞していることも少なくない。

〈不栄則痛(気血の量不足による痛み)〉

  • 気血両虚
    気血の量の不足のため生理中や後半に下腹部がシクシク痛む。

  • 気虚
    過労や不摂生により気を消耗することによる。

  • 血虚
    偏食など食生活の乱れ、胃腸機能の低下による。

  • 肝腎陰虚
    血に関して腎と肝は深い関係にある。腎とは『生命エネルギーの貯蔵庫』『生殖器系』『水分代謝』と関連があります。
    過労・不摂生・慢性的な体調不良・加齢により陰液(血と水)が減少することによる。

〈その他〉

  • 寒凝
    冷え性・冷たい飲食物の摂取、薄着・寒冷な場所での仕事や生活による。
    生理前や整理中に下腹部痛が出る。温めることで痛みが減少する。

  • 湿熱
    体内で過剰な湿邪と熱邪が溜まり、結合することによる。脂っこいものや刺激物の過剰摂取、不衛生な環境が原因。
    生理中に下腹部に灼熱の痛みが出る。


漢方学での生理の不快症状は、生活習慣や体質による影響と考えられます。そのため、日常的に生活・体質改善することが重要になると考えられます。
血流を良くしたり、代謝を改善する漢方薬も効果的です。

また、気血水の巡りは体勢を変えたり、骨格を整えるためにバランスよく筋力をつけることもとても効果的です。現在はデスクワークやリモートワークで一日中座りっぱなしという人も多いでしょう。
そういう場合には、1時間に一度くらい体勢を変えたり、少し身体を動かすだけでも巡りが改善されます。また、正しい姿勢の保持が難しかったり、部分的に脂肪がついてしまうという人は、気血水の巡りも部分的に滞っているサインになります。自分の身体に注意を向けて、どこが弱いのか知るサインを感じ取りましょう。

自然妊娠と月経周期

現代の女性の妊娠は、自然妊娠がどんどん少なくなってきています。人生設計も多様化して結婚や出産年齢が上がっていることも大きな要因になっていますが、ストレスによる生理不順や無理なダイエットによる無月経といった女性の心身を酷使したことによる影響も大きくあります。

5.5組に1組が不妊に悩むと言われ、2018年に体外受精で生まれた子どもは過去最多の5万6979人(日本産科婦人科学会公表データ)と報告されている今、妊娠を望む世代にとって決して不妊は他人事ではありません。
もっと心身の状態をよく保ち、心地よく女性ならではの生理周期を味わえるように、不快な症状を改善していきましょう。


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