月の満ち欠けとワイン。ビオディナミ農法その1
ビオ(オーガニック)について
ビオディナミの前に、すこしフランスのビオ事情についてお話ししたいと思います。
なぜならば、ビオディナミというのは、ビオよりもさらに厳しい究極の自然リスペクト農法だからです。
フランスでは、オーガニックのことをビオといい、厳格な認証制度があります。農作物、畜産物、加工食品、飼料などに関しては、この基準をパスすると、AB(Agriculture Biologique)認証ラベルがつけられます。
さらにEUの基準に準拠することが求められているので、こんなマークが二つ並んでいます。
(左がEU、右がフランスのビオ認定マーク)
1980年代に、大量に使われていた農薬や除草剤などによる環境への影響が社会問題になりました。
そこでフランス政府は、1990年代から国をあげて有機栽培農業の促進を行ってきました。有機農業の生産者に対する減税や財政支援、消費者への啓発活動など、地方自治体とともに、積極的に取り組んでいます。
いまはどんな田舎でもビオショップを見かけるし、普通の大手スーパーにも、必ずビオコーナーがあって、たくさんの商品が並んでいます。ビオ農産物や食品だけのマルシェもあります。
価格もそれほど高くなく、約7割の人が日常的に利用しているそうです。
2020年のAgence BIOという組織の調査では、月一回、週一回、毎日、という人が合わせて73%、また47%の人が週一回または毎日消費する、と答えています。
ビオディナミとは
そんなフランスですが、じゃあビオディナミって?
ビオディナミ(La biodynamie)は、有機栽培であることを前提とした上で、さらに宇宙や自然との調和に重きをおいた農法です。
ブドウ栽培のためだけの農法ではありませんが、ワイン愛好家の方ならご存知なのではと思います。
全ての生命は、宇宙のエネルギーとリズムの影響を受けているという概念をもとに、約100年前にオーストリアの人智学・哲学者のルドルフ・シュタイナーが提唱しました。生体力学農法ともいうそうです。
宇宙と自然のエネルギーを得て、農地と農作物全体の活力をあげることで、安定的かつ持続的な生産が可能になるというもの。そして、そこから真に人の健康に良いものが生まれるという、農業技術の範囲を超えて哲学を取り入れた農法です。
特徴は三つ。
1. 農場や庭をひとつの農業生命体とし、自立した存在としてとらえる
2. 太陽、月、12星座といった天体のリズムにあわせて作業する
3. 薬草、牛糞と角、水晶で作った堆肥を使用する
まずひとつめ、農場とその周辺一帯の生態系をひとつの生命体としてとらえます。土壌、水、作物や周辺の植物、家畜や野生動物、昆虫、微生物にいたるまで。もちろんそこで働く人々もです。そのすべての存在が互いに作用しているのです。
農地の生態系と生物多様性を守ることで、単一農法とは対照的に、病気や干ばつなどに対する耐性の向上が認められ、回復力もあるしっかりした農作物に成長するとのこと。
ふたつめ、天体、月の運行(満ち欠けと位置)によって変わる大地のエネルギーとリズムの影響を考慮します。
たとえば月が黄道12星座の前を通過する日によって、葉っぱ、根っこ、花が活性化する日が変わるとしています。そのため、月や星座の位置を記した「種蒔きカレンダー」を見ながら農作業をします。ワイン造りにさいしては、ブドウの種を植えたり、剪定や、収穫をする日、瓶詰めの時期などが決まります。
よく考えれば(考えなくても)、すべての生命が月や天体の影響を受けているというのは、全く不思議ではない気がします。わたしたちは宇宙のなかに存在しているのですから。
(ビオディナミック種まきカレンダー)
三つめの特徴は、牛糞と角、薬草、砕いた水晶で作った堆肥を使用することです。さまざまな組み合わせがありますが、これらの堆肥を温水で一時間ほど攪拌したものを、植物全体と土壌に噴霧。
これで土壌は活性化し、植物の外に出ている部分、花や葉などの病気に対する抵抗力が上がるのだそうです。噴霧する量は、なんと1ヘクタールにつき4gだけだというから、驚きです。
家畜の飼育や養蜂も
ビオディナミでは、農地の生態系・生命体のなかで、動物たちも重要な役割を果たしており、なくてはならない存在。動物の繁殖や消費自体に反対するビーガンとも立場が異なります。
家畜の繁殖や飼育をおこないますが、彼らを人間のための道具としてあつかうのではなく、繊細な感情をもつ生き物として接します。
その土地にほんとうに合った種類の動物をむかえ、自然のなかでのびのびと心地よく過ごせるようにし、健康な大地の草を食べさせ、身体の部位を自然のまま保ち(角や尾を切ったりしない)、全体のバランスをとるため繁殖数を制限するなど、最大限の配慮をおこなっているそう。
宇宙と、自然と、生命
ビオディナミは、スピリチュアル的、哲学的ということで、懐疑的な見方をされることもあるようですが、現在ではさまざまな点が科学的にも立証されはじめ、ビオディナミに転向する農家の数は年々増えているそうです。
現代人でも、自然にふれあっていると、感性が澄んできますが、昔の人たちは、現代人よりもずっと自然の近くで生活していたのですから、あたりまえのように見えない力を感じ、自然に受け入れて生活していたのでしょうね。
地球温暖化による気候危機など、人類の活動によって引き起こされたあらゆる環境問題は、多くの点でつながっています。崩れてしまった地球全体の循環バランスの回復をめざすための、ひとつの概念であり、哲学がビオディナミだと思います。
さて、そんなビオディナミでワインを造っているシャトーが、わが家の近くにあります。先日試飲に行ってきたので、次回はそのときの様子をお伝えしようと思います。
(右側がDemeterというビオディナミ認証機関のラベル)
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